#1 身勝手なコンピューター
「物事には結果というものが付きまとう。結果は起きてみないと判らない。それを予想してしまうと、一つの結果しか存在しないじゃないか。それが今までのコンピューターの解析結果だ。量子コンピューターって言うのは、いつも結果が無数にあって、その中から正しい結果を選び出せる。結果を知ってしまえば、その計算方法も単純化出来て、速く済む」
「また難しくなってきました」
「例えば100年後の天気予報さえ可能になる」
「その結果を先に知る方法が解りません」
「コインの裏表を当てるゲーム。裏か表を当ててみる時、コインに裏表があることが前提になってる」
「そうじゃないとインチキ出来ます」
「インチキしようって人には、結果が解ってるってことだ。でもそれを当てる側の人には、コインを見るまで、その結果は分らない」
「それはそうですけど、やっぱり勘でないと当てることは出来ません」
「そう、つまり結果を見る前までは、何も知らないから表である可能性は50%。裏である可能性も50%。両面表のインチキコインを使われても、両面裏のコインでも、当てる側からすれば、結果を見るまでは、その可能性は50%ずつだ。これはかなり高い確率だよ」
「それ以外は絶対に出ないですから」
「そう思うかい?」
首をかしげて聞く睦美に、飛鳥山は自分の左手の甲を、右手で押さえて見せた。
「手でコインを隠せば、そこにコインが存在してるかさえも、定かじゃないと思わないか?」
「そうですね」
「そうなれば、コインが在るか無いかの確率は、0か100」
「じゃ、裏か表が出る可能性も併せて考慮したら、0~100%の幅が出来ちゃって、余計に予想が付きません」
「量子世界では、計算条件が増えれば増えるだけ、予想は困難になっているんだ」
「単純に結果を決めることさえできたら、逆算すれば現実の方が予想に付いてくるってことですね」
「うん。そこで量子が身勝手な振る舞いをしてくれることで、おのずと予想通りの結果に結び付いていく」
「理解出来たかもしれません」
作品名:#1 身勝手なコンピューター 作家名:亨利(ヘンリー)