#1 身勝手なコンピューター
「何か難しい理論が存在したんですか?」
「真逆だよ。物理学の理論や我々の知識や論理が通用しないと判ったのだ」
「科学の理屈が通じない? どういう意味・・・」
「科学者たちは、その量子がどのように進んで、ぶつかり合って壁に光の縦じま模様を作るのか観察しようとしたんだ。すると、観測装置を取り付けた途端、光は元のような縦じまを作らなくなって、壁をただのムラとして照らしてしまったんだ」
「何か条件が変わっちゃったてことでしょうか?」
「どうだろうね。普通そう考えるだろう。どんなにスリットを抜ける光に影響を及ぼさないように工夫しても、人が観測していると量子ってやつは、身勝手にその振る舞いを変えてしまうんだよ」
「そんなことあり得ない」
「ところが事実として観測されてしまってるんだ」
「量子って、まだまだ謎だらけって感じですね」
「人がこうじゃないとおかしいって思うことなんか、人が勝手に決め付けてただけで、それこそが身勝手で、私は量子世界じゃ、それに寄せて物事は起きてるのかもって考えたんだ」
「間違いがあっても、それに気付いてないって、さっきの話に関係ありそうですね」
「その通り」
飛鳥山は睦美から目を逸らして、窓の外を見た。
「例えば夜景って言うのも、光の量子の産物だ。その夜景を見てると、遠くを走る車のヘッドライトが見えるけど、その車に乗ってる人間は、ホントに存在してるんだろうか」
「え? すごい疑問ですね。でも量子の世界観じゃ、どんなことも有り得るってことかな?」
「実際に乗ってる人は、私たちと同じ人間なんだろうけど、私から見えるその人は、私と同じ数だけの細胞で出来てるのだろうか」
「遠くて小さいから、省略されてるかもしれない・・・?」
「そうそう。量子物理学が解って来たね。遠くて小さいから、ここからじゃ正確に確かめようがないんだ。でも近付くと」
「急に普通の人間として存在してるように見える!」
「そうだよ。きっと自分と同じ人間に違いないって決め付けてるから、量子がそういう結果に結び付けてくれるんだ」
「かなり、強引な理論のようですけど、私も量子をもっと理解しなくちゃ」
「だから結果を決めておいて、それに至るまでの過程を当てはめていけば、正しい未来が解るって理論も、あながち間違ってはいないだろう」
「そうですね。それは面白い理論です。でもそんなことが現実にあって、それをコンピューターに利用するなんて、途方もないことのように思います」
作品名:#1 身勝手なコンピューター 作家名:亨利(ヘンリー)