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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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#1 身勝手なコンピューター

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「そうだよ。きっと自分と同じ人間に違いないって決め付けてるから、量子がそういう結果に結び付けてくれるんだ」
「かなり、強引な理論のようですけど、私も量子をもっと理解しなくちゃ」
「だから結果を決めておいて、それに至るまでの過程を当てはめていけば、正しい未来が解るって理論も、あながち間違ってはいないだろう」
「そうですね。それは面白い理論です。でもそんなことが現実にあって、それをコンピューターに利用するなんて、途方もないことのように思います」

「物事には結果というものが付きまとう。結果は起きてみないと判らない。それを予想してしまうと、一つの結果しか存在しないじゃないか。それが今までのコンピューターの解析結果だ。量子コンピューターって言うのは、いつも結果が無数にあって、その中から正しい結果を選び出せる。結果を知ってしまえば、その計算方法も単純化出来て、速く済む」
「また難しくなってきました」
「例えば百年後の天気予報さえ可能になる」
「その結果を先に知る方法が解りません」

「コインの裏表を当てるゲーム。裏か表を当ててみる時、コインに裏表があることが前提になってる」
「そうじゃないとインチキ出来ます」
「インチキしようって人には、結果が解ってるってことだ。でもそれを当てる側の人には、コインを見るまで、その結果は分らない」
「それはそうですけど、やっぱり勘でないと当てることは出来ません」
「そう、つまり結果を見る前までは、何も知らないから表である可能性は50%。裏である可能性も50%。両面表のインチキコインを使われても、両面裏のコインでも、当てる側からすれば、結果を見るまでは、その可能性は50%ずつだ。これはかなり高い確率だよ」
「それ以外は絶対に出ないですから、二つに一つの可能性です」
「そう思うかい?」
首をかしげて聞く睦美に、飛鳥山は自分の左手の甲を、右手で押さえて見せた。
「手でコインを隠せば、そこにコインが存在してるかさえも、定かじゃないと思わないか?」
「そうですね」
「そうなれば、コインが在るか無いかの確率は、0か100」
「じゃ、裏か表が出る可能性も併せて考慮したら、0〜100%の幅が出来ちゃって、余計に予想が付きません」
「現実には計算条件が増えれば増えるだけ、予想は困難になってくるんだ」
「単純に結果を決めることさえできたら、逆算すれば現実の方が予想に付いてくるってことですね」
「うん。そこで量子が身勝手な振る舞いをしてくれることで、おのずと予想通りの結果に結び付いていく」
「理解出来たかもしれません」

「じゃあ、簡単な実験をしよう」
 飛鳥山は、さっき自分が入っていた部屋の鉄の扉を指差した。
「あの壁に鉄のドアが二つ並んでるだろ。君がどっちかに入って隠れたら、君自身はどちらに居るかは100%分っているのに、ワシには判らない。ワシが当てる確率は?」
「0〜100%(笑)」
「はっ! ははははは、それはドアの向こうに入らないで、他のどこかに隠れる可能性もあるってことだね」
「へへへへへ」
「意外な発想をしたね。でも、それもこの試作コンピューターなら計算出来るんだよ」
睦美はまたコンピューターを見上げた。
「どんな方法でですか?」
 飛鳥山はその装置の電源を入れた。コンピューターは冷却ファンの大きな音を立てて起動した。

「これでこの部屋の中は量子世界になった」

「面白そうですね」
「量子物理学に沿った演算方法で、身勝手な量子の振る舞いよって、結果から行程が導き出される。その過程を逆算して、現在の君の行動と一致する未来を当てるんだ」
「量子には、そんなことが本当に出来るんですか?」
「なかなか言葉では説明しにくいから、実際にコンピューターに予想させて見せよう。ワシは目を瞑って椅子に座って居るから、その間にどちらかのドアに入って、待機してくれたまえ」
 飛鳥山は手元のキーボードで、試作コンピューターにカチャカチャと入力した。

   キィーーー! ガチャン!!

「先生、入りました!」
「よし。今君の声がどちらのドアから聞こえて来たかは判らない。でもドアの向こうに居るんだね」
「はい」
「そう答えたということは、君はどちらかのドアの向こうに100%存在しているはず。でもそれは君側から見た時の確率だ」
「先生側からだと、私は左右どっちか、50%ってことになるんですね」
「その通り、君がドアを開けて現れるまで、『宇野君は左右に半分ずつ存在している』と、このコンピューターは認識しているだろう」
「じゃ、先生から見たら、先生はそこに100%存在しているけど、私から見れば、居るか居ないか、0%か100%ってことですね」
「声が聞こえていれば、居る方の100%だ。じゃ、始めるよ」
「そうか。じゃ声が聞こえないように耳を塞いじゃったら、どうなるかしら」
 睦美はしばらく耳を塞いだが、何も聞こえないと教授の次の指示が分からないと思い、耳から手を離した。しかし、暫く待っても飛鳥山教授の声は聞こえない。

     ・
     ・
     ・
   「先生?」
     ・
     ・
     ・
     ・
     ・
   「先生!?」

   ガチャン! キキィーー!!

 睦美はドアを開けた。彼女は左側のドアから現れた。しかし、飛鳥山の姿はどこにも見当たらない。足の悪い教授が素早く隠れたり、部屋を出たりすることは不可能だと思われた。

「せんせい〜。椅子に座ってるんじゃなかったんですか〜?」

「冗談はやめてくださ〜い」

 睦美はコンピューターのモニターに目をやった。
そこには、『左のドアの確率が100%です』と表示されている。
「予想的中させたのね」

(でも、先生はどうしちゃったのかしら、コンピューターに聞いてみよう)
『飛鳥山先生は、今どこに居る?』と入力してみた。
するとコンピューターはすぐに、モニター上に回答を表示した。

『飛鳥山教授は存在しません』

(・・・あ! 私が耳を塞いじゃったから、0%の確率が・・・)


     終わり