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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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#1 身勝手なコンピューター

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「昔の計算機は電気のオンオフの切り替えに真空管を使ったって聞きますけど、それが今は半導体で意図的に電気信号を切り替えることが出来るようになって、トランジスタの小型化が進んだんでしたよね」
「そうなんだが、そこに限界が来てしまったんだ」
「これ以上小型化が出来ないってことですか?」
飛鳥山は頷いた。
「君が今、手に持っている基盤には、最新のICチップ(集積回路)が埋め込まれている。昔は片手で持てないような代物だったのに、今は小指の爪の先に載せられるほどになってしまった」
「この黒い小さいのが、人の脳みその代わりだなんて信じられませんね」
「物は小さいが、その中には無数の回路が引かれて、電気が流れている。つまり電気が流れる線幅は髪の毛の何千分の一の細さにまでなってしまっているんだ」
「それを作る技術ってすごいですよね。私はそういう研究をしたくて、電子工学科に入ったんです」

「なら、宇野さんの将来はおしまいだね」

「え?」
 睦美はこれを聞いて不安にならざるを得なかった。
「サッカー選手をより小さく、更に小さくしていくと限界があることに気付かないかい?」
「無限に小さくは出来ないってことですか?」
「そう。物質の最小単位は原子だったね。今の集積回路の線幅はもう原子の大きさくらいまで細くなってしまっていて、これ以上細くは出来ないんだよ」
「そ、そうなんですか」
「つまり、現代のコンピューターをもっと高性能にしようとしたら、逆にどんどん大きくなってしまってコストがかかり、将来的には電力を食うお荷物ってわけだ。それじゃ一般人は使わないだろうから、研究する価値がない」
 睦美は不安な表情のまま質問した。
「じゃ。これからはどんなコンピューターが必要になるとお考えですか?」
「既存の技術の進歩は望めないなら、演算手法を進化させるしかない」
「では、先生の研究って言うのは、今までとどこが違うんですか?」

「発想の転換だよ。普通に計算するんじゃなくって、計算しないで結果を見付けるんだ」