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亨利(ヘンリー)
亨利(ヘンリー)
novelistID. 60014
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#1 身勝手なコンピューター

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「今までの物理の法則は、大体証明され尽くしていて、新しい理論はほとんど生まれてこないんだ。これじゃもう、新しい発明を期待出来ない」
「そうですね。既存の技術の延長線上にしか、未来はないってことですね」
睦美の表情に力が戻った。
「そうそう。解って来たね。例えば証明されていない物理現象でも、観測して事実だって分かっていることもある。逆にアインシュタインの相対性理論なんて、観測される前から予想してしまって、証明されてないのにその理論で科学は進められてきた。それは結果を決めていれば、途中は気にしなくても構わないってことだよ」
飛鳥山は笑いながら椅子に腰かけた。

「それに観測結果なんて本当に正確かどうか、分かったもんじゃない」
「その観測機器の性能次第ですね」
「そうじゃないんだ。観測機器は正確なもんだ。現代の集積回路のたまものだから」
「それじゃ間違うはずはない、ということですか?」
「正確じゃないのは、物理現象の方なんだ」
「条件が変われば結果が変わる・・・」
「いいや、条件が変わらなくても、結果はいくつも存在するとワシは考えている」
「今話しているのは、物理学の原理に基づいた現象ですよね。なら、その原理にそぐわない結果なんてあり得ないんじゃないでしょうか」
「その常識で世の中は動いているが、ワシが研究する量子物理学の世界じゃ、それが間違っていたって判り始めているのだよ」
「量子の世界って、つかみどころがない概念みたいなものですか?」
「現世そのものなんだけど、今まではこの存在に気付けていなかったから、世の中を偏った理解しか出来ていなかったんだ」
「難しい話になりそうですね」
 睦美はまた眉間にしわを寄せた。しかし今回は前のめりに聞き入っている。

「確かに難しいかもしれない。君の常識が間違っているって信じるにはね」
「例えば、どんなことが?」
「光は光子という量子で出来ている」
「知っています」
 飛鳥山は右手の人差し指を立てて、ちょいちょいと振りながら、
「光はまっすぐ進むと思いがちだが・・・」
「重力に影響を受けて曲がります!!」
その突然の睦美の発言に、飛鳥山は指を振るのをやめた。すると睦美はまた結論を急いでしまったと感じ、反省した。
「すみません」
「ははは、常識で見れば物理学的にはその通りだ。だが量子物理学的に見れば、光は身勝手なくらい自由に飛び回っているんだ」
「発光源の向きに関係なくですか?」
「そう。どこでも曲がるし、広がったり集まったり」
「イメージしにくいです」
「有名な光のスリット実験の話は知ってるかい?」
「なんか聞いたことあるような気はしますけど、よく知りません」
「量子物理学を勉強するには、まずそれを受け入れることが重要だ。その実験では、光を壁に当てると、壁が明るくなる。当たり前だね」
「はい」
「しかし壁と光源の間に一枚、縦にスリット(隙間)がある板を置くと、光はそのスリットを通り抜けた分だけ壁に当たる」
「少し暗くなるってことですか?」
「うん、そうなるのも当然だ。物理学の世界じゃね。でも注目してほしいのは、光の照らす範囲は、スリットの幅よりも広くなっているってことだよ」
「光は広がりますからね」
「発光源が出す光の方向性がそうするんじゃなく、まっすぐに入って来たはずの光が、スリット以降、急に広がり始める」
「うん。不思議と言うほどでは」
「細い隙間を通って、まるで屈折したかのように広がってるのは不思議じゃない?」
「そういう現象があるんなら、事実でしょうし」
「証明出来なくっても、観測出来たら信じるんだね」
「ああ、そうか。私はそういう考え方なんですね」
睦美は微笑んだ。
「ふふふ、それでいいんだよ。でもそうも言ってられなくなるから」

 飛鳥山はまた、人差し指を立てたゼスチャーを交えながら、
「光って言うのは実は鉄砲玉みたいにまっすぐ飛ぶ物質じゃなく、ただの波みたいなものなんだ」
「波長とか、波動とか」
「そう。海の波は水っていう物質が、風によって引き起こされる波動だ。光は量子そのものが波動で、その波は空間によって引き起こされているんだ」
「ははあ、ちょっと興味出てきました」
「では、スリットが二本ある板を通った光ならどうなるだろうか」
「光源が一つで、スリットが二本なら、左右の隙間を通り抜けた光がそれぞれ広がって、真ん中だけ二重に照らされて明るくなると思います」
「ははは、そう思うかい? 実際は違うよ」
「どうなるんですか? それ以外結果が思い付きません」
「光は波だから、まっ直ぐ進みながら揺らいでるのかもしれないな。左右のスリットを波が抜けたと想像してみたまえ、左右から中心に向かって広がる波同士がぶつかって、大きなうねりになる。その結果、壁には光が大きく増幅して当たる個所と、そうでない箇所が出来てしまう」
「なるほど。ということは、壁の明るさにはムラが生じるってことですか?」
「ムラどころか、はっきりとした縦筋になって、規則的にいくつも照らされるのだ」
「そういうことか。そんな現象は見たことなかったから知らなかったけど、何か新しい可能性を感じますね」
「そうかい? でもそう思った科学者たちには、混乱や絶望のもとになったんだ」
「何か難しい理論が存在したんですか?」
「真逆だよ。物理学の理論や我々の知識や論理が通用しないと判ったのだ」
「科学の理屈が通じない? どういう意味・・・」
「科学者たちは、その量子がどのように進んで、ぶつかり合って壁に光の縦じま模様を作るのか観察しようとしたんだ。すると、観測装置を取り付けた途端、光は元のような縦じまを作らなくなって、壁をただのムラとして照らしてしまったんだ」
「何か条件が変わっちゃったてことでしょうか?」
「どうだろうね。普通そう考えるだろう。どんなにスリットを抜ける光に影響を及ぼさないように工夫しても、人が観測していると量子ってやつは、身勝手にその振る舞いを変えてしまうんだよ」
「そんなことあり得ない」
「ところが事実として観測されてしまってるんだ」
「量子って、まだまだ謎だらけって感じですね」
「人がこうじゃないとおかしいって思うことなんか、人が勝手に決め付けてただけで、それこそが身勝手で、ワシは量子世界じゃ、それに寄せて物事は起きてるのかもって考えたんだ」
「間違いがあっても、それに気付いてないって、さっきの話に関係ありそうですね」
「その通り」

 飛鳥山は睦美から目を逸らして、窓の外を見た。
「例えば夜景って言うのも、光の量子の産物だ。その夜景を見てると、遠くを走る車のヘッドライトが見えるけど、その車に乗ってる人間は、ホントに存在してるんだろうか」
「え? すごい疑問ですね。でも量子の世界観じゃ、どんなことも有り得るってことかな?」
「実際に乗ってる人は、ワシらと同じ人間なんだろうけど、ワシから見えるその人は、ワシと同じ数だけの細胞で出来てるのだろうか」
「遠くて小さいから、省略されてるかもしれない・・・?」
「そうそう。量子物理学が解って来たね。遠くて小さいから、ここからじゃ正確に確かめようがないんだ。でも近付くと」
「急に普通の人間として存在してるように見える!」