#1 身勝手なコンピューター
#1 身勝手なコンピューター
「先生。・・・先生?・・・・・・飛鳥山先生!!!」
ガッチャン! キィーーーー!!
「ここです。ここに居ますよ」
奥に二つ並ぶ鉄のドアの右側が開いて、中から顔を出したのは、この大学で教鞭をとる飛鳥山教授である。研究室を覗いた宇野睦美は、奥の鉄のドアの音に驚いて立ち尽くした。
飛鳥山の研究室はまるで倉庫のような部屋だった。そこには新しい概念で組み立てられたコンピューターの試作品が設置されているが、その武骨な外観は天井まで届く高さである。
「先生、今日の授業、ちょっと解りにくかったから、少しお聞きしたいんですが」
研究室の入り口のドアを閉めながら、睦美は話した。彼女がこの部屋に来たのは初めてだったが、好奇心旺盛な性格ゆえ、物怖じせず一歩前に進んだ。
「ああ、理解出来なかった学生は他にもいただろう。でも聞きに来るかどうかの選択肢は全員にあるが、実際に来るかどうかは私には判らない」
「・・・ええ、私は理解したいと思って聞きに来ました」
睦美は教授の話に論点が見えず、少し目を細めて話した。
「そうだね。宇野さんには、私のところへ来るかどうかは分っていたのに、私には判らなかったんだよ。これは不思議なことだとは思わないかい?」
飛鳥山は障害のある左足を引きずりながら、杖を突いて作業机に近付いた。
「特に、不思議ではないと思いますけど」
「ははは、その考え方じゃ、今日の授業は難しかっただろう」
「はぁ、まるで言葉遊びみたいな、何と言うか、わざと話を難しくしているようにしか受け取れませんでした」
「私には当たり前で、宇野さんには意外なことなら、コンピューター予測は、どっちに寄せて計算すればいいと思う?」
「結果をはっきりさせたいなら、当たり前と考えている方を選択したら、より正確な予想が立つと思いますけど」
作品名:#1 身勝手なコンピューター 作家名:亨利(ヘンリー)