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ふたりでひとり

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 素朴な考えだが、これが一番しっくりくる。だが、今自分が感じたような思いを、ここで待っているこの連中が感じていてほしくないという思いもあった。
 やはり自分の中で根本的に、
――自分はこいつらとは違うんだ――
 という思いがあるからだった。
 部屋にはマンガが置いてあり、奥ではテレビがついていて、昼のワイドショーをやっていた。
「夜になると人が多くなるので、昼下がりのこれくらいの時間が一番いいんだ」
 と連れてきてくれた先輩は言っていた。
 一番いい時間でこれだけの人がいるということは、夜になるともっと待合室は混むということだろうかと考えたが、
「夜は皆予約してくる人が多いので、それなりに流れは早いんだ」
 と教えてくれたが、昼は飛込のような人がおおいのだろうか?
 中には飛込のような人もいるが、そうでもないように思える人もいるような気がする。そう思うと、皆やっていることは似たようなことをしているのに、醸し出す雰囲気が違って感じられるのは、予約の有無もあるからだろうか。
 中西はテレビを見ながら、絶えず室内を見渡していた。人の観察だけではなく、室内の壁などを見ていると、目のやり場に困ってしまうくらいになった。
 壁にはこの店の所属している女の子が下着姿でニッコリと笑ったポスターが貼ってある。どうやらプロの写真家が撮ったのであろうが、ポーズも決まっていて、皆綺麗に写っているので、もし指名するとすれば誰にするか迷うところである。
 ただ、もう指名する相手は先輩が決めてくれているようだった。そのことは話してくれなかったが、落ち着いているのを見るときっとそうなのだろう。
 待合室に入ってからの先輩はまるで他人であるかのように中西に話しかけてはくれなかった。
――連れてきてくれたのはありがたいが、放置プレーは困ったものだ――
 と思っていた。
 ひょっとすると、店に入ると友達同士でも他人のふりをするというのが、こういうところでの暗黙の了解と言えるのではないかと思ったが、どうやらそうではないようだ。
 確かに友達と思えるような人でも、マンガを見たりして皆思い思いのことをしている。要するに、待合室というのは、これからのプレイへの準備段階であり、気分を盛り上げるためには、一人でいる方がいいに決まっている。
 何といっても、待合室を出れば、そこから先は女の子と二人きりの世界なのだ。友達とは隔絶された世界である。そうでもなければ、わざわざ大金を払ってお店に来る必要もない。
 初めての待合室で、そんなことを考えていると、気が付けば、待合室のメンツは半分以上が知らない人に変わっていた。人数もさっきよりも少し減ってきていて、女の子の準備ができて呼ばれて行った人よりも、新しく来店した人の方が少ないと言えるのではないだろうか。
――この待合室に入って、それくらい経ったのだろうか?
 時間を見る限り、十五分以上は経っていた。
 これくらいの時間が果たして長いのか短いのか分からなかったが、中西にはどちらともいえない気分になっていた。
 ただ十五分という時間は自分には意外だった。最初は長いと思ったが、よく考えてみると長いと感じる根拠がどこにもない気がしてきた。かといって短いと感じるわけではない。やはり最初の直感通り、長かったと感じるのが自然なことなのだろう。
 中西はマンガを射ているわけではなく、テレビの画面を見ていたが、意識として入ってきているわけではなかった。ただ、画面上見えているものを、聞こえてくるものとを、ただ受け入れているだけだった。そこに感情はなく、時間だけが過ぎ去っていたのだった。
「七十五番のお客様」
 と呼ばれ、無意識に番号札を見ると、呼ばれたのが自分であることに気付く。
 その頃になると、最初の緊張は消えていた。十五分という時間が緊張を打ち消してくれたのか、それともいよいよ自分の順番ということになって、肝が据わってきたということなのか、中西にはハッキリと分からなかった。
 だが、表に出て、男性スタッフから、
「お待たせしました」
 と言われた時、さっきまでの胸の鼓動とは違ったドキドキした感覚が新たに生まれたことで、最初の緊張が切れていることに気付いた。
 禁止事項の確認のあと、
「カーテンの向こうに女の子がおりますので、どうぞお楽しみください」
 と言われ、送り出された。
――いよいよここからがメインイベントだ――
 と思い、カーテンを開けて中に入った。
 すると、ネグリジェのような衣装をまとった女の子が、腕に纏わりついてきたのである。完全に恋人気分だった。
 今まで彼女がいなかったというわけではないが、いきなりこんな関係になったことはない。というよりも、こんなことをしたこともなかったことを思い出した。
 最初は付き合っているわけではないので、友達から入る。そのうちにお互いを気にするようになって、どちらからともなく付き合うという構図が出来上がる。
 しかし、その頃にはいわゆるカップルとしての新鮮さはなかったような気がした。イチャイチャしようという気分にはならない。元々知り合いだったという感覚で、付き合い始めるとそこは、
「大人としての付き合い」
 に従事するようになる。
 そうなると、好きな人との関係がどのようなものかということを思い知らされる気がした。
 それまでは徐々にではあったが、相手が自分に近づいてきて、付き合うということになり最接近したという意識になってくる。そうなると、そこで一度立ち止まって自分が相手に考えていること、相手が自分をどのように思っているのかということを確認しないわけにはいかないと思うのだ。
 それは、接近することだけを見てきたために、まわりを見ていなかった自分に気付いたということでもある。気付いたということは気付かせてくれた何かが存在するということであり、それが自分の潜在意識によるものなのか、相手のコンタクトによるものなのか分からない。そう思うと、ここまで近づいた相手に一歩立ち止まって、まわりを見る気持ち、そして、客観的に自分を見るということをしなければいけないと思うようになっていた。
 だから、この時相手の女の子にされたようなイチャイチャはありえなかった。
 だが、相手は恋人でも彼女でもない。いわゆるその時間だけのカップルでしかない。よくよく考えてみれば虚しく思えるのだろう。実際に新鮮で嬉しい気分の反面、相手が恋人でも彼女でもないという意識は強かった。むしろその思いを持っていないといけないと思っていた。
 なぜなら、それが現実であり、いくら好きになったとしても、それは虚空でしかないということが分かっているからだ。
 今まで、お互いに付き合うことになるかも知れないというところまでは行く。そのまま付き合うこともあったが、本当にお付き合いというものをしたのかどうか、自分でも分からないくらいになっていた。
 だから、この店での時間内だけとはいえ、カップルになれるのは新鮮だった。
――俺はこれを求めていたのだろうか?
 とさえ思うくらいで、彼女に誘導されるように個室に入る時は、心臓はバクバクとなっていた。
作品名:ふたりでひとり 作家名:森本晃次