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ふたりでひとり

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 と呼ばれるような人たちにはそのようないでたちが多く、それも時代の流れとともに変わって行っているもののはずなのに、小説家というイメージだけが孤立したまま、時代に乗っかってきたのかも知れない。
 それを思うと、小説家という仕事が、
「モノを作るパイオニア」
 というイメージで尊敬の念に値すると思っている反面、その外見から発する異様な雰囲気に惑わされてはいないかという疑念もあり、
「一般の人とは隔絶された世界を形成している一種の変人」
 というイメージを持っている人がいても、不思議ではない。
 確かに他の人と違った雰囲気を持っている人が多いのは否定できないが、だからといっていきなり変人という扱いになるのは、いかがなものか。
 そんな小説家に興味を持つ人が世間にはごまんといるだろう。出版社が特ダネ目当てに「おっかけ」を行うというのも、無理のないことなのかも知れない。
 川上紹運が隆正を見出したのは一体、いつ、どこでだったのだろう?
 その話を紹運は誰にも語ろうとしない。ただ、彼の類まれな作品は、彼の中から醸し出されるものであり、何かを考えてはいるのだろうが、最後には感性で作品を書きあげる。
 紹運はそんな隆正に自分のデビュー当時を思い出したのかも知れない。しばらくの間隆正は紹運の元にいたが、紹運がさすらい癖があるため、そのうちに、隆正が独立するようになったのだという。
 隆正も自宅はあるのだが、執筆に自宅を使うことはあまりなかった。紹運ほど神出鬼没ではないが、秘境と言えるような山奥の温泉だったり、入り江になった他の土地と隔絶されたかのような小さな漁村に身を寄せて書くことが多くなった。
 紹運先生の書く小説は、歴史ものであったり、都市伝説のようなオカルト系の小説が多かった。隆正も都市伝説のような話を書いたり、怪奇小説などを書くことが多い。紹運先生に短編が多いのと比較すれば、隆正の小説は長編が多かった。
 一つの小説を書きあげるのに、二人ともその場所を移動しようとは思わない。描き始めたらその場所で最後まで書くというのが二人に共通した作品を完成させる方法であった。
 紹運先生には昔からのファンがついていた。子供が読んでも分からないような作品は玄人好みとして、評論家のウケはよかった。だが、一部の評論家からは、
「陳腐で低俗な作品」
 という酷評もあった。
 だが、それはどんな小説家にもあるもので、しかも王道のジャンルでなければ、批判したがる評論家は一人や二人はいるものだ。特に玄人好みの大人の小説にはつきものだと言ってもいいだろう。
 逆に隆正の小説は大衆ウケする作品と言っていいだろう。ジャブナイル作品もあれば、大人向けの作品もある。しかも彼の書くスピードはかなりのもので、一冊の本になるくらいの長編を書きあげるのに、一か月と少しでできるのだ。
「そんなに簡単に書けるものなんですか?」
 と中西は舌を巻いたが、
「集中すればできるんだよ」
 と、笑いながら答えていたが。そこには嫌味も何もなく、編集者の人も、
――この人ならできるんだろうな――
 と、妙に納得できるところがあったのだ。
「集中するのって難しくないですか?」
 というと、
「そんなことはないですよ。書き始めれば自分の世界を作ることができる。その世界にドップリ使ってしまえばいいだけですからね」
「先生のような怪奇小説などにドップリ浸かるというのは想像もできませんね。恋愛小説だったり、青春小説のように自分が経験したかも知れないことや、願望であれば、いくらでも入り込めそうな気がするんですけどね」
 と中西が聞くと、
「そうかも知れないけど、私は違うんだ。自分の経験したことのない世界だから、いくらでも自由に発想できる。ただ、昔に見たであろうテレビやマンガなどの影響がないとは言えないので、そこは少し気になるところですね」
「そうですよね」
「でも、それはそれでいいじゃないですか。想像力というのは果てしないものだと私は思っているので、入り込んでしまうと何か結果を出すまではその世界に入れるんだって思っていることが小説を書ける秘訣なんじゃないかって私は思っています」
 という隆正の言葉を聞いて、
「なるほど、そうかも知れないですね。過去の経験だけではなく、見たり聞いたりしたものを題材にするという発想ですね」
「ええ、でもそれはあくまでも題材というだけで、メインにしてはいけない。そこが難しいところであり、書いていて物書き冥利に尽きるというものなのかも知れないですね」
「紹運先生も以前似たようなことを言っていたような気がしましたが、少し違う考えもあるようですよ」
「というと?」
「小説を書く時集中するというのは同じなんですが、紹運先生は自分の経験から書くことはないと言われていました」
「それはどういうことですか?」
「自分は、小説に書けるような内容のことを経験などしたことはないそうなんです。逆に言うと、自分が小説に書きたいことは、自分が経験したことのないような内容なんだそうです」
「紹運先生はどんな経験を今までしてきたんでしょうね?」
「ええ、私も興味がありますね。今の先生の行動パターンからは、十分数々の経験をしていると思うんですがね。でも先生は面白いことを言ってましたよ」
「どういう面白いことですか?」
「自分がどんどん新しい経験をしていけば、経験度は上がるでしょう。だから書ける範囲はどんどん狭くなってくる。そんな中から新たな作品を生み出すのが醍醐味だというんです。私はそれを聞いて逆に先生は違うことを考えていらっしゃるのではないかとも思ったんです」
「それは?」
「確かに範囲が狭まる中で書くのは醍醐味かも知れないけど、先生はひょっとすると経験値というものは果てしないもので、それを小説を書くことで自分なりに証明しようと思っているのではないかと思うんです」
「なるほど、それなら紹運先生らしいと言ってもいいですよね。紹運先生というのは私などが及びもしない発想を抱いていることがある。それを思うと今のお話も承服できるところが十分にありますね」
「私も出版社に入っていろいろな小説家の先生を見てきているので、目は肥えていると思うんです。ですが、紹運先生というのは、かなり破天荒な方だという思いがします。川上紹運おそるべしというところでしょうか?」
 と言って中西は笑った。
「私も早く紹運先生のような小説家になれればいいと思っているんですけどね」
「大丈夫ですよ。山下先生は紹運先生のお墨付きを頂いている人じゃないですか。もっとご自分に自信を持てばいいんです」
「自分に自信ですか? それは怖い気がするんですよ。自信過剰になりすぎるということで怖いと言っているのではなく、自分の中にある何かを裏切っていくような気がするんです。ただの感覚でしかないんですが」
 実はこの感覚を一度小説に起こしてみたことがあった。
作品名:ふたりでひとり 作家名:森本晃次