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短編集83(過去作品)

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 どちらがいい悪いの問題ではない。ただ、それぞれの性格が序実に表に表れているだけなのだ。そう考えると人間観察も面白いものだ。どうしてこの二人がそこにいるのか興味が出てきた。
――どんな話をしているのだろう?
 態度に興味を持つと、今度は会話の内容が気になって仕方がない。知りたいと思えば思うほど勝手な想像に花が咲き、思わず楽しんでいる自分に気付く。
 別れ話だろうか? もしそうだとすれば、どちらからのものだろう? 男からではないのは明白に思う。もし男からであるならば、これほどオドオドはしないだろう。
 オドオドしているのであればそれだけ女性が怖い存在でなければならないが、落ち着いているだけで、男を睨みつけている感じではない。二人の間に不穏な空気は流れていないのだ。
 では女の方から?
 それも考えにくい。少なくとも別れ話を持ってきた女の顔ではない。もしそうならば、もう少し申し訳なさそうな顔をするか、男に嫌気が差したのなら、一瞥をくれるくらいの表情をしてもいいだろう。開き直っていると言えばそれまでなのだろうが、それにしても無表情である。何より男は女に対してオドオドしているのではなく、明らかにまわりに対してオドオドしている。
 女の表情はある程度開き直りを持っている。電車の中にいる時は清楚な大人の雰囲気を持った女性というだけの雰囲気だったが、男と二人で相手の目を見ながら話している様子からは、気の強さを測り知ることができる。
 真崎は今までに自分が付き合ってきた女性を思い浮かべてきた。
 高校に入り、最初に付き合った女性、それは第一印象が自分の思い浮かべていた女性そのものだった。
――幸せだ――
 と何度感じたことだろう。
 だがそれは最初だけで、付き合っていって相手を知れば知るほど、それほど甘いものではないことを思い知らされた。
 清楚な感じは変わらない。自分に対しての態度もそれほど変わらなかったが、目で何かを訴えているのだけは分かった。
 最初こそ何も言わなかったが、そのうちに愚痴が多くなり、何に不満があるのか分からないまま、会話のないお互いを窺っているようなぎこちない関係になっていった。
 彼女とは自然消滅であった。お互いに何かを言いたかったのだろうが、言葉に出すことを恐れ、気持ちの重さや苦しさから逃れることだけを考えた結果なのだろう。若かったせいもある。彼女がまわりを必要以上に気にしていたのではないかとも思う。だが真実は分からない。
――結局別れてしまった――
 この事実だけが残ったのだ。
――反省はするが、後悔はしたくない――
 と常々思っているが、別れたことに対して反省なのか後悔なのか自分でも分からない。今が成長したとは言いがたいが、まだまだ恋愛に対してウブだったのだ。
 二人目に付き合った女性。この女性が今までで一番深く心に残っている女性だった。
 あまり一目惚れを信じる方ではない真崎が、後にも先にも一目惚れしたのが、二人目に付き合った女性だった。
 最初に付き合った女性とは自然消滅だったくせに、なぜか尾を引いていた。いろいろなことを想像して気持ちを膨らませることの多かった真崎は、別れてからも気持ちの整理をつけるのに時間が掛かったのだろう。それを未練がましいというのであれば、それでもいい。なぜか素直に納得できる。
 だが、今度好きになった女性は、本当に一目惚れだった。
――これほど好きになる女性は、もう現れないだろう――
 と最初から感じたほどで、その考えに間違いはない。だが、人を好きになる年齢もまちまちだろうし、結婚してからだと気持ちも若干変わるはずだ。だから一概には言い切れないところがあるのだが、それでもその時に感じたことは、今でもその通りだと思う。
 やはり第一印象は自分の思っていたような女性で、清楚な雰囲気から醸し出されるものは、最初に付き合った女性と変わらなかった。だが、彼女には最初に付き合った女性にない妖艶さを感じていた。それは視線に感じたもので、最初に付き合った女性にはないものだった。
――可愛らしい女性が好きだったはずなのに――
 学生時代から水着のグラビアアイドルよりも、少年漫画などに載っている清楚な女の子の方に興味があった真崎にとって、それは自分の理想を今一度思い返す機会でもあった。
 しかし、よくよく考えると清楚な感じの女性に興味を持つのも、その中に潜在している妖艶さを知らず知らずに垣間見ているからだと思えてくるのだ。
 喫茶店で男と向き合っている女性、彼女の雰囲気が、二人目に付き合った女性に似ている。じっと相手を見つめる目、その目をじっと見ていると、瞳の奥に吸い寄せられそうになるのだが、
――ここまでくれば、じっと奥まで観察してやれ――
 と逆の開き直りも出てくるのだった。
 それにしても男もオドオドする必要などないような気がして、見ているとじれったく感じられる。
 男の目が次第に虚ろになってくるのを感じていた。女性に見つめられて虚ろになってくるのは甘い心地よさからではない。まるで催眠術にでも掛かったような無表情で、意志を感じることのできないそんな目である。
 女の目には、何か固い決意のようなものが見受けられる。どうしても引き下がることのできないような表情に硬さは感じないが、それだけに訴えるその目に迫力があるのだ。
――もし、目の前にいるのが自分だったら――
 真崎はそう考えると、男の気持ちが分かってくるような気がする。
 まず、何よりも、その場から離れたい。だが離れてしまうときっと後悔することは分かっている。離れたいが離れられない気持ちが相手の目を見つめるという行動にしか出られないのだ。
 だから目を見つめる。見つめると相手の術中に嵌ってしまう。それでも目を離すことができないと、気持ちの中で知らず知らずに拒絶反応を示してしまい、それが目を虚ろにさせ、催眠術にでも掛かったような気持ちになってしまうのだろう。
 目の前の男も、きっと今考えたような経緯だと思えて仕方がない。当たらずとも遠からじであろう。
 それにしても、女の男を見つめる目、電車の中で見た女性と同一人物だとは思いにくい。男にしてもそうだ。あれだけもう一人の女性とベッタリくっついていたにもかかわらず、今のこの状況は理解できるものではない。
――なぜ最初にそのことに違和感を覚えなかったんだろう?
 どう見ても仲のいい二人のそばにいて、ただじっとしていた真面目な女性の構図だったのに、それがなぜ、真面目な女性に見つめられてオドオドしている男性になっているのか不思議である。
 それにしても喫茶店の中の二人のエリアだけが浮いているように見えるが、他の客は何とも感じないのだろうか。軽やかで心地よい暖かさのある雰囲気の中で、明らかにそこだけが重たい。冷たい風が吹いているようにさえ感じる。
 確かに喫茶店というところ、いろいろな人がきて話をすることで、いろいろなドラマが展開される。ドラマの主人公は自分になることもあるだろう。だが、まわりの客は観客ではないのだ。自分それぞれが主人公だと思っているので、雰囲気が違う客がいるとしても見て見ぬふりをするのもいたし方のないことかも知れない。
作品名:短編集83(過去作品) 作家名:森本晃次