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短編集83(過去作品)

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 目の前を舞い上がるタバコの煙を見つめながらボンヤリとしている。タバコなど二十五歳になる今まで吸ったことなどなかったのに、急に吸い始めた。本来ならこの歳でやめる人が多いのに、実に不思議なことだった。
 夜になると無性に吸いたくなる。寂しさを醸し出すような暗い部屋で一人いると、タバコの煙から目が離せなくなってしまう。タバコにそんな魔力があるなど、今まで考えたこともなかった。
――そういえば、淑恵はタバコの煙を嫌がる女性だったな――
 一度だけ淑恵を抱いたことがあった。あれは完全に成り行きだった。成り行きで男性に抱かれるなど今でも考えられない淑恵は、その時本当にどうかしていたのだろう。
 真っ暗な部屋に浮かびあがる真っ白な肌はスベスベしていて、まるで、白蛇のように妖艶だった。真っ暗な中漏れてくる吐息は、今思い出してもゾクゾクしてくるようだ。
 そんな淑恵に後悔などなかったのか、一度のひと時を口にしようとしない。忘れてしまいたいのかとも思ったが、時々じっと星野のことを見つめていた。そのあとだっただろうか、淑恵が平群と付き合い始めたという噂を聞いた。
――淑恵は器用な女性ではない――
 一度に二人を気にかけられるほど器用ではない。しかもそれぞれ相手に悟られないようにしようとすればきっとボロガ出るはずだ。淑恵とはそんな女だった。だからこそ、星野は惹かれたのだ。
 弟がいて弟のことを気に掛けてのを知っている星野は、淑恵が年下を好む気持ちが分かる気がした。しかし、弟がグレていた時期を知っているので、果たして自分のような平凡な男性や、平群のように変わっているが自分の存在を消すような男性に惹かれることはないだろうと思っていた。それだけに、余計気になるというもので、高嶺の花として見ていたのだ。
 今から考えても、自分だけ成り行きで、その後どうして平群を選んだのか不思議でたまらない。自分との相性に、あまりにも隔たりを感じたことで、まったく違う性格である平群に惹かれたと考えれば、納得できないこともない。しかし、最近本当に自分が平群を意識するほど違う性格だったとは思えない。
――ひょっとして似たもの同士ではなかったのだろうか?
 一見まったく違うように感じられるが、同じようなところがあって、そこが気になるからずっと意識していたようにも思う。それは平群にしてもそうだろう。そのことを淑恵は知っていたのではないだろうか?
 星野の方の意識の方が強く、淑恵はその重みが分かったのかも知れない。意識過剰なところのある星野の性格を最初から見抜いていたのかも知れない。それは、あまりにも平凡に生きてきた当時の星野自身には感じることのできないものだった。
 一度の成り行きの後、淑恵が自分に対しぎこちなくなり、どうしていいか分からなくなった時、自分から去っていった淑恵を見ているとホッとした気分になったのが正直なところだ。それがまさか意識過剰な相手である平群と付き合い始めるようになるなんて……。星野のショックは大きかった。
――なぜだろう?
 そればかりが頭を巡った。そこで見つけた結論の一つが、
――平群を正反対な性格だと思っていたが、実は似たもの同士――
 というものだった。しかしそれでも決定的にどこかが違うのだろう。自分が考えているよりもその溝は大きく、それを知っているのが淑恵なのかも知れない。
 そんな二人が旅行先で死んだ。事故だったのだが、星野には淑恵が弟のところに行っただけのような気がして不思議と悲しさはない。平群にしても同じだ。確かに気持ちが通じ合えないような溝があることは感じるが、意識はずっとしていた。しかし死んでしまうとその意識が永久に消えることはない。二人はずっと自分のそばにいるのだ。
 今淑恵や平群のことを考えるとなぜかススキが広がる大平原を頂上に向かって進んでいる淑恵と平群を思い浮かべることができるのだ。今では平群の頭の中で想像していたものが見えるようだ……。
 そして、頂上から微笑みかけるように二人が、自分の心の中に話しかけている。
「いつまでも平凡で生きていてください」
 と……。

                (  完  )


作品名:短編集83(過去作品) 作家名:森本晃次