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空想科学落語~Space Raccoon~

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「おいおい、そりゃ穏やかじゃねぇな……可哀想だ、放してやんな」
「やだい!」
「まあ、そう言わずに……ほれ、ここに十文あらぁ、これで天ぷらでも何でも買って食いな、その代わりそいつを放してやっちゃぁくれねぇか?」
「おいらたち三人だよ、十文じゃ二つしか買えないじゃないか」
「そ、そうか? お前ぇ算盤ちゃんとやってやがるな……あと二文か……ちょっと待てよ、確かこっちの袂に釣銭が……ほら、あったぜ、こいつをやるよ、これで三つ買えるだろ?」
「うん、わかった、この狸はおじさんにやるよ、狸汁にでもなんでも……」
「そんなこたぁしねぇよ、でもありがとよ」
「わ~い!」
 子供たちが走って行ってしまうと、八つぁんは縄を解いてやります。
「危ない所を助けてくれてありがとう、このご恩は決して忘れないよ」
「へぇ、生きてるだけじゃなくて喋るのか!」

 なぜ坊やが日本語を聞き分けるだけではなくて喋ることまでできるのか……それは高度な自動翻訳機を持ってからなんでございます、空想科学落語と銘打ちますからには科学的な説明も必要でございます、そうでなくとも江戸の芝浜って所で『ん?』と思ってらっしゃる方も多いでしょうから……。

「外にいちゃぁまた子供に見つかっちまわぁ、とりあえず俺の長屋に来な」
「いいの?」
「ああ、一緒に来な……って、歩いてちゃおかしいな、俺が抱えて行ってやるから動くんじゃねぇぞ、置物のふりをしてな」
 ところ変わって八っつぁんの長屋でございます。
「ときに、お前ぇは何もんだ、どうしてあそこに居たんだ?」
「おいら、R星人なんだ」
「R星? なんだ? そりゃぁ」
「ず~っと遠くにある星だよ」
「星? 夜に見える星か?」
「うん」
「にわかにゃちと信じられねぇが……いいだろう、お前ぇはR星からやって来たって信じることにすらぁ、でもよ、どうして? どうやって?」
「R星に隕石がぶつかって粉々になっちまうってんで、おとっつぁん、おっかさんと一緒に宇宙船でR星から飛び出したんだ、長い長い旅をして、やっとこの星を見つけたんだよ、でも宇宙船が故障しちまって、最後は脱出カプセルに乗ってやって来たんだよ」
「おとっつぁんとおっかさんは?」
「脱出カプセルは一人乗りなんだ、だから三人バラバラになっちゃったんだよ」
「そうか、だがよ、二人ともどこかそう遠くないところにいるんだな?」
「うん、無事に着いていればだけど……」
「でぇじょうぶだ、きっと無事だよ……だけど、今はお前ぇ、ひとりぼっちってわけだ……よし、いいぜ、おとっつあんたちが見つかるまでここにいな」
「本当? ありがとう、おいちゃんは親切な人だね」
「まあ、博打さえやらなきゃいい奴なんだがな、ってよく言われるけどな……しかし、お前ぇ、妙な格好だな、信楽焼の狸そっくりだぜ」
「これはこの星の生き物じゃないの?」
「いや、狸って生き物には違ぇねぇんだがよ、そいつを面白可笑しく変えて焼ものにしたのがお前さんのその格好なんだよ」
「そうだったんだ、草むらでこういうのを見つけたもんで、てっきりこの星の生き物かと思って化けたんだよ」
「おい、ちょっと待て……今なんて言った?」
「草むらで……」
「いや、その後だ」
「化けた……」
「お前ぇ、化けられるのか?」
「うん、まだあんまり上手くはできないけど」
「そうかい、ちょっと待ってくれよ……こいつに化けられるか?」
「これは何?」
「サイコロってんだ、どうだい? できるか?」
「うん、出来るよ……これでいい?」
「そんな大きい賽はねぇよ、もちっと小さくならねぇのか?」
「おいらはまだ化けるの憶えたてなんで、大きくなったり小さくなったりはまだ出来ないんだ」
「そうか、残念だな……いや実はよ、俺ぁ博打が好きでなぁ、夕べはすっかり取られちまってすってんてん、さっきのがなけなしの十二文だったのよ」
「え? おいらの為に全財産を……」
「まぁ全財産っちゃぁ全財産だったがよ、十二文じゃそばも食えねぇぜ」
「でもなにか恩返ししなくちゃ……」
「そうだなぁ……子供をダシにするのは気が引けるけどよ、お前ぇのその姿は使えるぜ、物は相談なんだが、ちょいと見世物小屋に出てもらえねぇかな」
「何をすればいいの?」
「曲芸だな、綱渡りとかとんぼ返りとか」
「子供なんで、そう言うのはまだちょっと……」
「そうだよな……いや悪かった、俺が真っ当に働けば良いだけだ、すまねぇ、このとおりだ」
「そんな……頭なんぞ下げないでよ」
「朝帰りで眠いっちゃぁ眠いがよ、小せぇけどお前ぇって言う養うモンも出来たんだ、ちょっくら仕事に行って来るぜ、いいか? ここを出るんじゃねぇぞ、狸汁にされたくなかったらな」
「あ、行ってらっしゃい、うん、わかった、誰か来ても戸は開けないよ……うん……うん…………良い人だなぁ、命の恩人だよ、それに留守番の心配までしてくれて……なにか恩返し出来ないもんかなぁ……そうだ!」

「おう、今帰ったぜ」
「お帰りなさい、疲れてるだろうけど、ちょっと芝浜まで一緒に行ってもらえない?」
「芝浜へ? かまわねぇが何をしようってんだ?」
 二人は芝浜へと向かいます。
「なんだい? こりゃぁ 妙なもんが砂に埋まってるじゃねぇか」
「おいらが乗って来た脱出カプセルだよ、壊れてなけりゃ飛べると思うんだけど」
「飛ぶ? お前ぇがこれに乗ってか?」
「うん、宇宙まで出る馬力はないけど、地面に激突しないように反重力装置が付いているからちょっとなら飛べるはずなんだ、試してみるね」
「おおっ? 本当だ、飛んでるぜ、こりゃたまげた!」
「どう? おいらがこれに乗ってヒョイと顔を出してたら見世物にならない?」
「なる! こりゃ評判になるぜ」
「こんなんで良ければいつまでもやるよ」
「いや、ほんの十日ばかりでいいぜ、確かに今はからっけつだけどよ、子供を働かして遊んでていいわけなんざねぇよ、ちっと当座の金がありゃぁいいんだ、そしたら俺ぁ博打をやめてまっとうに働くことにするぜ」

 八っつぁんが見世物小屋に売り込みますともう一も二もなく是非にも出てくれと。
「東西東西ぃ、これよりご覧に入れまするは狸にございます、狸は狸でもそんじょそこらの狸とはわけが違う、生きた置物、信楽の狸そっくりの生きた狸にございます」
 坊やが舞台に現れて跳んだりはねたりするだけで見物はやんやの大喝采。
「変わった生き物があったもんだ」
「あら、カワイイ」
「さて、この狸、跳んだりはねたりするだけではございません、これなる茶釜に乗って空を飛んでご覧に入れまする、それっ分福茶釜が空を飛びまする!」
 脱出カプセルに乗り込んだ坊やが見物の頭上を飛び回りますと、見物はびっくり仰天、そしてやんやの大喝采!
 もちろん、瞬く間に江戸じゅうの評判になります。
 そしてその評判は坊やのおとっつぁん、おっかさんの耳にも届きます……並ぶようにして飛び出して行った二人は品川の浜に不時着して、地球人に姿を変えて坊やを探していたんですな。
「あんた、狸が空を飛ぶんだって……」
「ああ、ぼうずかも知れねぇ……茶釜ってのはたぶん脱出カプセルだな」
「きっとそうだよ」
作品名:空想科学落語~Space Raccoon~ 作家名:ST