空想科学落語~Space Raccoon~
「ああ、善は急げだ、今から行ってみようじゃねぇか、その見世物小屋ってのに」
「ああ、ぼうや……無事だったんだね……」
二人が見世物小屋に足を運びますと、それはまさしく脱出カプセル、乗っているのは狸に姿を変えてはいても坊やに違いありません、おっかさんは堪らずに。
「坊や~っ!」
「え? その声は……もしかしておっかさんかい?」
「そうだよ、おっかさんだよ、無事に会えて良かったよぅ……」
「ぼうず! 今までひとりでよく頑張ったな!」
「あっ、おとっつぁんも……」
空飛ぶ芸はそっちのけで感動の親子対面となりましたが、その頃の江戸っ子に『飛ぶのをやめるなら金返せ』なんて無粋な輩はいません、何だかわからないけど何だか感動する、涙を誘う、それで良いんでございます、ショービジネスへの対価を量ではなく質で計る、気分を良くしてくれればそれで満足する、真に正しい姿勢でございまして、その点、寄席のお客様はその辺りを良く理解されていらっしゃるので噺家は幸せ者でございます。
「そうかい、おとっつぁん、おっかさんと会えたんだな、良かった」
「ウチの倅が危ない所を助けて頂いたそうで、その上今日までお世話していただきまして、なんとお礼を申し上げれば良いのやら」
「いいってことよ、たいしたこたぁしてねぇよ……ぼうず、良かったなぁ、これからは三人一緒に仲良く暮らしな」
「え? もう見世物はいいの?」
「はなっから言ってただろ? ほんの十日ばかりでいいってよ、なのにずるずるともう二十日も働かせちまったぜ、礼を言わなくちゃいけないのはこっちの方だ」
「でも……」
「いいってことよ、親子は一緒に暮らすのが一番だ」
「ありがとう! おいちゃん、ちゃんと約束を守る立派な人だね」
「約束を守れねぇなんてのは盗人と一緒だよ、そんな奴は八丈行きにでもしてやりゃいいんだ」
「え? 八畳敷き? あれは邪魔でいけないや」
お後がよろしいようで……。
作品名:空想科学落語~Space Raccoon~ 作家名:ST