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意識の封印

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 この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、場面、設定等はすべて作者の創作であります。似たような事件や事例もあるかも知れませんが、あくまでフィクションであります。それに対して書かれた意見は作者の個人的な意見であり、一般的な意見と一致しないかも知れないことを記します。また専門知識等はネットにて情報を検索いたしております。ご了承願います。

                 直子との再会

「世の中には、俺なんかの知らない世界が、まだまだたくさん存在するものだ」
 桜田竜馬がそう感じるようになったのは、三十代も後半に差し掛かった三十六歳のころだった。
 彼女がいた時期もあったが、長続きはしない。最高でも半年続けばいい方で、その半年と言っても、実際に彼女彼氏と言える時期は、一か月か二か月くらいだったのではないだろうか。
「熱しやすく冷めやすい」
 そんな性格をしていたくせに、相手から離れて行かれる素振りを見つけると、急に不安になるのか、まるでストーカーのような雰囲気に変わってしまう。
「追いかけたって、どうなるものでもない。情けないと思わないのか」
 と言われればそれまでなのだが、もちろん、そんなことは分かっている。
 分かっていて、どうすることもできないのは、まだ自分が若いからなのか、それとも恋愛経験が乏しいからなのか、きっとそのどちらもであろう。
 若いということにも幾分の解釈がある。世間の理屈たからくりがわかっていないという若さ。さらに、自分を抑えることができないという、抑制力よりも欲望の方が強いことが引き起こす感情を、若いということを理由に正当化させようとしている打算的な自分が理解できないことも若さと言えるのかも知れない。
 竜馬が思春期を迎えたのは遅かった。中学二年生の頃まではまったく異性に興味もなく、肉体的にもまだ子供だった。声変わりを感じたのも中学三年生になってからで、背丈も背の順に整列すれば、前の方だったのを覚えている。
 どうかすれば、女の子に自分よりも背の高い子がいたくらいで、背が低いことに関しては、結構コンプレックスを持っていたような気がする。
 元々竜馬が女の子に脅威を持ったというのも、きっかけはおかしなものだった。
――こんなのは自分だけだろうから、恥ずかしくて誰にも言えないよ――
 と思っていたが、案外皆似たようなものだったのかも知れない。
 竜馬が気になったのは、好きな子ができたからではない。クラスメイトの男子が、女の子と一緒にいて楽しそうに見えるその顔が羨ましかったというのが、竜馬が感じた最初の異性への意識だったのだ。
 相手の女の子の楽しそうな顔というのも、もちろん意識したであろうが、それよりも男子の普段では見たことのないような楽しそうな蚊を見ると、
――俺にもあんな顔ができるのだろうか?
 という思いとともに、
――俺にも彼女ができればあんな顔になれるんだろうな――
 という思いがあり、その思いが徐々に強くなっていき、それが確信に変わった時、
「俺は異性への興味に目覚めたんだ」
 と自分に言い聞かせることができるようになっていた。
 つまり、女性への興味というよりも、女性に興味を持つことで自分がどのように変わっていくのかということに興味があったのだ。
 だが、女の子の笑顔を見ていると、自分も知らず知らずに笑顔になっていくのを感じた。どうしてそんな風に感じるのかということをずっと考えていたが、その思いは急に閃きとともに分かってしまったのだ、
――そうだ。制服が眩しいんだ――
 セーラー服であっても、ブレザーであっても気になってしまう。
 これは、中学に入学した頃からそうだったはずなのだが、それを認めたくない自分がいたのではないだろうか。彼氏と一緒に微笑んでいるその笑顔を見て、制服の眩しさを再認識したのであって、その時初めて感じたものではなかっただろう。
 思春期に突入するのは中学三年生と確かに遅かったのだが、その片鱗は中学に入学した時からあった。そう思うと、
「思春期というのは、前兆があり、それが長い人もいれば短い人もいる。ほとんどの人はそれを意識していないが、意識することができるとすれば、きっと思春期が終わってからのことだろう」
 と感じるようになった。
 実際、竜馬がそれを感じたのは高校二年生になってからのことで、その頃から大学受験を意識するようになっていたので、すでに思春期を抜けていた竜馬は思春期に感じることのできなかったことはもうすでに意識しないようにできるほど、頭の中では冷めた状態になっていたのだ。
 ただ、制服への思いはひそかに持っていた。悶々とした気持ちになった時、制服の女の子を見ては、ムラムラしていたが、ただそれだけだった。それは理性があったからというよりも、単純に勇気がなかっただけ、それを自ら認められるだけマシなのではないかと、竜馬は思っていた。
 さすがに制服が好きだなとというと、まわりから白い目で見られるのは分かっていたので誰にも言っていないが、分かる人には分かっていたことだろう。誰もそのことに触れなかったが、それと同時に彼に近づいてくる人はいなくなった。それは男子も女子も一緒で、隠そうとすればするほど滲み出てくるものがあったのかも知れない。
「制服フェチとか、マジヤバいよね」
 などと喫茶店で話をしている女子高生を見ると、いかにも自分のことを言われているようで、逃げ出したくなるが、情けないことにそこから立ち去る前に、足が動かなくなってしまった。
――まるで針の筵だ――
 とも思ったが、それも自業自得なのではないかと思う自分もいて、そう感じる自分に対して、
――感じるだけならタダじゃないか――
 と擁護する自分もいる。
 どっちが本当の自分なのだろうか?
 ただ一つ言えることは、
「こんな性格であれば、ずっと彼女なんかできっこない」
 ということである。
 何とか隠し通そうとしても、結局分かる人には分かるのだから、隠し通せるものでもない。だからと言って自分から公開するほどの勇気があるわけでもないし、公開するのであれば、カミングアウトをしても、まわりに不快な思いを与えないようにしなければいけない。果たしてそんなことが可能であろうか? その頃の竜馬は、
――自分にそんなことできるはずがない――
 と思っていたのだ。
 だが、この性格を持ったまま生きていかなくてはいけないのは分かり切ったことで、どうすれば一番いいのかを考えることが先決だった。
 ヲタクという言葉も高校時代に知った。いろいろなフェチがいるということだが、フェチとヲタクは違うとは思うが、それは、
「ヲタクにフェチは大分、フェチだからと言って、ヲタクだというわけではない」
 という思いに近い。
 もし自分がフェチだと言われてもそれほど怒ることはないが、ヲタクだと言われると怒っていたかも知れない。
 ただ、それは高校時代までで、大学に入るとヲタクも悪くないような気がしていた。
 テレビドラマなどで、あまりにも過度な演出をしているから、イメージが悪くなると思うのであって、要するに、
「一般的な趣味趣向とは違ったものを好む人」
作品名:意識の封印 作家名:森本晃次