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左端から見れば全部右寄り Part-6

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6.昔、オリンピックがあった……



 今から概ね二十数年後の話でございます。
 
「おじいちゃん、オリンピックって何?」
「ああ、あったなぁ、二十年くらい前までそんなのが……四年に一度、世界中から国を代表する選手が集まって、二週間にわたって色んなスポーツの試合をしたんだよ」
「ふうん、どこでやってたの?」
「世界中の色々な都市でだよ、東京でも二回開かれたし、冬のオリンピックって言うのもあってね、それも札幌と長野で一回づつ開かれたんだよ」
「いろんなスポーツって、どんな?」
「陸上競技、水泳、球技、体操、レスリング、柔道……二回目の東京オリンピックでは五十種類の競技があったはずだよ」
「五十種類も? すごいスポーツ大会だったんだね」
「そうだね、『スポーツと平和の祭典』って言われてね、世界中の国々から選手や役員、観客が集まって来くるだろ? そして地元の市民や選手同士で交流する、そのことでお互いの理解を深めて世界平和に貢献するって言うのが理念だったよ、その点では単なるスポーツの大会を超えていたね」
「でもさ、そんな大きな大会を開くのって大変なんじゃない?」
「そりゃそうさ、準備に七~八年はかかったものだよ」
「へえ、でも、そんな大会を開けるような都市ってあったの?」
「かかるお金も労力も一つの都市では背負いきれないから、実際には国が開くような感じになっていたな」
「ふぅん」
「オリンピックを立派に華やかに開けることが国の豊かさを世界に示すことになったし、しっかり運営できることが国民の優秀さの証にもなってたんだよ」
「それって、なんだかスポーツの大会ってレベルじゃないね」
「そうだな……どの国や都市も立派なスタジアムや体育館、屋内プールなんかも作ったし、選手村って言って、何万人も宿泊できる施設まで建てたからね、国を挙げてのイベントになったな」
「それって無駄が多くない?」
「確かにね、だけど選手村は大会後にはマンションやホテルとして使ったし、スタジアムや体育館もそのまま使ったからね、全くの無駄と言うことでもなかったんだ、でも世界中から注目されるから立派なのを作ろうとして無理をしたのも確かだね、あまりにもお金がかかるから小さな国では開催できないって声も上がっていてね、大会ごとに『コンパクトな大会にしよう』とか『既存の施設を最大限に使ってお金のかからない大会にしよう』とか言ってたけど、実際には予算は大幅にオーバーするのが普通だったよ、世界中から注目されるし、競技のレベルも最高だからそれぞれの競技団体からもそれにふさわしい施設を望まれたしね」
「そうなんだ……」
「でもね、それ以上に国際オリンピック委員会・IOCの影響は強かったかもしれないね、開催に立候補したい都市は、こんな施設を作って、こんなオリンピックにしますってIOCに提案しなくちゃならなかったんだ、既にある施設を使うにしても綺麗に改装したり大きくしたりして、他の都市より立派にオリンピックが出来ますよってアピールする必要があったからね、選考段階で示す予算は低く見積もっておいて、実際にオーバーしてもIOCには責任がないからね」
「IOCって国連の機関か何かなの?」
「いや、『国際』なんてついてるからそう思われがちだけど、ただの民間団体だよ」
「それが国を動かすくらいのスポーツ大会を仕切ってたの?」
「そうなんだ、IOCがやることと言ったら、西暦何年のオリンピックはどこでやるか決めるのがメインで、あとは施設の建設具合を視察したり、運営の方針を聴いたりして、立派なオリンピックを開かせることだけ、IOCがお金を出したり建設や運営に携わることはなかったんだ」
「なんか……偉そうだね……」
「その通りさ、委員には貴族や王族も多かったらしくてね『ああしろ、こうしろ』と言うだけ言って自分は何もしないのを当たり前だと思っている人も多かったんだろうね、大会期間中は超高級ホテルを貸し切りにしてくれとか、移動はファーストクラスにしてくれとか、三ツ星レストランに連れて行けとか、VIP待遇を要求してたみたいだ、もちろん費用は開催国持ちでね」
「それっておかしくない? それでもオリンピックやりたい都市や国があったんだ……」
「大抵は三か国ぐらいの争いになったね、実際にはもっと多くの国が立候補したんだけど、やっぱり小さな国が開くのは無理な規模になっちゃって、最終候補に残れるのは大きな国ばかりになってたんだ」
「どうしてそんなにオリンピックやりたかったんだろう……」
「色々あるよ、大きなスタジアムや選手村を作るために仕事が増えるし、いろんな国から観戦に来る人が大勢やって来て、観光もして行ってくれるだろ? TV局の放映権料も入るから経済効果があったんだ、都市や国を挙げてのお祭りだから国民の意気もあがるしね……それと、国によってはそれだけじゃなくて色々な思惑も持ってたんだ」
「どんな?」
「我が国はオリンピックを開けるほど豊かになったんだって世界中に示そうと考えたり、何か悪い評判があった国は『我が国はこんなに平和とスポーツを愛する国なんだ』って示そうとしたり……国民の愛国心を煽ろうとしたりね」
「愛国心を煽ってどうするの?」
「ま、戦争に向かって国民の士気を高めるためだな」
「『スポーツと平和の祭典』だったんじゃなかったの?」
「確かにね……でもね、世界って言うのはそう言うものなんだ、お金をかけるからには目的があるものさ、オリンピックは世界中で注目度が高かったから、それを利用しようとする国も少なくなかったんだよ」
「スポーツと政治って別々のものなのにね」
「まあ、オリンピックで勝てるほどに強くなるには国のバックアップが欠かせなくなっていたからね、国もそこにお金をかけるからには利用しようとする、残念だけどそう言うものなんだよ」
「なんか嫌だな……」
「それどころか政治体制が違うことで真っ向からぶつかることもあったんだ、ソ連って知ってるかい?」
「習ったことあるよ」
「昔、アメリカとソ連は仲が悪くてね、アメリカを中心とする資本主義とソ連を中心とする社会主義との対立でもあったんだ、モスクワでオリンピックがあった時、アメリカとアメリカの同盟国はボイコットして、その次にロスアンゼルスでオリンピックがあった時、今度はソ連とその同盟国がボイコットした、そんなこともあったよ」
「選手は可哀想だよね、四年に一度しかない大会なのに」
「そうさ、本当はスポーツに政治を持ち込むのは間違ってる、でも実際にそう言うことは起こるんだ……オリンピックで優勝した選手には金メダル、二位と三位の選手には銀メダル、銅メダルが贈られたんだ、本来選手個人やチームを讃えるものなんだけど、どの国がいくつメダルを取ったって話題になった、国別対抗戦みたいな様相を呈していたんだな」
「オリンピックって大きくなりすぎたんだね」
「そう、よくわかったね、大きくなりすぎた、すごくお金がかかるようになって、商業主義が入り込む隙が生まれたんだね、特にアメリカの放映権料は大きかったから、貴族体質のIOCもアメリカのテレビ局の意向は丸のみにしたんだ、例えばね、東京で最初に開かれたオリンピックは十月だった、暑くも寒くもなくて晴れの日も多い、一番スポーツに適した季節だろう?」