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短編集82(過去作品)

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 松永のように気楽になれればいいのだが、どうして彼がそこまでなれるのか不思議で仕方がない。何か秘訣があるのだろうか?
 変なプライドを持っていることがいけないというのは分かっている。人にペコペコと腰を低くしていた松永を見て、
――俺には絶対にできない――
 というプライドが頭を擡げた。自分に自信があってのプライドならそれでもいいのだろうが、自信がないのにプライドだけ高ければ中途半端というものだ。
「人の気持ちを知りたければ、人に心を開かせればいい」
 松永の言っていた言葉を思い出した。・それが彼にとって腰を低くすることだったのだ。相手の気持ちを正面からこじ開け、堂々と入り込んでいく。実に正攻法に見えるが、それも打算的に感じられるのは自分が捻くれているからだと感じるところが悔しい。
 男にも嫉妬心があるんだということを思い知った。しかもそれが自分の中にあるなんて……。だからといって自分が松永のような生き方をするわけにはいかない。性格が違うのだから当たり前のことだ。
 だが、最近の根本に嫉妬心はあまりなくなってきた。根本自身も自分なりにいろいろ考えるようになり、
――何か打ち込める趣味を持てば少しは違うだろう――
 と考えるようになった。
 冷静に考えればすぐに思いついてもいいことだが、それだけ精神的に余裕がなかったのかも知れない。
 やりたいことはいくつかあった。釣りをしないかといってくれる人もいたが、どうせなら形になって残るものがよかった。突き詰めると芸術的なことが一番いい。
 小説を書いてみたいというのは学生時代からの夢であった。だが、文章力も発想も貧弱でなかなか書けるものではない。
 本はそれなりに読んでいた。しかし、それも眠れない時の睡眠薬代わり、真剣に読んでいたわけでもない。それでも好きな作家は見つかるもので、最初はいろいろな作家やジャンルをやみくもに読んでいたが、最近では気に入った作家の本を集中して読むようになっていた。
 その人は大きな賞を取ったこともある人なのだが、それもかなり前のことで、少し時代遅れではないかと思えるような小説だった。だがそれが却って新鮮で、その作家独特の世界が広がっていることが、根本を夢中にさせた。
 ミステリーも書けば、時代小説も書く、エッセイも書けば、ホラーも書く。またそのどれにも属さない自分独特の世界を描いてもいて、それが一番の特徴でもあった。
 最初根本は恋愛小説を書いてみたかった。小説とはどんなジャンルにも言えることなのだが、経験がないとなかなか書けないものも多い。特に恋愛小説はその典型のようなもので、特に恋愛経験の少ないと思っている根本には難しかった。
――そのうちに書けるようになるさ――
 というのが根本の出した結論で、とりあえず違うところから攻めてみることにした。
 学生時代から想像することが好きだった。SF的な空想のようなものがほとんどで、そこに数学的な発想を織り交ぜながら何かを考えていた。今でも時々気がつけば考えていることが多く、その発想を小説に生かしたりできるのではないかと考えたのだ。
 ものを作ることが好きな根本に、小説世界を作り出すことは十分に満足できる趣味だった。好きな作家がいることで自分にとっての先生ができ、先生の作品世界に入り込むことが小説を書けるようになる最短距離だと思っていた。間違いではないのだが、なかなか書くことができないのも性格面からなのか、それともほかに原因があるのか分からなかった。
 性格面としては、
――僕に小説なんて書けっこないんだ――
 という発想である。
 小説を書くことはずっと夢だった。夢というのはなかなか実現できないから夢だと思っている。しかも小説のように誰でも書けるものではないと特にその考えは頭の奥でどうしても引っかかってしまう。普段から
――自分は人よりも劣っているんだ――
 という気持ちが大きいため、そんな風についつい考えてしまう。まわりの人を見ているとすべての人が自分よりも優れているように見えるのは、自分に自信がないからだろう。
 それはすべての人に言えることかも知れない。根本だけに限っていることではない。しかしあまり普段からまわりの人を意識することのない人にとって、何かを始めようとしてまわりをふと見た時に感じるギャップは、カルチャーショックに似たものがあるように感じるのは大袈裟ではないはずだ。
――劣等感――
 それは小説を書く上で大きな障害になったことはどうしても否めない。
 だが劣等感を持ったままでも書けるもので、劣等感が生むマイナスのエネルギーが新たな発想となって自分の世界を形成していく。それを感じると作品も不思議と浮かんでくるというものだ。だからであろうか、書き始めると一気に書き上げることができるようになっていた。
 それでも最初はひどいものだった。同じ段落の中でまったく同じ文章を書いてみたりして、後から読み直して、
――なんだこれは――
 とびっくりしたものだった。
 小説を書いていると時間を忘れている。最初の五分くらいはなかなか時間が経ったように思えないが、乗り始めると最初の五分に感じたことが、気がつけば一時間経っていたなどしょっちゅうである。
 小説を書くことができるようになって感じるのは、
――こんなに物忘れが激しかったかな?
 と思うことだった。書いていて一段落して休憩し、また始める頃には最初に書いていた内容を忘れているのだ。元々物忘れが激しい方で、今まで意識していなかっただけかも知れない。だが、仕事に支障を来たさないということは、それほど物忘れが激しいわけではない。
――ということは、集中して考えている時だけなのかな?
 ひとつのことに集中すると、他のことが疎かになる性格であることは以前から気にしていたが、小説を書くことで今さらながら思い知らされるようになるとは、思ってもみなかった。
 書いていると忘れていく中で、本当に忘れたくない内容もかなりあった。自分で考えた小説世界なのか、それとも有名作家の書いた本の内容なのか分からない。自分が有名作家に馴染んできたのかそれとも有名作家の作品に違和感がなくなってきたのか、どちらにしても、量をこなしているから感じることだった。
――とにかくたくさん書くこと――
 これが最大の課題だった。
 なかなか書けない頃で、過去ことがせっかくの気分転換なのに、苛立ちに変わって、そのままストレスとなって蓄積されるなど愚の骨頂である。それだけは避けたかった。そのためには何も考えずにただひたすら打ち込むことが一番だったのだ。
 最近はパソコンで打ち込めるからいい。原稿用紙を目の前に、腕を組んで考えていると額から流れる汗を感じることで、先に進まなくなってしまう。腕や指にそれほど疲れを感じることなく、しかもすばやく書き込めるパソコンは、本当に便利で素晴らしい。
 最初に思いついたことをベースに書いていく。プロットも作らずに書くのだから、内容を忘れていっても仕方がない。しかし下手にプロットを作ってしまうと、そこから物語としての修飾が難しい。つれづれなるままに書いていく方が自分には似合っている。
作品名:短編集82(過去作品) 作家名:森本晃次