短編集82(過去作品)
小説の感想とは程遠いが、
「この話を読んでいると、なぜかそんな気持ちになるのよ。きっともう一人の私の存在を分かっていて、その人が本当の自分を見つめ続けているのよね」
作品が完成しかかる少し前に一言そういう感想を話してくれた。
「きっと皆同じなのね。本当の自分が見えるか見えないか。そして、本当の自分の目になれるかなれないか。それだけのことなのよ。あなたの話、説得力があるわ。私、このお話好きです。坂崎正人にも引けをとらないと思うわ」
松永の話を今さらながらに思い出していた。たくさんの女性と付き合っても違和感のない松永とはやはり自分は違っている。恵美子と付き合い始めてそれを感じたが、それでもどこか充実感を得ることができない。
後から聞いた話だが、松永が話していた「おじいさん」こそが、坂崎正人であるらしい。内容からしてもう少し若い人かと思ったが、それほど先見の明を持っていたのだろう。プロフィールが謎の作家でずっと知りたかったが、分かってみれば、今度は知らない方がよかったと思えてくる。実にいい加減なものだ。
頻繁に自分が見つめている夢を見る。
――お前は飽きっぽいんだ――
と言われているように思う。ストレスをすぐに発散させることを考えるようになった根本、自分が飽きっぽいことを感じるのは発散できるようになったからだ。
恵美子だけでは満足できないのだろうか?
そう考えていくと、自分も松永と性格がそう違わないように思えてくる。できるできないは別にして、小説世界の自分に願望を押し付ける。
夢で覗いている自分、夢の中の主人公である自分、そして小説世界の中の自分、どれも自分なのだが、その時々で、ストレスと一緒に吐き出されているように思えてならない。
きっとそのことは本人である根本よりも、松永や恵美子の方がよく知っているのではないだろうか……。
( 完 )
作品名:短編集82(過去作品) 作家名:森本晃次