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短編集82(過去作品)

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 と思うようになっていた。中学の頃まではストレスなど意識したことはない。小学校時代はいじめられっこで悩んでいたが、だからといってストレスが溜まったという記憶はない。確かに苦しかったが、後から考えて今実際に感じているストレスとは趣旨が違っている。どこがどう違うのか分からないが、ストレスではないのだ。
 きっとまわりに対しての気持ちが自分の中で確立しているかしていないかの違いではないだろうか。いろいろ考えているが、まわりとの比較をすることがなかった小学校時代だからこそ、無意識に身体を蝕むような気持ちになることはなかった。
 そんな頃に読んだ本が、今でも頭の奥に残っている。なんとなく消化不良のような作品でありながら心の奥に封印されている。夢を見ていて似たようなことを感じているではないか。夢とはそんなものであり、心のどこかに封印されているとは思いながら、何もなければ思い出すこともない。今でも頭の奥にそんな気持ちが渦巻いているに違いない。
 中学の頃にまわりの友達が汚らしく感じられた。急激な体の変化が見えるからで、ニキビにしても体臭にしても自分との違いを見ていると、たまらなくなってしまう。
――自分もあんな風になるんだろうか?
 そう考えただけでウンザリだ。そんな連中が女性に対して異常な感情を持っていると思っただけで、女性まで汚らしいものに感じられる。そんな思いを抱いている自分が嫌になる。
 よくそんな気持ちがストレスにつながらなかったものだ。
――自分は他の人とは違うんだ――
 という気持ちが強かったからかも知れない。
 授業中に悪友が耳打ちをしてきたことがあった。教えてほしいなど一言も言ってないのに、余計なお世話というもので、女性の身体についていろいろ話してくるのだ。何も知らない根本に対して面白半分で聞かせている。反応を見て楽しんでいるのだが、自分が何も知らないということがそれほど悔しくないのは、あまりにも相手の話が大げさだったからだ。
 だが、そんな話というのは後から思い出せばリアルに感じられるもので、顔が赤面してしまうほどであった。
 神秘的への興味がそのまま好奇心となる。好奇心を満たすか満たさないかで、ストレスが溜まるのかも知れない。好奇心は決して悪いことではないのだが、ストレスが溜まるようなことは自分を苦しめるだけだ。それを理解するまでに、高校時代を費やした根本だった。
――女性を好きになればストレスが溜まらないで済むかな?
 それが女性を気にし始めたきっかけだったかも知れない。非常におかしなものだ。好きになるという気持ちから来るのが普通なのだろうが、それだけ冷めた考えを持っているということであろう。
 しかし、他の人が女性を気にし始めるのは不純な気持ちからだと考えると、まんざらでもない。女性という自分とは違う人を意識することにどんな理由があろうとも、意識したことに大差はないだろう。
 女性への神秘は思春期に避けて通れないものだ。本屋に行くとどうしても成人雑誌が気になり、町を歩くと、風俗のネオンが気になってしまう。
 受験の頃にストレスが溜まらなかったといえば嘘になる。食欲を抑えても身体の疼きを抑えることはできない。しかし合格してしまうとそれまでの苦痛はまるで嘘のよう、何を目指していたのかなど忘れてしまい、明るい方へとばかり目が向いてしまう。それも仕方のないことだろうが、まるで甘いものを目指してひたすら歩いているアリのようだ。
 アリになった小説を読んだことがある。子供の頃だったのだが、そのせいか、アリがどんなものであるかなど分からないまま、本当にアリの世界に入り込んだ夢を見た。
 アリの世界は人間界に似ていた。それも自分の知っている狭い世界である。父親と母親と三匹で住んでいるが、それなりに暖かい家だった。
 家の外に出れば空のかなたから誰かに見られているように思えてならない。草の間を歩いているのだが、いつも誰かに見張られている。
――自分より小さな生き物なんていないんだ――
 実際にはもっと小さな生き物がいるのを知っているくせに、夢の中ではそう信じて疑わない。だから下を向いて歩くことはしない。絶えず上を見ながら歩いている。上を見ても太陽が広がっているだけだが、
――どんな生き物も同じように眩しいのだろうか?
 なぜなのだろう? やたらと他の生き物が気になってしまう。自分が一番小さな生き物だという感覚が強いからだろうか。まわりからは煩わしさは感じない。シーンと静まり返った道を果てしなく歩いてるだけである。静けさの中で耳鳴りが聞こえてくる。耳などないはずのアリに、どんな音が聞こえるというのだろう。
 果てしなく広がっている青い空に、大きな顔が見えた。それは見覚えのある顔だった。
――そうだ。鏡を見た時に、やたら自分の顔が大きく見え、細部に渡ってハッキリと毛穴まで確認できるほど印象深かったではないか――
 まるで夢で見るのを予期していたようだ。いや、以前にも同じような夢を見て、見たことを心の隅に封印していたのかも知れない。
 これほど恐ろしい顔を見たことはそれまでにはなかった。しかもそれは自分の顔なのだ。普段からそんな恐ろしい顔をしているのではないかと思っただけでも気持ち悪い。
 そう思うと、急に真っ青だったはずの空が割れた。中から真っ白い閃光が走ったかと思うと、真っ赤なものが流れ出るのを感じた。時々夕焼けを見て気持ち悪くなるのは、その時に見た夢の残像が瞼に残っているからである。
――見られている――
 しかもよく見ると覗いているその顔は歪に歪んで見える。ここまで気持ち悪い顔を自分がしているのかと思うと、恐ろしくなり、気がつくと目が覚めている。
――夢でよかった――
 と感じるが次の瞬間、鏡を見てみたい衝動に駆られて仕方がなくなる。枕元に手鏡を置いて寝るくせがついたのは、この夢を時々見るからである。夢から覚めた瞬間、いつも同じように鏡を見たくなる衝動に駆られてしまうのだ。
 自分が小説を書くようになってから、頭の上から覗かれている自分のイメージを抱いたまま書いている。覗いているのは今の根本で、覗かれている主人公は、子供の頃の根本である。どうして大人になった根本を子供の根本が自分だと認識できるのは謎だが、それが夢の夢たるゆえんで、何でもありではないだろうか。
 小説世界の自分が、ひょっとして本当の自分を表現できる唯一の場ではないかと考えると、覗いている自分が第三者に感じられるのだ。
 自分の夢を見る時というのは、二人の自分が存在している。主人公としての自分と、そして客観的に見ている自分である。見ているのは客観的に見ている自分で、たまにそれが主人公の目として写ることがあるかも知れない。頭の上から覗いている自分がそれであり、夢に対して感じていることを自らの夢で証明しているのだ。
 今書いている小説は、まさしく夢に見た内容を書いている。恵美子が時々見てくれるのだが、内容についてのコメントは一切話してくれない。
「なかなか面白い発想ね」
 と言葉にはするが、読んでいる時は驚きの表情である。
「私も時々イライラするんだけど、イライラするのを隠したりしないのよ。あなたのように表に出すことにするわね」
作品名:短編集82(過去作品) 作家名:森本晃次