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潜在するもの

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 起きてからすぐに食事を摂るということが億劫で、すぐに出かけて出かけた先で昼食を摂るというのが、若い頃のパターンだったが、ある日、馴染みになった喫茶店でモーニングセットを食べたことで病みつきになったのだ。
 元々、モーニングセットには興味があった。ただ、子供の頃から朝食は和食がほとんどで、みそ汁に目玉焼きなどばかりだったので、実際にはそれに飽きたことが朝食を抜くようになった一番の原因だった。
 一度抜いてから、それが日課になってしまうと、もう朝食は入らなくなった。和食は、もう嫌なので、洋食でと考えると、トーストにバター、さらに卵料理やベーコンなどというモーニングセットは、いかにも胃にもたれそうで、想像しただけでも胸やけがしてきたのだ。
 ただ、その日は、ブラっと散歩がてらに近くを散歩した時のことだった。
「あれ? こんなところに喫茶店なんかあったかな?」
 今までにもその道は何度も歩いたことがあったはずなのに、初めて気づいたことにビックリした。
 店構えは昔からある昭和の喫茶店で、懐かしさを誘った。どうして懐かしさを誘うのかと考えていたが、
「なるほど、この赤レンガなのかな?」
 と、喫茶店の下の方が赤レンガ造りになっていることで気が付いたのだ。
 上部の方は普通のコンクリートに、扉は木造という、いかにもレトロな雰囲気を醸し出している。赤レンガが下の方だけだということで、あまり目立つという雰囲気でもない。何度か歩いた時に気付かなかったのも無理のないことだ。しかもこんな店がつい最近できたなどありえない。コンクリートの壁には、雨水が伝ったような跡がくっきりと残っていることからも、言えることであった。
 遠藤は、今まで喫茶店に興味がなかったわけではない。新人賞を取った時に書いていた作品も、自室で机に向かって書いているわけではなく、あの時も馴染みの喫茶店でペンを走らせていた。
 あの頃はまだパソコンはおろか、ワープロというものも、作家活動に使われるということはなく、原稿は皆原稿用紙に書かれたものだった。
 今から思えば、
――よく手が痺れることもなく書き続けられたものだ――
 と感じた。
 今でもあの時のペンタコの痕は残っていて、指でこすると、硬くなっているのを感じ、あの頃を唯一思い出せるアイテムとなっていた。
 新人賞を取ったのは、大学を卒業してからすぐくらいのことだった。
 大学では文学部に所属していて、まさか作家になろうなどと思って入学したわけではなかった。本当であれば、文学部というと、就職にそんなに有利というわけではないので、まわりは敬遠していたが、中学の頃から歴史が好きだったので、日本史の研究をしたいと思っての文学部入学だった。
 ただ、大学入試も当然一つではなかった。他の大学もいくつか受けたが、そこは経済学部であったり法学部だった。
 彼が卒業した大学が第一志望だったというわけではなく、かといってすべり止めだったというわけでもなかった。そういう意味でも大学入学時点から、中途半端な感じだったのである。
 それでも入学して歴史の勉強に勤しんでいた時、最初に友達になったやつから、
「サークルは決まったかい?」
 と言われ、サークルなどあまり考えていなかった彼は、
「いや」
 と答えると、その友達がいうには、
「俺は文芸サークルに入ろうと思っているんだ。そこではいろいろな活動ができるからいいぞ」
「例えば?」
「読書を筆頭に、俳句や短歌などから、文学作品の執筆活動まで、文芸関係はなんでもなんだ。当然同人誌のようなものも発行しているから、自分の作品を発表ができるなんてすばらしいことではないか」
 という。
 元々、何もないところから新しいものを作るということに興味のあった遠藤は、友達の話に乗って。自分も入部することにした。
「サークルなんだから、行きたい時にいけばいいんだ」
 という完全に能天気な友達の言葉だったが、実際にはその言葉と大差のない部活であった。
 当時、テレビドラマで、昭和前半の時代に流行ったミステリーのテレビ化が行われていた。当時は推理小説というよりも、探偵小説という言葉の方が主流で、小説の中にも私立探偵が出てくる話も多かった。
 戦前、戦後の混乱期を描いているので、小説もミステリー色よりも、ホラー、怪奇色の強い内容になっていて、その時代を知らない人が興味を持つ時代としてテレビドラマもそれなりにヒットしていた。
 遠藤が小説を読むようになったのは、その頃からだった。元々国語が嫌いで、小学生の頃から国語の成績は悪かった。これは彼の性格に由来しているものであり、つい結論から先に見てしまうという悪いくせがあった。だから、国語のテストのように、最初に例文があり、その例文を元に設問が設けられているが、せっかちな彼は例文を全部読むことなく、設問から先に読んで、そのため、設問として指示している場所だけを見て、そこから問題を考えるという、点だけを見て答えるという、やってはいけないことをしていたようだ。
 だが、この性格はいかんともしがたく、国語の成績はおろか、国語に関わる読書にしてもなかなかできるものではなかった。
 それでも中学時代にSFが好きなやつがいて、SF小説を何冊か読んだことがあったが、やはりセリフを中心とした斜め読みしかしていなかったので、最終的にストーリーが繋がらなかったので、何が面白いのか分からなかった。友達と話をしても内容がまったくつかめなかったので、話も通じなかった。したがって面白いはずもなく、本についての会話は、最初から苦痛でしかなかった。
 そんな遠藤のことを皆知っていたのだろうか? 遠藤は、まわりの人には分かっていたように思う。
「お前は分かりやすいからな」
 と言われたことがあったので、たぶんまわりは自分のことをよく分かっていると自分でも思っていた。
 そんな遠藤は友達が多かったわけではない。どちらかというと、カルトな連中が多く、彼らに言わせれば、
「俺たちはヲタクではない」
 と言っていたが、
「ヲタクではないと言っている時点で、ヲタクなんじゃないのかな?」
 と思ったくらいだ。
 だが、遠藤も言わないだけで、きっとヲタクだったのだろう。ヲタクというと、アニメやホラー、エログロの世界を思い浮かべるが、そんな世界とは程遠かったが、話だけを聞いていると、自分は染まりたくはないと思うが、ヲタクを否定するような気にはならなかった。
 今まで思っていたのは狭義の意味でのヲタクであり、広義の意味に解釈すれば、遠藤も入っていたのだ。
「他の人と同じでは嫌だ」
 という感覚が遠藤の中にあった。
 今はまだ見つかっていないが、他の人から見れば、
「普通なら、そんなものを趣味にはしない」
 というものであったり、興味はあるが、やってみるにはハードルが高かったりするものに興味を持ったりした。
 ハードルの高さは、抵抗があるのと同じ感覚であった。抵抗があるというと、最初から敬遠しているのであって、ハードルが高い場合は、ダメかと思いながら、一応はやってみる。違うものであるのは歴然であるが、遠藤の中では同じものに感じられた。
作品名:潜在するもの 作家名:森本晃次