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潜在するもの

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「勉強していい高校、いい大学を目指す」
 という、大人が見て、
「これこそ学生の本分」
 と言われるような毎日しか送ってこなかった。
 小学生時代が昨日のことのように思い出されるのに、中学高校時代となると、どこか暗い歴史しか記憶になく、思い出したとしても、思い出したくないというやるせない気分にさせられるのは、どうしてだったのだろうか。
 苛められていた頃、毎日があっという間に過ぎた気がした。しかし、後から振り返ると、かなり昔だったような気がするのは気のせいだろうか。
 中学時代や高校時代は逆で、一日一日がなかなか過ぎてくれないにも関わらず、後から思い返すとあっという間だったような気がする。そのくせ、卒業してから中学、高校時代という頃のことを全体として思い出そうとすると、かなり昔のことだったように思う。
 要するに、思い出した時、瞬間で違うのだ。あっという間だったように思う時、あるいはかなり昔に感じる時、人の感覚というのは、錯誤に満ちていると言えるのではないだろうか。
 大学に入って、まわりの明るさが眩しく、自分も彼らのように明るく振る舞いたいと思い、皆に話しかけたりしたが、どうも話が噛み合わない。高校時代、あれだけ皆まわりに敵対していたと思っていた人が、こんなに会話の話題に豊富だとは思わなかった。それだけ自分が知らない間の高校時代に皆話題を入手していたのか、それとも大学に入って、人に触れ合うために自分で勉強したのか分からないが、遠藤にとって知らない間のことなので、姑息にさえ思えたくらいだ。
 乗り遅れたのは自分のくせに、よく人のことが言えるものではあったが、乗り遅れたことをそれだけ気にしているということだろう。大学というところは自分から行動しないといけないところだということは聞いていたが、身に染みたような気がした。
 そういう意味で、文芸サークルに入ったのは、自分にとってよかったと思う。
 サークルというと、まわりも気にはしてくれるが、人とさらに関わるには、自分から接しようとしないといけない。人が自分に関わってくれるのは、あくまでも相手がアクティブな気持ちになるからで、基本的には自分のためだ。人が自分のために何かをしてくれるなどという甘い考えはしない方がいいかも知れない。
 文芸サークルで、いきなりシナリオに携わったのは、少し回り道のような気もしたが、シナリオで得た知識が小説執筆に役立つことにもなった。基本は違うものではあったが、その違いをしっかり理解さえすれば、シナリオを書いた時間も無駄ではない。
 理解するというのも、ただ単に何も考えていないと理解することはできなかっただろう。自分から考えて、理解しようと思わないと先に進まない。この思いが人との関係とも結びついてくると思うと、一石二鳥の感覚にもなった。
 だが、天性の人と関わるのがうまいと思える人もいて、自分には適わないと思う。自分にはそんな天性のものはないと分かっているので、何とか自分から関わっていくようにしなければいけなかった。
 だが、むやみやたらに絡んでしまうと、本当の友達が誰なのか、見失ってしまう可能性もあった。同じ小説執筆を目指しているやつもいて、その連中と絡むことが多かったが、その連中ばかりだと、どうしても話が偏ってしまう気がした。
 もっともマンガを目指してる連中ほどヲタクではないのはよかった気がしたが、ヲタクでありながら、いろいろ知識が豊富なところが尊敬できると思う人もいて、そんな人とは関わってみたいと思うようになっていた。
 大学生活の中で、文芸サークルというと、やはり暗いイメージがあるようで、文芸サークル以外で友達になった連中から見れば、文芸サークルにいるというだけで、どこか敬遠されるところがあった。
 しかし、その頃にはサークル活動が自分の大学生活の中で欠かすことのできない生活の一部のように感じていたので、今度はサークルとは関係のない連中を友達として自分の中で残していく意味がどこにあるのかとさえ思うようになっていた。
 遠藤は、まだその頃、小説を書く上で、どんな話が自分に向いているのかなど分かっていなかった。
 小説を読むのはミステリーが多かったが、ミステリーを書くのは自分には無理だと思うようになっていた。
 ミステリーというと、一番最初に考えるトリックというところが引っかかったからだ。
「ミステリーにおけるトリックというのは、ほぼ出尽くしていて、これからのミステリーはそのバリエーションにすぎない」
 と言われていることだった。
 実際にトリックというものが出尽くしているのは分かっていた。
「密室トリック、アリバイトリック、顔のない死体のトリック、一人二役トリック、などなど……」
 トリック関係の本を読んでいると、これらの話が出てくる。
 小説家によっては、
「顔のない死体、密室、一人二役」
 を三大トリックとして定義している人もいるが、
「密室と、顔のない死体のトリックは、最初から読者に示しているが、一人二役トリックは、トリックを見破られた瞬間、作者の負けである」
 というものであった。
 その話を見て、
「なるほど」
 と思ったが、トリックについての話を読めば読むほど、自分たちがこれから新たなトリックを考えることはほぼ不可能であるということを思い知らされる。
 その思いがあるから、ミステリーを書くのは抵抗があった。
 恋愛ものも考えたことがあったが、
「基本的に恋愛小説というものは、自分の経験から書くものだ」
 と思っているので、自分には小説にするほどの、という以前に、まったく恋愛経験がないことを思うと、恋愛小説を書くのも無理な気がした。
 しかも、本屋などで見かける恋愛小説というジャンルの本は、そのほとんどが愛欲と呼ばれる不倫や浮気というものを題材にした、
「ドロドロ系」
 が多い、もちろん、自分に経験があるはずもなく、想像することもできないので、自分に書けるジャンルではないことは明らかだった。
 では、SFはどうだろう?
 SF関係も少しは書けそうな気がした。それもタイムマシンだったり、近未来の話だったりを一般的にSF小説として考えるとすると、自分にはできないこともないと思えたのだ。
 図書館などでSF小説についての話を読んだりもした。ただ、日本でSF小説というと、なかなか売れていない気がしたのは、遠藤の気のせいだろうか。映画化されたり、有名なSF小説というと、どうしても海外ものだったりする。
 日本でどうしてSF小説が有名にならないのかと考えたが、なかなか思いつかない。そこで気になった小説に、
「奇妙な味」
 と言われるジャンルがあることをその時知った。
 正確にジャンルとして確立しているわけではないが、SF風であったり、ミステリー風であったり、ホラー風であったりと、それぞれの要素を取り入れた「奇妙なお話」、それが「奇妙な味」として一種のジャンルとなっているのだが、どうしてもジャンル分けをするとするならば、
「オカルト小説」
 になるのではないかと思うのだった。
作品名:潜在するもの 作家名:森本晃次