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短編集81(過去作品)

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運命の分岐点



                運命の分岐点


 富松博は、いつも自分が損な役回りを演じていると思っていた。
 何をやってもうまくいかず、いいと思ってやったことでも、結果的には自分が悪者になることが多かった。
――おせっかいなやつ――
 としてまわりから見られているようで、それはそれで性格なので仕方がないが、悪者にされてしまうのは、どう考えても道理に合わないように思えた。
 会社で仕事をしていてそれを感じると、なかなか自分から動くことができなくなる。やりたいことがあっても、どうしてもできないのだ。これこそ悪循環だと悩んだこともあった。
 元々会社人間ではない富松は、仕事は適当にやって、後の生活を楽しみたい方である。趣味だって持ちたいし、友達をたくさん増やしたいとも思っている。友達の中には当然女性も含まれていて、彼女だってほしい。
 今までに彼女になってくれそうな女性と知り合ったことがなかった。合コンに誘われたことも何度かあったが、それもほとんどが人数合わせ。盛り上げには自信があるが、結局おいしいところはいつも他の人に持っていかれる。これも損な役回りだと思う理由の一つであった。
「お前みたいなやつがいると助かるんだよ」
 といわれることがある。屈辱的な言葉なのだが、それも自分にとっての存在価値だと思うと苦笑いをするしかなかった。損な役回りだと分かっていながらも、受け入れる自分をいじらしいとさえ思ったほどだ。
 それでもその程度なら悪者になることもなく、何の問題もない。自分がでしゃばったことをしないからだ。下手に前に出ようとすると、まわりからひんしゅくを食らうことがある。
 ある日の合コンで、とても気に入った女性がいた。最初から彼女のことが気になっていたかどうかは定かではないが、後から考えれば気になっていたように思うのは、彼女がどこか自分のことを他の人と違う目で見ていたからに違いない。
 いつものように人数合わせで呼ばれた合コンだった。
「富松も来るだろう?」
「ああ、その日はちょうど仕事が早く終われそうだからな」
 人数合わせだと思いながらも、何かを期待している自分がいるのに気付く。
――今度こそ俺だって――
 そんな気持ちになるのも男である証拠だ。あまり自分に自信はないが、好きになってくれる女性が一人くらいいてもいいではないかと思うようになっていた。
 合コンのセッティングはいつも同じ人がしていた。相手を探してくるのはいつも違う人であるが、セッティングはいつもの人間だ。そのため会場も同じ場所で、相手が違うだけで自分が人数合わせだということを思い知らされるだけだった。
――たまには違う場所でやってくれよ――
 と何度思ったことだろう。違う場所でやってくれれば富松だって、違う自分を見せることができると思う。本当にそうなのかは分からないが、少なくとも気分的に違ってくるというものだ。
 そんな富松の思いを知ってか知らずか、今回の合コンはいつもと違う場所だった。
「いつものところが予約でいっぱいだったんだ。今回は少し違う場所でしようと思う」
 いつもの店では顔が利いたために安く上げることができたので、皆残念がっていた。富松も、
――残念だ――
 という表情を浮かべていたが、心の底では違う思いを抱いている。
 いつもの居酒屋風から、中華料理風の店に変わった。食事はさすがに豪華だということで、皆納得したのである。
 人数的には男性が七名、女性も同じく七名だった。今までのパターンから言っても同じ人数くらいである。
「合コンで知り合って、その場限りってのも結構多いんだよ」
 という人もいたが、彼はいつもおいしいところを持っていくやつだった。
「俺にはどうしてもその感覚が持てないんだ。どうしても感情移入してしまうのかな?」
 と、富松が答えると、
「それはそれでいいんじゃないかな? だけど俺は合コンの楽しみは毎回違う人と出会えることだと思っている。だから楽しいんだよ」
 彼には決まった彼女がいるわけではなかった。あくまでも女性とは「アソビ」という感覚でいるのか、
「後くされがなくていいんだよ」
 というセリフが出てくるのだ。
 出会いというのは突然に訪れるものだとよく聞くが、心構えが必要なのだろうか?
 自分から声を掛ける勇気もない富松に、出会いなど訪れるはずはない。出会いたいのは山々なのだが、どこか冷めたところのある富松は、出会いがないことに安堵するという矛盾した考えが浮かぶこともあった。
 女性と付き合うとお金が掛かる。
 この考えが一番のネックだ。お金に関してはおかしな執着があり、使う時は意識することもなく使ってしまう。後になって後悔することも多く、女性の衝動買いに近いものがあるかも知れない。
 そういえば、ストレスが溜まった女性など買い物に走るというではないか。特に主婦に多いようだが、浪費癖のない女性が突然、衝動的に買い物に走る。その先に待っているものは……。考えただけでも恐ろしい。
 そんなところがあることを女性は自覚していない。気がつけばローン地獄に嵌っていたというストーリーなのだが、富松には衝動買いの自覚があるのだ。そういう意味では根本的に違うのだろうが、それだけに自分に恐さを感じる。なるべく意識のある時に無駄遣いをしないようにしようと考えるのも無理のないことだ。
 どこまでが無駄遣いの範囲なのか、定かではない。漠然としたところがあり、定義づけも難しい。少なくとも毎月計算できるところは無駄遣いではなく、不定期な出来事が無駄かどうかの判断になるのだ。最初から定期的な出費にはプラスアルファを加えて計算しているつもりだ。それでも超える場合もあるわけで、そこまで計算していないと不安になるのだ。
――何事も最悪を考えながら行動しないと大変なことになる――
 これが富松のモットーでもあった。
 それが女性と付き合ってどれだけお金が掛かるか見当もつかない。もちろん相手にもよるのだろうが、性格的に自分が恐くなる。相手に入れ込んでしまえばきっとお金を使う感覚が麻痺してしまうのではないかと思えるからだ。
 大学時代にアルバイトをしては、結構そのお金を意識なく使っていた。気がつけば何に使ったかなど覚えておらず、ポケットの中にあるはずの一万円札があっという間になくなっていたりということもあった。
 そんな時、鏡を見ると自分が太ったのではないかと感じることが多かった。
――太っ腹になった気分にふさわしい体格だな――
 思わず吹き出してしまいそうになるのを必死で堪える。笑える立場ではないからだ。しかしその体型には笑えるのだ。それだけ滑稽な格好をしている。
 そんな時に横っ腹を触ると、ベルトからはみ出すような腰の肉を感じ、ブヨブヨとまではいかないまでも、本当に太ったように感じる。気持ちも少し大きくなっているので、あまり深く考えないが、明らかに身体に変調をきたしている。
 夏になると途端に体重が減ってしまい、食欲もなくなる。バテるから食事ができない。食事ができないからバテる。完全な悪循環である。富松は体調やまわりの季節の微妙な変化に反応するタイプのようで、それが顕著に表れるのが身体つきと体重である。
作品名:短編集81(過去作品) 作家名:森本晃次