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短編集81(過去作品)

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 と感じるのかも知れない。
 日本人は集団の中に身を投じると、これまた二つに分かれるようだ。まず、
――朱に交われば赤くなる――
 と言う言葉があるが、長いものに巻かれるのとはまらニュアンスが違う。より積極的な感じがしてくる。同じような意味であっても、中に入って自分で何かをしようという意志さえあれば「赤く」なれるのだ。巻かれてしまっては手も足も出ないではないか。
 受身の体勢を保ちながら、攻めの機会を窺っているといった、そんな感じなのだろう。
 富松はそんな人があまり好きではない。自分が集団の中に身を置くことを想像したこともないし、実際に置くこともないだろう。なぜなら、集団が彼を受け入れることがないと自分で感じていて、感じているから余計に偏見があるのだ。
 だが、富松が集団に入ることがあれば、それは実に特異な性格であるに違いない。実際に中学の頃は友達の輪の中にいたことがあった。小学生時代にはありえなかったことだが、これも中学に入って、まわりに友達が集まるようになったと感じたからだろう。
 小学生時代は、クラスのほとんどが表で遊ぶようなやつしかいなかった。うちに篭っているやつもいたのだろうが、富松にそれは見えなかった。だからだろうか、異端児は自分だけだと感じ、自分からまわりの雰囲気に馴染もうとは考えなかった。
 そんな異端児である富松は集団意識が嫌いだった。一人誰かがボスでいて、それに従うようにまわりに連なるクラスメイト。まるで引き立て役というだけで終わってしまうその他大勢ではないか。間違ってもその他大勢になるのは嫌だった。
 しかし中学に入ると、その他大勢だと思っていた人から、時々声を掛けられるようになった。彼は考え方もしっかりしていて、とてもその他大勢とは思えない。よくよく見ていると、その他大勢の中にも個性を持った連中が多いではないか。きっと自分が彼らから異端だと思われているという偏見を持っているので、皆同じ人間に見えてしまうのだろう。
 そういえば人間と動物だってそうではないか。
 人間から見るから男と女が判別でき、好き嫌いの感情を持つことができる。だが、動物に関しては性別にしろ、性格にしろ、まったく分からない。
――彼らは所詮人間ではないのだ――
 と思っているからだ。SF特撮を見ていてもそうだ。我々地球人と、それ以外の人は宇宙人という考えである。ヒーローも悪徳星人も同じ宇宙人、テーマは悪を倒す正義のヒーローなのだが、結局我々地球人を中心に考えたストーリーである。自分たち中心の考えなのだが、見ている方はそれを実に当たり前として見ている。いくら人類の平和をテーマにしていても、他の星の人というのは、ヒーロー以外、皆敵とみなされてしまう。脅威浮くの教材にされてしまった宇宙人の立場は一体どうなっていくのだろう。市民権を持っていれば、浮かばれることもあるのだろうが、最後まで彼らは「人類の敵」として正義の味方を戦わされ、死んでいく運命にあるのだ。
 子供の頃からそんなことをよく考える少年だった。変わり者なのだろうが、それでもいいと小学生の頃から思っていたところに、いい悪いは別にして説得力があった。
 集団の中にいてもしっかりとした考えを持っているやつがいるのを感じると、自分も集団に属してみたくなった。その気持ちは、
――皆の心を知らないといつまで経ってもお山の大将だ――
 と思ったところである。
――人と違うというのは喜ばしいことかも知れないな――
 中学時代の友達を見て、そう感じた。普段から、誰とでも気軽に話しているのが見受けられるが、決して、どの派閥にも属していない。一匹狼のようにも見えるが堅物でもない。不思議と憎めないやつで、それだけに誰からも愛されるキャラクターであった。
 あまり人と馴染むことのない富松は、自分から人と話すことをしないためか、人から寄ってこられることもない。だから、自分がまわりから偏見の目で見られているように思い込んで、殻に閉じこもってしまう。そんな自分を見るのは嫌なのだが、彼は他の人と分け隔てなく話しかけてくれた。
――あれだけ人望の厚いやつが、俺なんかに優しく話しかけてくれるなんて――
 と不思議で仕方がなかった。
「どうして俺なんかと話をしてくれるんだい?」
 思い切って聞いたことがあった。
「ん? おかしなことを言うね。友達だからだよ」
「友達?」
「友達だよ。違うかい?」
 屈託のない笑顔を見ていると、ずっと前から親しかったように思えてならない。それだけ、違和感のない笑顔である。
 友達という言葉がこれほど新鮮に感じられるとは思ってもみなかった。友達といえば、いつも数人でつるんでいて、中には群れを成しているだけで何を考えているか分からない連中ばかりに見える。
 小さい頃見たドラマで、人に媚を売っている人を見ていると、訳もなく腹が立ってくるが、自分のことでもないのに、なぜここまで腹を立てねばならないか実に不思議だった。
 人との違いを気がつけば追い求めている。少しでも違うところがあれば、それこそ個性という言葉で言い表すことができる自分の特徴だ。
 友達を気にし始めると、自分も彼のようになりたいと思う気持ちでいっぱいだ。人に好かれるための秘訣がそこにあるのかも知れない。何よりも自分で自分を好きになれそうな性格ではないか。
 平均的な人間であるよりも何かひとつに秀でていることに魅力を感じる。何事もそつなくこなせる人は人から信頼を受けるだろうが、本当の魅力を感じてもらえるかどうか疑問に思う。どちらかというと、
「あら、あの人にあんな才能があったなんて」
 と言われた時の方がドキドキするものだ。今まで興味のなかった相手を憧れのような目で見つめる。そんなシチュエーションに感じてしまったりする。
 自分もそんな人間になりたいと思っていたが、なかなか環境が変わらないとうまくいかなかった。そう簡単にまわりの目が変わるとは思えないし、思えないという諦めの気持ちが最初からあっては、うまくいくものもいかないというものだ。
 そんな時に願いが通じたのか、父親の転勤があった。もちろん、せっかく仲良くなった人と別れるのは辛くもあったが、まったく違う人間に生まれ変われることに比べればさほどではない。会いたければ会えない距離でもなかったからだ。
 しかし、それでも環境は一変する。まったく知らない土地で、まったく自分を知らない人たちというところが実に新鮮である。学校へ行っても興味津々の目で見られ、気軽に話しかけてくれる。特にそれまで済んでいた都会とは打って変わって田舎なのである。
――都会から来たプリンス――
 とでも思っているかのように接せられると、こちらも有頂天になって仕方がないというものだ。なるなという方が無理で、今までに浸ったことのない優越感に浸れるのだった。
「田舎にしかいないもので、都会って本当にすごいんだろうな」
 相手の知らないことを知っている。しかも、相手が知りたがっていることだと思っただけで得られる優越感は何ものにも換えがたい。
 都会が田舎より優れているという根拠はどこにもない。相手が下手に出てくるからこちらがその気になってしまうことにまったく気付かなかった。
作品名:短編集81(過去作品) 作家名:森本晃次