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桐生甘太郎
桐生甘太郎
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おその惣助物語(五話まで)

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二話 おその






娘は、今年十五であった。乙女盛りのぴんと張りのある瑞々しい肌、そして艶があり豊かな黒髪、涼やかな目元と、愛らしい小さな鼻と唇。どれをとっても一級品の可愛らしい娘で、見る者をはっとさせるその美しさは、誰ともなく「団子小町」と呼ばれた。

なぜ「団子」なのかと言うと、娘は村はずれの辻に一軒しかない団子屋、「甚平屋」の一人娘だからである。丁寧な仕事で客に出す、つきたての餅や団子、すすり団子は評判だった。それに、すすり団子で一杯やろうという客の話し相手もしてくれる娘は、大層優しく、娘目当てに通ってくる客も居るほどである。

娘は、名を「おその」と言った。「おそのさん」と客が呼ぶと、おそのは「あい」とすぐに振り向いて、にこにこっと笑う。それで皆、夢中になってしまうのであった。


耳慣れない言葉が出てきたと思うので、ここでことわりを入れておきたいのだが、この頃には、「ぜんざい」も「おしるこ」もまだ作られていない。それらの元となったのは、「すすり団子」という、塩味の小豆の汁ものであった。それは酒の肴としてあてがわれるのが普通で、砂糖が貴重品であったからなのだろう。いつからか、私たちになじみ深い「おしるこ」が登場することになる。


おそのは両親と一緒に店をやっている。その朝も早くに目覚めて、おそのは床を上げて自分の布団を押し入れにしまうと、お茶湯をあげに仏間へ向かった。

「とっつぁま、起きな、かっつぁま」

お茶湯から戻ると、おそのは眠っている父母を揺り起こす。それから、何日か前から戻してある小豆と、ゆうべから水に浸しておいた米の具合を見て、親子三人で水を汲んで湯を沸かす。そのあと、小豆を茹でてからかき混ぜて潰し、炊いた米で餅を何種類か作って丸める。合間に掃除も済んでしまってから、やっと店を開けるのだ。




「おそのさん」

甚平屋の店先から、菅笠をかぶり、粗末な着物と草鞋姿の四十ほどの男が顔を出した。おそのはすぐに気がついて男を迎え入れる。

「あい、源さん。汁と酒かぁ?」

「ああ、いつものぉ頼むでな」

「あい」

おそのは源さんと呼ばれた白髪の男に、しばらくして酒と猪口、すすり団子を椀に入れたものを持って来て、席に置いた。それから、他に客も居なかったので源さんの話し相手をしようと、着物の裾を気にしながら茶店の縁台に腰掛ける。源さんは嬉しそうに酒を飲みながら話を始めた。

この白髪の男は、先日惣助の畑を訪ねた男で、村中では「世話焼き男」として名高い、ちょっとおせっかいなところのある男だった。何せ自分が女房に先立たれたものだから、誰かを相手にしていた方が気がまぎれるのであろう。その日は源五郎は、惣助の嫁探しの話を、面白おかしくおそのに聞かせた。

「んでよぉ、惣助が、そん時真っ赤んなって困るもんで、おら、おんもしろくっておんもしろくって、悪いけんども笑っちまっただよぉ」

「あはは。惣助さんは真面目だもんだけえ」

「われは一人娘だけんどよぉ、誰に決まるかって婆さまたちがみんなみんなで話してっから、ありゃあひょっとしたら、今日にでも決まるかもしんねえでよ」

「おばばさまたちはこええからなぁ」

「でもよぉ、あんなもんだと、たぶんあいつ、独り身になりてえんじゃねえべかなぁ」

「そうかいそうかい」

惣助の真面目な心など他所に、笑い話を二人でしたが、源五郎はおそのには話していないことがあった。