小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
桐生甘太郎
桐生甘太郎
novelistID. 68250
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

おその惣助物語(五話まで)

INDEX|10ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 


おそのが「もう落ち着いたし、大丈夫だ」と言うと惣助は手を放したが、「大丈夫け?帰れるけ?」とおそのを家に入れようとした。

すると、今度は手を引いても、肩を押しても、おそのの方が動かない。びたっと足を地面に吸いつけたようになってしまったので、惣助はわけを聞こうとした。

「どしたぁ?うちでなんかやだくなるげなことあったけ?」

おそのは少しだけ戸惑った。でも惣助は極端に恥ずかしがり屋だし、噂話を好かない男だったので、惣助に話すことには、あまり抵抗はなかった。だが、「誰にも言わねえでな…」と言って、今晩の染二郎の様子を話した。

一つ一つ、惣助は「うん、ん」と相槌を打ちながら、さして驚かずに、でも哀しそうな顔をして、話を聞き終えた。そしてこう言った。

「やっぱり、そうだったけな…」

「えっ?」

おそのは惣助の「やっぱり」という言葉に、「まさかもう染二郎のことは村中で噂になってるのか」と思い、焦った。

「誰かに…聞いたんだか…?」

おそのがそう聞くと惣助は首を振ったが、なぜ知っているのかを言わない。おそのは、「変だな」と思った。

確かに染二郎が家を空けがちになってから、まだひと月も経っていない。そろそろ噂が立ち始めるとは思っていたけど、よそから聞いたわけではないらしい。

「じゃ、なんで……」

その時、惣助がぎくりと身を震わせ、俯いて顔を隠すのをおそのは見た。それで、惣助がいつも陰から自分の様子を、自分の家を見ていたのではないかと、気づいてしまった。

「まさか、惣助さん…」

おそのの声色が疑いを滲ませると、惣助ははっと顔を上げて叫んだ。

「違う!違えだよおそのさん!おら、なんもしやしねえ!なんも思ってねえ!違えだ!」

惣助はそう言ってぶんぶんと首を振ったが、それでおそのは、惣助の心を見抜いた。だからかえって、不思議だと思っていたことが分かったのだ。


そうだ。惣助はさっき自分が首を吊って死のうとするのを止めてくれた。それに、「もう死なないか」と、泣きながら何度も自分に聞いた。それから、自分が落ち着くまで腕の中に置いていたし、今も親身になって話を聴いてくれている。

なぜそこまで気遣って一生懸命になってくれるのかが、おそのには不思議な気がしていた。でも、いつも陰から覗いているくらいに自分を想っていれば、それも自然なことだ。

しかも、惣助はそんなことは一言も言っていない。シラを切り、ただ通りかかっただけのように振る舞って、おそのに対して「なにも思っていない」と言っている。

惣助はおそのをたぶらかそうなどとは考えていないし、本当に、ただ助けたかっただけなのではないか。


おそのは脇を見ながらそう考えてから、もう一度惣助の顔を見た。

惣助は今度は、おそのに悪く思われたのが悔しくて悲しいのか、唇を噛み締めて泣き、ずっと小さく首を振っている。

おそのの胸の中で、何かがぷちんとはじけた。それはほんの小さなものだったけど、少しだけ、「今は惣助さんと一緒に居たい」と思った。