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妖怪の創造

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「確かに似たような話の中で、女性を中心にだったり、男性を中心にだったりと、それぞれの土地で違った言い伝えが残っているような妖怪も確かにいたような気がする」
「ひょっとして、先祖が同じなのかも知れませんね」
「それは何の先祖だい?」
「妖怪の先祖ですよ。人間に先祖がいるんだったら、妖怪にもいておかしくないですよね? 妖怪は歳を取らないとかいろいろ言われているけど、それはあくまでも一部の妖怪を総称して言っているだけで、妖怪というものをすべて一つと考えるのは、動物を考えるのと同じで乱暴な気がします」
「なるほど、それは言えるかも知れないな」
 と、教授は彼の話にどんどん引き込まれていく。
 話をしている今の様子では、どっちが教授なのか分からないほど、彼は饒舌だった。教授と一緒に話をしていることで、彼の中で覚醒しかかっていた発想が、この時とばかりに覚醒したのかも知れない。
「トモカヅキという名前の妖怪だって、場所によっては違う名前で残っている。ただ、私はこれだけ妖怪についていろいろ興味深く調べてきたのだけれど、心の中では、『人間の創造物』という発想が根強いんだ。人間を作ったのは神様だとすると、妖怪を作ったのは人間であってもいいわけで、ひょっとすると、妖怪の世界ではその説が通説として受け継がれてきたのかも知れないと思うんだ」
「ときにさっき話していた箱の話ですが、あの中のおまじないのようなものというのは、本当に利いているんでしょうかね?」
 と教授は思い立ったように聞いた。
「それは利いているんじゃないかと思います」
「でも、何を持って利いていると言えるんでしょうか? 何かの根拠だったり、確証がないとそう言い切れないでしょう?」
「今のお話ではないですが、昔、その妖怪に遭った海女さんが、そのおまじないと見せたとたん、妖怪が忽然と姿を消したという話を聞いたことがあります。だから利いていると私は信じています」
「なるほど、そういう実績があるのであれば、確かに利いているんでしょうね。それでその海女さんはどうなったんですか?」
「ハッキリと記録が残っているわけではないので分かりませんが、ただ聞いた話によると、それ以降、海に入ることはしなかったようです」
「引退したということでしょうか?」
「そうですね。そういう意味では海女さんとしての生命を奪われたと言ってもいいかも知れません。ただではすまなかったということでしょうね」
 と少しまた間が空いたが、今度は彼が思い出したように話した。
「そういえば、その時の妖怪は、自分の姿ではなかったという話になっているようです」
「どうして分かったんですか?」
「その人というのは男性で、見たこともない顔で、しかも服装もこの世のものとは思えないようなものだったそうです。絹や木綿の衣服でもなければ、鎧のような服でもなく、まるで話だけを総合すれば、西洋人のようないで立ちだったと言います」
「ひょっとすると、外国人だったのではないかと?」
「いえ、顔は日本人だったそうです。ただその人は男性で、それだけでも自分ではないのは明らかですよね」
「その頃は、妖怪が自分と同じ姿恰好で現れるという伝説になっていたんでしょうか?」
「なっていたようですよ。そもそも妖怪伝説の始まりは、自分と同じ姿恰好というところから始まっているようですから」
「そうなんですね。ところで箱についての意味を考えたことはありますか?」
「ええ、私はどうしてあんな箱におまじないのようなものが入っていたのかということに大いに興味を持ちました。箱の中に箱を入れる。それをどんどん繰り返すということで、得た結論は、『無限』という発想だったんです。タイムマシンという発想を先ほど教授はお話されましたよね? 私も似たような発想をこの箱からしてみたんです」
「それは面白い」
「時代を巡るのがタイムマシンであれば、実態を巡るのが鏡のような媒体だと考えました。自分の双方に鏡を置いた時、入れ子になってしまうという発想は、まさにこの箱と同じですよね。どんどん小さくなってはいくが、決して消えることはない。そこに『無限』といい発想が生まれる。私はもう一つおかしな発想をしてみたことがあるんです。これは学生の頃に人から聞いた話なんですが、『タマゴが先かニワトリが先か』という言葉からの発想なんです」
「ほう」
「ニワトリはタマゴを生み、タマゴはふ化してひよこになる。ひよこが成長しニワトリになり、またタマゴを生む。では最初はタマゴだったのか、ニワトリだったのかという発想ですね。タマゴが先だとすれば、タマゴは何から生まれたのか? ニワトリが先だとすれば、何から生まれたのか? という発想です。これはニワトリだけではなく、人間などのすべての動物に言えることですが、まるで禅問答のようですよね」
「そうやって考えると、堂々巡りを繰り返し、抜けられなくなる。自分と同じ人間が存在していなかったとしても、意識の中にいるというくらいの発想は、この疑問に比べれば大したことはないような気がしませんか?」
 教授は科学者らしからぬ話を始めた。
「ええ、同じ時間、同じ空間に存在しているのだとすれば、それは許されないことなのかも知れませんが、すぐに消えてしまうのであれば、それは問題ないのではないかと思えます。ただ、その一瞬であっても、大いにその人に対しての影響はあると思われるのですがね」
「ドッペルゲンガーで、同じ時間に同じ人間がいてはいけないから、本人を殺すという発想がありましたが、一瞬の幻であれば、この考えは違うものになるかも知れません。ただ一つ言えることは、ドッペルゲンガーが自分の姿になって現れるということには、何か大きな意味があるのは間違いないということでしょうね」
「この無限に続くタマゴとニワトリの関係を、どこかで切断してしまおうという何かの力が働いているのかも知れません」
「じゃあ、ドッペルゲンガーに出会う人や、トモカヅキのような妖怪に海に引きずりこまれた人は、『選ばれた人物』ということになるのでしょうか?」
「トモカヅキの場合も、ドッペルゲンガーの場合も、ハッキリと形になって伝説として残っている。それは複数の証言が残っていて、信憑性があるからなんでしょうね。それらを目撃したすべての人がそうだとは言いませんが、少なくとも目撃した人が伝承者として他の人に話すというところが特徴ですよ。例えば他のおとぎ話や伝説というのは、見たり聞いたりしたことを他の人に話してはいけないというのが多いですよね。でもこの場合はありません」
「そういえば、教授がさっきドッペルゲンガーの共通点を話してくれた中に、『ドッペルゲンガーは口を利かない』というのがありましたよね。そういう意味でも、他言無用という概念はドッペルゲンガーに対してはありえないということになりますよ」
「その通りなんです。トモカヅキのような妖怪も、きっと何も言わないんでしょうね」
「どうなんでしょう? アワビなどの海産物を与えようとするらしいですからね。これは無言のうちに行われることなんでしょうか?」
作品名:妖怪の創造 作家名:森本晃次