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妖怪の創造

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 しかもその話というのも、重要な話から少しずつ柔らかい話になっているというわけでも、逆に柔らかい話から、徐々に核心を突く話になってきているというわけでもない、話の順番に脈絡を感じないのだ。
 要するに、彼は思い付きから話しているのだろう。
――自分から話をしたいと言っておきながら、話の内容をまとめることができない彼でもあるまいに――
 そう思うと、教授は彼が話したいと思っている内容を、いまいち理解できていないのではないかと思った。
 彼のような曖昧な話し方では、本意が分からないからである。
 だが、それだけ話の内容が大きすぎるともいえるかも知れない。話を小刻みにしなければ相手に伝わらないというのも無理もないことで、その思いが彼にある限り、教授は結局、最後まで彼が何を言いたいのか分からずじまいで終わってしまうような気がしていた。

               タマゴが先かニワトリが先か

 教授は彼の話を聞いていて、
――彼だけに話をさせていては、このまま迷走するだけになるかも知れない――
 と思った。
 そこで教授は彼が利きたと思っている今まで予習をするのに調べてきたもので、今の話に酷似した妖怪の話をしてみることにした。
 最初はしないつもりだったのだが、一度話をしようと思うと、それまでの気持ちを封印し、思い立ってことを話すことしか考えられなくなってしまう。これは普段冷静な教授の中にあって、結構強い意志になるのだが、これがいいことなのか悪いことなのか、教授にも分からない。
 もっとも、
「人のことはよく分かっても自分のことはなかなか分からないものだ」
 と言われることもあり、教授のような職業の人間にはえてしてこういう人は多いのかも知れない。
「医者の不養生」
 などという言葉もあり、さらには、
「鏡にでも写さないと、自分の姿を見ることはできない」
 というように、自分のこととなると分からないのが人間なのではないだろうか。
 教授は彼の様子を注意深く観察していたが、さっきまであれだけ酔っぱらっていた彼だったが、少し酔いが冷めてきたような気がした。
 さっきまでのペースがゆっくりになってきて、他の人であれば、このまま眠ってしまうのではないかと思えるような雰囲気になっているが、彼が眠りに就くということはなく、却って目が冴えてきているような気がしたのだ。
――眠気に打ち勝とうとして目をカッと見開いているだけなのかも知れない――
 という思いもあったが。どちらかは分からない。
 ただ、彼の目は充血していて、このまま黙っておくということは教授にはできなくなってしまったのだった。
「実はですね」
 教授はゆっくりと話始めた。
 彼は興味津々で教授の方を見て、まるで乗り出してくるかのような雰囲気に教授も圧倒されてしまったが、彼が無言で頷いたので、話を続けることにした。
「海に引きずりこむ妖怪の中で、『トモカヅキ』という妖怪がいるんです」
「『トモカヅキ』ですか?」
「ええ」
 彼の様子を見ると、初めて聞く妖怪のような気がした。
「それはどんな妖怪なんですか?」
「この妖怪は、主に海女さんに恐れられている妖怪なんです。自分にソックリな姿になったトモカヅキはその相手にアワビを与えようとするそうなんです。それを受け取ってしまうと、そのまま海に引きずりこまれるという言い伝えがあるようで、そのまま死んでしまうというお話ですね」
 というと、彼は身体が硬直してしまったようになっていた。
「そ、その話は、まるで……」
「そうです。先ほどあなたがしてくれた話そのものという感じの話です。ただ、この言い伝えは基本的に海女さんは皆ご存じのはずだとは思うんですが、どうだったんでしょうね?」
「私はその話を聞いたことはありません。トモカヅキなどという妖怪の名前も初めて聞きました。そうですか、私の大切な人の命を奪った憎き相手は、トモカヅキという妖怪なんですね」
 と、彼は教授に言いながら、自分に言い聞かせているかのようだった。
「ただ、この話は海女さんの間では公然の秘密だったのかも知れないと思うんです。今のあなたがその大切な方から話を聞いていないということですし、目撃した人も口外できないと言っているんですから、まさにその通りでしょうね」
「でもですね。このトモカヅキという妖怪を恐れているので、海女さんはお守りのようなものを皆持っていると書物には書いていましたね。それは五芒星のようなもので、トモカヅキに対して有効だということです。果たして彼女はそのお守りを持っていたんでしょうか?」
「私はそれを聞いていないんですよ。海女さんたちの間では分かっていることだったんでしょうが、私に最後に話をしてくれた海女さん仲間も、そのことにはまったく触れませんでしたね」
「そうでしたか、海女さん仲間でも、それぞれの人がいますからね。特に女性の関係と言うと結構微妙なところがあったりしますからね」
「気の合った人でないと、気持ちを明かさない?」
「そうですね。そういう意味では男の方が気持ちを明かさないものでしょう?」
「男としては自分の気持ちを相手に明かすと、弱い人間に思われてしまうという気持ちがあるからですね。女性は違うんだろうか?」
 彼は人間関係について言及したようだった。
「そうですね。でも女性の場合は弱い人間という意識ではなく、もっと強い意識を持っているかも知れません。自分の気持ちを明かしてしまうと、相手に付け込まれるという気持ちがあるのかも知れません」
「何かドロドロした嫌な気分になるお話ですが、それが女性というものなのでしょうか?」
「一敗にすべての女性がそうだとは言いません。そういう人も多いということにしておきましょう。言い切ってしまうと先入観を与えてしまうので、私にはそこまではできません」
 なかなか人間性を語るのは難しい。
 特に男女で性格的な違いはあるので何とも言えないものだ。
 教授はさらに続けた。
「一般的な女性というものの認識として、私は、女性の方が男性よりも我慢強いと思っています。それは肉体的なものが精神を凌駕しているからではないかと思うのであって、つまりは女性というのは子供を産むことができる。つまりそれだけ堕胎に耐えられるだけの身体が育まれていることから、肉体的には男性よりも強いと言えると思います」
「そんなものでしょうか?」
「ええ、そしてもう一つ考えられるのは、女性というのは、我慢をする時は一人で籠って我慢をするものです。男性も一人で我慢をする人が多いですが、人に相談することもあるでしょう? でも女性の場合、肝心なことを他人に相談することは決してありません。つまり女性が他人に相談する時というのは、すでに自分の中で答えができている時なのではないかと思うんです」
「なるほど、何となく分かる気がします。でも、男も同じことが言えるんじゃないですか?」
作品名:妖怪の創造 作家名:森本晃次