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妖怪の創造

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「そして次に言われているのが、一人の人間が同じ時間、別々で存在できないのではないかという発想です。これは科学的に不可能と考えられるもので、この理屈には少し説明が必要になってきます」
「というと?」
「さっき話したパラレルワールドのお話で、今この瞬間の次には無限の可能性があると言いましたよね? それを踏まえて、タイムマシンというものを考えてみましょう?」
「タイムマシン?」
「ええ、科学者の中で考えられている架空の装置のお話で、いわゆる近未来の発明品だと思っていただければいいのですが、その乗り物に乗ると、過去にも未来にも行けるという夢のような機械のお話です」
 田舎村の一網元の息子ではあったが、一応都会の大学を出ていることもあって、タイムマシンという話は聞いたことがあった。
「そのタイムマシンがさっき言われたパラレルワールドと何か関係があるんですか?」
「例えば、あなたがそのマシンに乗って、過去に行ったとしましょう。自分が生まれる前の時代ですね」
「ええ」
「そこであなたが自分の親の若い頃に遭ったとします。相手も自分もまさか親子だとは思わない。そこでもし、あなたが自分の母親に会って、母親が自分に恋したとします。本当であれば結婚するはずだったあなたのお父さんとの結婚をけってあなたと駆け落ちでもしたら?」
 そこまで言われて、想像した自分にゾッとしてしまった。
「僕は生れてこなくなる」
「そう、歴史が変わってしまうことになる。それはあなたたちだけではなく、その後あなたのお母さんが関わるすべての人の運命が変わってしまう。まったく別の世界が未来には待っているわけですね。でも、そうなると、あなたは生れてこないから、あなたはマシンを使って過去にはいけない。いけないから歴史は変わらない。これってすごい矛盾だとは思いませんか?」
 彼は、今自分がゾッとした思いが妄想であってほしいと感じていたが、自分が感じた妄想よりも何十倍も激しい事実ともいえる話に驚愕していた。
 説得力という意味では十分で、それ以上何も言えなくなってしまった。教授はこの時とばかりに話を続ける。
「つまり、このような矛盾を起こさないために、歴史が変わってしまうような時間旅行はできないという考えがあるんです。逆に言えばこの問題さえ何とかなれば、タイムマシンの開発は可能なのかも知れませんが、この問題があるので、開発は難しいと私は感じています。そしてこの問題がドッペルゲンガーを見ると死ぬという伝説を生むと思ったんです」
「つまりは同じ人間が同じ時代に二人いるから一人が死ぬという意味ですか?」
「ええ、そうです。この説明も私は一応の説得力を感じるんです」
「ただ、これは原因に対しての死ぬという発想ではないですよね。そういう意味では最初の発想よりは弱い気がします」
「その通りですね。でも、説としてはあり得ますよね」
 と言われて、彼はハッと思った。
「そういえば、僕たちの時代は、結婚などは親が決めた相手と必ず結婚するということになっているんですが、ひょっとすると、歴史が変わらないようにという意味がこの掟の中に含まれているとすれば、これは恐ろしいことですよね」
 今度は教授がハッとした。
――この男は何という発想をするんだろう?
「確かにあなたの言う通りですね。掟として決まっていれば、未来から来た人間に歴史を引っ掻き回されるということはない。この掟というものは、長い年月守られてきたわけですが、それなりに理由があるというわけですね」
「ええ、その通りだと思えば、掟というものを軽視できないような気もしてきました」
 近年では、
「自由だ、平等だ」
 と言われてきているが、拘束には拘束の理由があるということも忘れてはいけないと思うのだった。
 教授は、自分が彼からいろいろな話を聞いて、それを材料にして自分の考えを固めようと思っていたが、彼の独特な考えに啓発されている自分がいることに気付いていた。
――やはり、この人は只者ではないのかも知れないな――
 と、教授は感じたのだった。
 そもそも教授がドッペルゲンガーの話を聞いたのが、どんな意図があってのことだったのかを思い出せなかった。
――この男とは今日が初対面なのに、まるで以前から知っていたような気がする――
 と感じたが、これは一般的に言われているデジャブというものとは違っているような気がした。
 それよりももっと深い意味のあるもので、説明はすぐにはできないが、もし説明ができるとすれば、その理屈は誰をも説得できるくらいに強いものであるような気がして仕方がない。
 教授は今まで漁師や農民というものに対して。
――自分は偏見など持っていない――
 と感じていたが、それが間違いであったことに気付いた。
 それを気付かせてくれたのが彼であり、彼という人間と出会ったことで、何か自分の研究が今回、一つの結論を得られそうに思えた。
 教授は言あ迄研究を行った地元で、都市伝説や言い伝えの類を訊ねることはあったが、科学的な理論お話や、根拠などと言った話をしたことはない。しても分からないだろうし、もしできる人がいたとしてもそれは中途半端な理論で自分の邪魔になるとしか考えられなかった。それは作家がアマチュアの時代にはいろいろな人の本を読んで、自分の文章力を突けようと思っていても、ある程度までまわりに認められる作家になってからは、他人の小説を読まないという発想に似ている。筆が迷走してしまうというべきであろうか。
 だから、教授も他人の意見をあまりまともには聞かない。それはまだ自分が学者としてまだまだだと思っているからに違いない。
 若干の謙遜も入っているだろうが、教授くらいになると、自分の考えを信じて疑わないことが必要になってくる。まだまだ上を見続ける必要はあるが、他人を見るだけの余裕というのもないと思っていたからだ。
 だが、足立村でこの男と会って、ここまで話をするというのは、彼が教授に何か言いたいという目をした時、他の人の好奇の目とはどこかが違っているのを感じたからだった。
 教授の方としても、
――初めて話をする相手とは思えない――
 という思いがあり、少し頭をよぎったのが、
「彼くらいの年齢の時の自分」
 だったのだ。
 ドッペルゲンガーの話をしたのも、自分が最初にドッペルゲンガーという言葉に出会ったのが、ちょうど彼くらいの年齢だったと思っているからだ。
――確かあれは大学院に進んでからのことだったので、二十代前半だっただろうか――
 彼がそれまでドッペルゲンガーという言葉を知らなかったというのは彼にしてはうかつだった。
 心理学お勉強を始めてから三年以上経ってからのことだったので、
――こんな興味深い話を、心理学に出会ってから三年もしらなかったなんて――
 と思ったくらいだ
 だが、ドッペルゲンガーという言葉と出会う前の三年間と、出会ってからの三年間にはかなりの開きがあった。別に何がどうあったというわけではないが、出会う前の三年間というのは、パッと思った時、あっという間だったような気がするが、ゆっくり考えると、長かったような気がする。
作品名:妖怪の創造 作家名:森本晃次