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妖怪の創造

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「ただ夢に出てきただけで、そこまでの信憑性があるんでしょうか?」
 教授の考えはもっともだが、その次に言った彼の話を聞くと、それももっともだと感じるようになった。
「実は似た夢をほぼ同時に三人の人間が見たらしいんです。しかも、それを話したのは、それぞれ自分の一番近しい相手にしか話していないので、三人が示し合わせたというわけではないとのこと、それがしばらくして村の漁師の間でウワサになり、祠の中にあるものが守り神だとして信じられるようになったという次第のようです。ただこれもハッキリとした話で残っているわけではないのですが、説得力という意味では十分にあるように思うので、僕はこの話を信じているんです」
「なるほど、分かりました。あなたがそこまで言われるのであれば、私もこれ以上の疑問はありませんが、ところで、目に見えた効果はあったんですか?」
「これも言い伝えなので何とも言えないんですが、実際に海に引きずりこまれそうになったという漁師がいて、必死にもがいた時、そのお守りが身体から見えたそうです。それを見て妖怪はそれ以上のことをしなかったと言われていますが、私が知っているのは、その一件くらいでしょうか」
「この村で一番知っているだろうあなたがそういうんだから、きっとそうなんでしょうね」
 教授は、本当はもっとあるのではないかと思ったが、それ以上の詮索はしようとは思わなかった。
 少しまた沈黙があり、彼が続けた。
「実はもう一つ教授になら興味深いと思えるようなお話があって」
「というと?」
「実は、この村には、もう一つおかしな言い伝えがあるんです」
「それはどんなものなんですか?」
「自分とソックリな人が急に海の向こうに見えることがあるというんです。海の向こうに人が立っているわけはありませんから、それは妖怪が化けているんじゃないかっていうウワサですね。でも、このウワサを知っている人はこの村では本当に私たちの家系しかありません」
「どうしてなんですか?」
「私たち家系以外の人にこのことを話すと、実際に自分にソックリな姿を海面に見たという人と、それを聞いた人は皆死んでしまうんです」
「それはどんな死に方なんですか?」
「それが、皆自殺のようで、見つかるのは、あの断崖絶壁の下なんです」
「でも、あそこに落ちれば死体は上がらないのでは?」
「そうなんですが、なぜか自分にソックリなものを見たということに関わった人の死体だけは、近くに流れ着くんです。それで、妖怪が見せしめに彼らを殺し、まるで身投げしたかのように見せかけるため、わざと見つかる場所に死体を浮かび上がらせるという話が出来上がってしまったんです。だから、村人はそれを分かっていても他言せず、子孫にも語り継ぐことはしませんでした」
「でも、網元の家では語り継いでいる?」
「これもご先祖から言われていることで、誰もこれを語り継ぐ人がいなければ、妖怪の存在を忘れ去ってしまうので、網元の家にだけは伝承するように家訓として残っているんです。実際にうちの蔵にはその証拠になる巻物が安置されていると聞きます」
「それを見たことは?」
「その箱は開けてはいけないことになっているので……」
「祠のおまじないとは違ってですね」
「はい、その通りです」
「それにしても、ソックリな人を見ると死んでしまう……。うーん」
 教授はそう言って、また黙り込んでしまった。
「何か気になることでもあるんですか?」
「この話は、少し今回のこととは的を得ていない話になるかも知れないが、ソックリという言葉で思い出した現象があるんですが、これも実は古代から言われていることになります」
「それはどういうものなのですか?」
「人間というのは、そっくりな人間が世の中に三人はいると言われているのはご存じですか?」
「いいえ、知りません」
「これがいつ言われ始めたかまでは知りませんが、私はあまり信憑性はないと思います。でも、今のお話を聞いたうえで、ソックリと言っている人は、ただのソックリさんではないと思います」
「というと?」
「まず、そんなにそっくりな人が、そんなに都合よく、こんな近くに存在しているというのもおかしなものだという思いと、もう一つあるのは、そっくりな人を見たというのは、その本人でよね? 昔から受け疲れてきたことだとは思いますが、普通、昔の人が自分とそっくりな人を見たとして、それを本当にソックリだと認識できるかということなんです。人間というのは、一番認識できにくい人間というのは、自分ではないかと思うんです、なぜかというと、鏡のような何かの媒体がないと、人は自分の姿を見ることができないからです。今の人でもなかなか鏡を見る機会は、特に男の人にはないと思いますが、昔ならなおさらではないでしょうか?」
「なるほど、教授の意見ももっともだと思います。最初の意見ですが、確かに同じ範囲で都合よく似た人がいるというのは、ちと都合がよすぎる気はしますが、でも、この場合は昔からという年月を経ています。時代が重なれば、似た人がいるという可能性は格段に上がるんじゃないでしょうか?」
「それは言えるかも知れませんが、こんなに閉鎖的な場所で言い伝えられているということを考えると、ありえるのだと仮定した場合、それは都合がいいというよりも、その人の思い込みというのが影響しているのではないでしょうか? 『過去にも似た人を見たという話がある』という思い込みが、『そんなバカな』という思い込みを凌駕しているとすれば、理屈としては通るのかも知れませんね」
「じゃあ、二つ目の説はどうですか? 確かに鏡という考えは確かにそうだと思います。人間は自分の顔を一番認識しずらいのも分かります。ただそれだけで、この話に信憑性を持たせるのは難しいのではないでしょうか?」
「そうですか? 私はこれだけでも十分だと思います。少なくとも半信半疑の人を思い込ませるくらいの効果はあると思いますよ。一種の都市伝説なのだから、思い込みが一番大きく影響してくると思うんです。そういう意味で鏡でしか自分を見ることができないという説から導き出された『自分に似た人』の否定は、十分説得力があるかと思います」
「確かに、一つ目の説と二つ目の説を組み合わせれば、相当な説得力になると思います。一足す一は二ではなく、三だったり四だったりするんじゃないかという理論に近いのではないでしょうか?」
 彼もそれなりに教授の説に異論はないようなのだが、何か逆の説を唱えないと気が済まないようだ、
 話を長く続けるには、すべてを納得して何も否定しなければ、すんなりと話は進むのであろうが、発展性もなければ、何よりも次回の話題として、それ以降の発展性などありえないだろう。
「死体が見つかったのが何体だったのかは分かりませんが、何人が自分にソックリな人を見て、そして上がった死体がどれだけあったという問題もありますよね」
「いわゆる確率という問題ですね。それは正直ハッキリとはしません。ただ、一件あるだけでも恐ろしい話なのに、二件、三件と続くと、これは都市伝説からさらに怪奇現象に繋がるものとして考えられますよね」
作品名:妖怪の創造 作家名:森本晃次