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妖怪の創造

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 この村が安定して生活ができているのも、網元が網元という力を使って、庶民を見下げているわけではないということなのだろう。彼を見ていると、網元である父親という人間も見えてくるような気がした。
 酒が入ってくると、彼も饒舌になってくる。
 さもありなん、自分の不安に思っていることをやっと口にできたという思いがあるからで、別に教授に何かをお願いしたわけではない。ただ、教授に前もってこの村のことを事前に知識として植え付けておくと、これからの研究で見つかったことも、彼が知りたいことへの足掛かりになるかも知れないと考え、教授と仲良くなっておくことで、その情報を得られるのではないかという下心もなくはなかった。だが、話を聞いてもらい、一緒に酒を酌み交わしてみると、そんな下心をよそに、教授という人の人間性が彼は好きになっていたのだった。
「ところで、教授は妖怪には詳しいんですか?」
「詳しいというわけではないですが、こういう研究をしていると、いろいろなところで都市伝説のようなお話を聞くことが多いです。まったく別の場所で、酷似したような話が残っていたりもするので面白いですよ」
「それは興味深いですね」
「妖怪や伝説が他の場所で同じように言い伝えられているというのも面白いんですが、世界的に考えると、まったく別の地域であったり、大陸なのに、古代から似たようなものが建築物や伝説として残っているというのも、おかしなものだと思いますよ」
「例えば?」
「そうですね。世界には古代の四大文明というのが存在するんですが、それは今から何千年も前の時代のことです。五千年前だったり三千年前だったりするんですが、巨大建築などがそのいい例でしょうね」
「というと?」
「一番有名なのは、エジプトのピラミッドでしょうか? ピラミッドはエジプトにだけ存在するものではないんですよ。エジプトというと、アフリカ大陸ですよね。でも、中南米にも形は違っているんですが、ピラミッドと似たようなものが存在します。まったく違う文明で、似たような巨大建造物が存在していると初めて知った時、私は背筋に寒気が走ったのを覚えています」
 網元の息子とはいえ、一漁村のことであるので、学校も最高学府迄行ったわけではない。したがって教授ほどの知識があるわけではないが、それなりの話は聞いていた。ピラミッドの話も聞いたことがあったが、彼は教授ほどの感動を覚えたという意識はなかった。
 しかしなぜだろう? 今までは学校でそんな話が出てもそこまで感動することはなかったのに、こうやって教授と話をしていると、初めて聞いたわけではないと分かっているのに、まるで初めて聞いたかのような感動があった。
――ん? 待てよ?
 そういえば、先ほど表で教授と話をしていた時、初めて聞いたはずだったのに、以前にも聞いたことがあったような気がしたのを思い出した。
 しかし、その話がどんな話だったのか、思い出そうとすると思い出せない。今まで覚えていたように思うが、ふと思い立った今、思い出すべき内容を忘れてしまったのだ。実に皮肉な話ではないだろうか。
――こんなことを考えるのも、教授を一緒にいるからなのかも知れない――
 と、彼は感じた。
――もし、僕が大学に進んでいて、しかも教授のような人に出会っていたら、網元である自分の家を捨ててでも研究に没頭するようになっただろうか?
 今まではそんなことを考える余地もないほど、自分の運命は変えられないものだという意識を強く持っていた。だから、大学に進んでいたとしても、大学在籍期間が無駄な時間になるかどうかというだけで、それ以上の危惧はないように思っていたが、今から思えば大学に進んだ自分を想像するのが怖かったのかも知れない。
 それにしても、
――初めて聞いたはずなのに、初めてではないという気がする――
 というのは、今までに何度か経験があるが、
――聞いていたと確信できる話を、まるで今初めて聞いたかのような錯覚に陥ってしまう――
 ということは初めてだったような気がする。
 それを教授に聞いてみた。
「初めて聞いたはずのことを、まるで前に聞いたことがあったような気がすることが時々あるんですよ」
 と聞くと、
「それはデジャブという現象ですね。理屈は解明されていませんが、そういうことを感じたことがある人は誰にも言わないだけで、ほとんどの人がそうなんじゃないですか?」
 と教授は言った。
「デジャブというんですね?」
「ええ、一度も行ったことがない、あるいは聞いたことがないはずの話を、以前に聞いていた李見ていたというものですね。昔から人は土着していて、めったに他の土地に行くことはないので、そんな発想もあまりないんでしょうが、この症例はそれほど珍しいものではなく、たくさん報告されています」
「じゃあ、逆はどうですか?」
「というと?」
「聞いたり見たことがあるはずのところなのに、まるで初めてだと思うという感覚ですね」
「それはあまり聞いたことがありませんね。ひょっとすると、そう感じた時に、すぐにそれを錯覚だと思い込んでしまうからなのかも知れません」
 と教授は言ったが、
「何となくですが、理解できかねるところではありますね」
 と、彼はどこか釈然としない様子を、なるべくヤンワリと話したのだった。
「あとですね。さっきのピラミッドの話の続きになるかも知れないんですが、神話というのも、世界各国に残っていた李します。例えば、ギリシャ神話だったり、ローマ神話だったりですね。日本でも古事記や日本書紀のように、神話と言ってもいいようなお話が残っているでしょう? 特にギリシャ神話とローマ神話では結構似たようなお話もあって、神々の種類であっても、名前が違うだけで、同じような種類の神は、どちらにもいたりします。これも不思議な感じがしますよね」
「なかなか面白いですね」
「先ほどの箱という意味で、これはギリシャ神話に面白い話が残っているんですよ」
「ほう、それはどんなお話なんですか?」
「『パンドラの匣』と言われるものなのですが、日本では一般的に知られているお話ではないので、初めて聞かれたのではないかと思います」
「はい、初めてお聞きするお話ですね。ところでどんなお話なんですか?」
「最初に断っておきますが、神話や迷信の類というのは、いろいろ言い伝えがあって、一つではありません。いわゆる諸説と呼ばれるものなのですが、これはあくまでも一般的に言われているお話として、この『パンドラの匣』というのは、『開けてはいけない匣』という風に通説では言われています」
「はい」
「でも、実際のギリシャ神話で言われているお話をしますが、まず前提として、神様が人間を作ったというお話なのですが、これはどの神話でも共通していると思います。ここからが少しずつ変わっていくのですが、ギリシャ神話では、神様に似た創造物を作るという意味で、最初の人間は、男ばかりだったんだそうです」
「それで?」
「天地万能の神として『ゼウス』という人がいるのですが。その神様が人間を作った時に、こう言ったんです。『人間の世界に、火という文化を与えてはいけない』ということをですね」
「じゃあ、最初の人間が火を知らなかったということですか?」
作品名:妖怪の創造 作家名:森本晃次