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短編集79(過去作品)

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 それを病気に半ば身体を蝕まれていた高杉晋作が、二人を結びつけたのだろう。その二人が義弘と弘子の身体を使って再度この萩でよみがえったのだ。きっと、義弘と弘子の二人が高杉晋作のことを思っていたことで、中島とお光がよみがえる舞台を作り上げたに違いない。しかもそれは偶然ではなく、必然にである。
 ではその力はどこから出たのか?
 中島とお光の魂が引き寄せたかのようにも思えるし、あるいは高杉晋作の魂によるものかも知れない。どちらにしても、二人はベッドの中で再会したのだ。
 弘子がこの宿を取ったのも必然なのだろう。見覚えがあったのは、きっとここでかつて中島とお光が愛し合っていたのではないかという想像もできる。改装を重ねても、今だに当時の面影が残っているように思えるのは記憶の奥に封印されているからに違いない。
「でも私、高杉様が羨ましいわ」
「どうしてだい?」
「だって自分たちが悪くないのに、時代の流れや運命の悪戯で殺されたり斬首されたりする人が多い中で、いくら命が短いとはいえ、病気で死ねるんですもの」
「だが、志し半ばでさぞかし悔しいのではないかな?」
「あの方はそうなのかしら? 私は自由奔放に見えるんですのよ」
「いくら表はそうでも、本心は違うかも知れない。だが、それもまもなく確認できるさ」
「そうね、私たちもいよいよね」
 二人の目がお互いに暗い部屋で光ったように思えた。何かを覚悟しているのか、目で訴えているのだ。
「結局、ここでこうしていても、所詮、ここは私たちの居場所ではないんだ。未練があるわけではないだろう?」
「ええ、私はあなたと一緒ならどこでもいいの。あの時、私はそう決めたのよ……」
――あの時? それはいつなのだろう?
「そうか、私もそうだったね。二人で決めたんだね」
 高杉晋作が羨ましいと言った二人、病死とはいえ、人の死を羨ましいと言えるだけの運命をこの二人は背負っているのだ。
 二人はきっとこの部屋で自害したのだろう。そう考えれば高杉晋作を羨ましいと語った理由が分かるというものだ。お互いに自分たちの運命を憂いて……。
 しかし、それは時代に翻弄されただけの運命だ。高杉晋作のように、自分が世の中の運命を変えるような大きなことをしたわけではない。それが「羨ましい」という言葉に含まれているとも考えられる。
 なぜ二人がここで成仏できずに彷徨っていたのか分からない。ひょっとしてもう一度高杉晋作に会いたかったのかも知れない。同じようにこの世を彷徨っていると思っていたのだろうか?
 もう二人は高杉晋作と出会うには、ここでは無理だということを悟ったに違いない。完全にこの世への未練を捨てて旅立とうとしている。それを義弘の腕の中で、弘子と一緒に見送っているのだろう。
「おもしろき こともなき世を おもしろく……」
 どこからか聞こえてきた。高杉晋作が今際の際に残したとされる詩である。それを感じていると、次第に中島とお光の存在が薄れてくるのを感じ、義弘自身、意識がさらに朦朧としてくるのを感じた。弘子は完全に眠っている。
 朝、目を覚ますと布団は暖かかった。
「あれ? 昨日は飲みすぎたのかな?」
 日本旅館に泊まったことは覚えているのだが、なぜここに泊まることになったのか、そして、なぜ布団の中が暖かいのか分からない。頭の中では時間の経過という神秘さがなぜか袋小路になって回っていて、萩で新しい出会いがあることを期待している自分がいることを感じている義弘だった……。

                (  完  )


作品名:短編集79(過去作品) 作家名:森本晃次