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自殺と症候群

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 本人とすれば、目が覚めた時にすぐに病院にいるということを理解できたことで、眠りは浅かったと思い、実際に眠ってから、長くて一時間くらいの睡眠だった気がしたのに、すでに消灯時間を過ぎているなど、思ってもみなかった。
 病院の夕食は五時前くらいに配膳された。そこからゆっくり食べたとしても、六時前には終わっていて、そのまま眠りに就いたはずだったので、消灯時間が午後九時だとしても、ガッツリと三時間近くは眠っていたことになる。
 武則は少し頭痛を伴っていた。これはよくあることで、眠りが浅い時に起こる現象であった。もっと眠っていたいと思っているところにふいに目を覚ましてしまったことで、そのまま眠れなくなると、身体が何かの拒否反応を起こすのだろう。そのせいで頭痛が襲ってくることがあったが、今まさにその状況なのだ。
 この頭痛は普段の頭痛とは違い、鼻から来るものだった。鼻の通りと微妙に関係しているようで、そのため、この頭痛は、
「眠り切れなかった時に襲ってくる頭痛」
 として、他の頭痛とは違った種類であることは明白だった。
 ただ、この頭痛は毎回のことではない。同じような状況になっても、頭痛が襲ってこないこともある。しかし、この頭痛が襲ってきた時は、間違いなく眠りが中途半端だった時だということは分かっているので、武則は中途半端だった眠りを、睡眠時間が短かったからだということで解決させたかった。
 しかし、実際には三時間以上の睡眠だった。これが何を意味しているのか分からなかったが、
―――ここは病院、いつも寝ている自分の部屋と環境が違うということが、そんな気持ちにさせたんだろうな――
 という考えで自分を納得させていた。
 病院の中で目を覚ますと、さっきまで明るいと思っていた非常灯もだんだんと暗く感じられるようになっていた。本当なら目が慣れてくるから、逆に明るく感じられるのではないかと思ったが、それ以上に静寂の中なので、自分の気持ちが暗さを誘発してしまったのではないかという、心理的なものが影響しているだけかと思っていたが、どうやら目の状態も少しおかしいようである。
 いわゆる、
「飛蚊症」
 と呼ばれるもので、目の前を蚊が飛んでいるかのように見えるもので、その時の武則の目には、
「まるでクモの巣が張ったかのような景色」
 に見えた。
 それは毛細血管ともいえるようなもので、クモの巣にしても毛細血管にしても、どちらにしてもあまり気持ちのいいものではない。そして、このクモの巣を感じた瞬間、自分の視界が薄れてくるのを感じた。
 最初は白い膜が張っているかのように見えたのだが、そのうちに白い膜が消えて、どんどん明かりが失せてくるような感覚だ。
――このまま、また眠りに就いてしまうのかな?
 とも思ったが、どうやら少し違うようだ。
 暗さを感じてから、クモの巣を確認できなくなるほどの暗さになるまでにどれほどの時間が掛かったのだろう。本人はあっという間だったような気がしているが、それは他に何も考えることができなかったからだ。
 絶えず何かを考えている武則にしては珍しいことだった。何も考えていないというのを意識できたということ自体がおかしな気がするのだ。
 さすがに起きたばかりでこの状態からまた眠りに就くことはなかった。一度目が覚めてもまた眠りに就くという時は、眠っていた時の状態でそのまま頭の中で意識が現実に戻っていない時に限って最後眠りに就くことができる。つまりは、完全に目が覚めてから途中で起きたということを想い出すことはできても、その時の感覚を思い出すことは無理だったのだ。
 武則は、身体を少し捻ろうと思って、横を向いたその時、
「痛いっ」
 と、思わず声が出てしまった。
 傷が痛いわけではなく、何か筋肉痛のようなものを感じた。そして次の瞬間、額から汗が流れ落ちるのを感じた。
――ヤバい――
 何がヤバいのかというと、武則には足が攣りそうになった時にその直前に予兆を感じることがあった。
 その予兆が今まさに訪れたのである。
 足を抱えようとも思ったが、身体を動かすことで余計に無理な態勢になってしまい、無理な態勢のまま足が攣る状態を迎えるのが怖かった。
 足が攣ってしまうと、身体全体が硬直してしまって、身体のどこも動かすことができなくなってしまう。呼吸すらまともにできなくなり、数秒後に収まるのを待つしかなかったのだ。
 そんな状態だけは避けようと努力したが、結局身体を動かさないことが一番だと判断した武則は、そのままの状態で、足が攣るという状態を迎えた。
「うっ……」
 声になって出そうなのを必死にこらえた。
 足が攣った時に一番気を付けなければいけないこと、それは、
「まわりの人に知られること」
 だったのだ。
 武則は必死になって声を出すのを堪えた。数秒もすれば治るのは分かっているのだが、それまでの数秒が結構長く感じられることもあった。
――これほど時間の感覚が違っているのも、足が攣った時くらいのものだ――
 と思っていた。
 ただ、それは痛いと思っている自分が感じているだけなので、痛いと感じているその時間が本当にいつも同じなのかどうか、検証のしようもない。他の人に知られることを極端に怖がっているから仕方のないことなのだが、それだけに疑問もどんどん膨らんでくる。抱かなければまったく考えることもないはずのことをいったん考えてしまうと、気になって仕方がないというのは、人間の性だと言ってもいいだろう。
 だが、武則はこの時間を一定なものだと思って疑う気がしていないのも事実だ。一定のものだと思うからこそ、そこからいろいろな発想が浮かぶというもので、最初の土台が不安定であれば、考えに基づく建物を建てることなどできないと思っている。
 武則にとってその時間を証明することができない限り、一度考えてしまうと、無限ループに入り込む。だから無意識に考えないようにしようと思うのだろう。
 足が攣ってしまうと、完全に足が熱を持ってしまって、足の感覚がなくなってしまう。それはまるで血液が沸騰して毛穴から赤い煙が出てくるのではないかと思うほどのもので、もちろん、そこまでの妄想はしたことがないが、
「文章にするのは簡単だが、絵にするのは難しい」
 という、本来とは正反対の状態を思わせた。
 痛みも次第に治まってくると、足の痛さも惰性になってくる。曲げると痛いが、少しでも筋肉を動かすことが却って早く楽になれることが分かっているので、歩くことを心がければいいのだろう。
 ちょうどトイレにお行きたくなったので、身体を起こして、点滴を針を刺したまま、点滴スタンドを引いて、トイレに向かうことにした。
 ベッドから腰を上げようとした瞬間、足に激痛が走ったが、さっき攣った足の部分とは違っていたので、逆に、
――気のせい――
 だと思った。
 一瞬にして、その激痛が消え、次の瞬間には痛みがあったことすらウソのように感じられたからだった。
 足が攣った痕というのは、筋肉痛に似ている。触ってみると、完全に硬直していて、
「これが本当に自分の足なのか?」
 と感じる。
 痛みを堪えている時というのは、まず何を考えるかというと、
「誰にも知られたくない」
作品名:自殺と症候群 作家名:森本晃次