ヤクザ、VRゲームにハマる!
山口組はいたって健全な組織であり、収入源の大半は不動産経営とパチスロで成り立つ。
寺井は任侠に成りたくて山口組に入ったのだが、、現実のイメージした任侠道はそこには無かった。男らしさな仕事は、せいぜい幹部の護衛(ボディーガード)くらいしかない。山口組の職員に刺青なんてありはしないし、しているのは寺井の様に漫画や映画でヤクザに憧れたヤンキーくらいである。刺青するにしても組には黙って内緒でやるしかない。山口組は刺青が嫌いだから、バレたら仕事を辞めさせられかねない。
とにかく山口組はヤクザな噂のせいで、寺井みたいな、任侠に憧れたヤンキーばかりが仕事を求めてやってくるから、結果的に顔付きの悪い職員ばかりが集まってしまう。
山口組は必然的に『いかにもな暴力団』として世間に見られてしまうのだ。
寺井はヤクザになれなかった単なるヤンキー思想の職員だった。ネットではゲーム仲間に元ヤクザだと嘘をついて、任侠気分を味わうのを楽しみとしている。
寺井は漫画や小説で裏の世界のフィクションついて詳しい。寺井はあらゆる裏の世界の事情を妄想で知っている。麻薬の密売や買春、臓器ビジネス等、詳しかったりするが、その中でも寺井は何より麻薬について知りたかった。気持ち良さそうな麻薬をやってみたかったのだ。
VRはそんな寺井の願いを叶える為に平井組の頭になれるストーリーを与え、麻薬の擬似体験と麻薬密売の冒険感を味わわせた。
寺井は至って健全であり、VR友達も健全だった。
ナギは会長の孫であり寺井の姪っ子である。ゲーム世界でのキャバ嬢をしていた池内は寺井の彼女である。
根暗なナギも麻薬に溺れた池内も寺井の潜在意識が望んでゲームが生み出したキャラに過ぎない。
現実のナギは普通にお嬢様学校に通う健全な生徒であり、寺井の仕事はナギのボディーガード兼運転手である。寺井は会長の見ていないところで、ナギを「お嬢!」と呼び、ナギには寺井を「おい!」や「お前!」等と呼び捨にさせる。寺井は仕事場に任侠感覚を持ち込んで遊んでいる。
現実の寺井は麻薬とは縁がないどころか、むしろ麻薬撲滅運動すらしている。
寺井は麻薬追放国土浄化同盟に所属していて、山口組がホームページにて率先して広報活動している。広報員として寺井も震災等の災害地域に行って救済活動等のボランティアをしている。
寺井は、マサシの顔を知っている。マサシは目の下にクマがあり、如何にもな悪人顔である。寺井の潜在意識がマサシを悪役に望んだ。
だからゲーム世界はマサシが悪人役に仕立てあげた。
だからマサシが平井組と如月組を影で操り麻薬の密売をしている事実なんて寺井は、全く知らない。
寺井は平井組の頭ではないから、知る由もない。
マサシに関していえば現実に悪人だった。
ーマサシ視点ー
天気の良い日だった。
マサシは車を運転していて、よそ見をした。鳥が美しかった。なので前を見ていなくて寺井を轢き殺してしまった。
ー寺井視点ー
目の前に天使みたいなものが、見えた。
「貴方は死んだのです」
寺井は死んだの?
「貴方は魂なる存在になったので、この世界で幽霊として生きることになります」
寺井は幽霊になったらしい。
幽霊になったら、女風呂覗き放題である
「残念ですが、幽霊になると人間としての欲は無くなります」
幽霊になって何したらいいの?
「飼ってくれる人が現れるまでは自由にどうぞ」
飼う?
「とにかく、何も心配しなくていいのです」
まあ、死んでる訳だしな。怖い物はない
「死んでると言っても魂体ですから、同じ魂体に殴られたら、魂削れていきますよ?」
痛いってこと?
「痛くないですが、虚無感は有ります。魂が削れ過ぎると虚無感の果てに恨や憎しみで人を襲いたくなります」
困りますね。成仏するわけにはいかないのですか?
「成仏は人が作った幻想ですよ? 頑張ってください」
何を?
「寺井さん!」
「寺井さん!」
「寺井さん!」
寺井の恋人、池内の声だ。
寺井は病院に運ばれ、手術を受けている。
寺井は幽体離脱的に寺井を見下ろしていた。
寺井はウロウロした。寺井は自分の死体から半径2メートルの範囲でしか動けない。
上下左右に動けてモノはすり抜けるようで、触れることはできない。
なるほど。
この状態で
【飼い主が現れるまで待て】
という事か。その間、自由に2メートルの範囲を行き来できる人生な訳か
寺井は車で跳ねられた所まで覚えてるが、誰に跳ねられたとか、どんな車に轢かれた等は覚えてない。既に死んでしまったし、これ以上痛い思いもしないから。今更、犯人を恨む気にもなれない。
しかし、恋人の池内は違う様で、寺井が死んで悲しんでる。
凄く困った寺井、彼女を不幸にするつもりなんて無かった。
寺井は虚無感に包まれ、魂が少し削れた。
たしか、あの世っぽい所で、天使みたいなのが言ってた。魂が削れると、悪霊になって人に迷惑をかけると。
既に寺井は彼女に迷惑を掛けてる。寺井は虚無感によるダメージを受けて、どんどん魂が削れていく。このままのペースだと、一週間もしないうちに悪霊になるだろう。
看護師さんに連れられ寺井の死体は病院の地下(霊安室)に連れていかれた
霊安室には寺井の様な幽霊が集まってた
「はじめまして! ひき逃げされた寺井と申します」
幽霊たちに笑われた。
「何がそんなに愉快なのですか?」
天命を真っ当したと思われるご老人ばかりの幽霊たち。
寺井はその人達の人生を半分も生きてない。
「失礼じゃないですかね?」
老人幽霊は痴呆気味なのか、寺井の問いかけを理解できない
寺井は、しばらく老人幽霊たちの会話を聞いていたが、会話が成立していない
読解不能なのに、老人たちは笑いあい、じゃれあっている。
寺井は孤独に耐えながら霊安室での時間を過ごした。その間も、少しずつだが魂は削れ、悪霊に向かっている様で…
しばらくすると、少女の幽霊がやってきて、泣いている
お母さんと、お父さんと、別れ別れになって、わんわん泣いている
親は生きてるらしい、少女が言うことを分析すると、泣いてる親を見て可哀想で、それで悲しんでる
寺井は親の顔を覚えていない。早くに捨てられ施設で育ったから、親がどういうものか分からない。
少女を見ると、少女の親を思う同情心は、寺井が彼女を思う同情心よりも大きい様で、少女の魂がどんどん削れていく。このままだと半日もしないうちに悪霊化するだろう。
半日後の深夜4時
少女の魂が削れてなくなり、少女の霊体の色が白から黒に変わった。
禍々しいオーラを放つ少女、近づくだけで、こちらの魂が削れる。寺井は死体からの行動範囲である2メートルの限界ギリギリまで、少女から離れた。
少女は老人達の霊を見ると、うめき声を上げて、襲い、むしゃむしゃと、霊体を食べ始めた。心無しか少女の霊体が大きくなった気がする。
これから少女はどうなるのか?
寺井はどうなるのか?
死んだら
葬式して
火葬するのだっけ?
肉体が火葬されたら、肉体に縛られたこの幽霊体はどうなるのだろうか?
作品名:ヤクザ、VRゲームにハマる! 作家名:西中