ヤクザ、VRゲームにハマる!
日本語のWikipediaにアクセスした時点で寺井の潜伏先がバレたかもしれない。
今はバレなくてもそのうち時間の問題で
寺井はしまった、と思った。長旅で疲れていたから頭が回らなかった
キャバ嬢は、戸惑ってる寺井に言った
「どうするのよ、私は関係ないんだからね」
寺井は
その通り。と思った。
憤りを感じる寺井。
やはりヤクザ以外の生き方は、できそうにない。つつましく農業でもやろうかと思って、あれこれ人生設計をしていたが、全部無駄だったかもしれない。
絶望した寺井は
ヤケになって自分のIDでVRにログインした。
もしアカウントが監視されていたら寺井がログインしたと当時に電気ショックで殺されるかもしれない。
「どうとでもなれ!」
寺井は死ぬならVRの中で死にたい。VRに殺されるのなら本望だ。さあ、いつでも、電気ショックをしてみやがれ。
何分経っても何も起きない
寺井がVRをしてるのを そもそも政府は知らないのかもしれない
ならなおさら後悔した寺井。日本の寺井の関連のサイトにアクセスしてしまったせいで居場所割れして政府が攻めてくるかもしれない。日本にさえアクセスしなければ、つつましくアルゼンチンに定住できで、慎ましくVRをやれたのに
ふと見ると、ナギからメールが届いている事に気付いた。
メールには
寺井へ
「国の要求に従ってお爺ちゃん(会長)が組を解散させたから、沢山の組員が路頭に迷って、犯罪していて警察が困ってる。寺井の捜索をしているどころではなくて、VR系は当面監視する余裕がないそう。だから今のうちに逃げるべし、呼んだら削除をすべし」
寺井
(そうか、ナギも心配してるんだなぁ
しかし、これから、何処に逃げる?
考えても答えがでない。
そしてお腹減る
もういいや、どうでもいいや
寺井は「どうせ自分なんか!」と開き直った
寺井は嬢のヒモになった。
ヒモ生活のある日、
嬢がゴム手袋をつけて皿を洗っているのを見ていて、思いついた
たとえば
ゲームで死ぬ瞬間ヘルメットデバイスが電気ショックを与えてくるとして、ゴム手袋つけて、誰かにヘルメットを引っペがして貰って強制ログアウトさせれば、政府的にも「電気が流れだしたのね」と、死んだ事として解釈するかもしれない。死んだことになれば、政府に狙われる理由もなくなる
もしそうなら
上手くやればアルゼンチンの山々でマリファナを栽培してVR内で密売ビジネスができるかも
とはいえ
ゲームで死ぬと実際に死ぬとか、内心で寺井は信用してなかった。所詮は噂話、死を試したという話は聞いたことない。寺井は軽いノリで実験してみた
「なあ、嬢よ。これからゲーム内で自殺してみるから、本当に死にそうに見えたら、そのゴム手袋をつけて、ヘルメットをひっペがしてくれ」
寺井はゲーム内で自殺した。
瞬間
寺井の体が飛び跳ねた。電気椅子みたいになってる。
まさか!
嬢はパニックに陥り、ヘルメットデバイス外そうとした。だが、外れない。気が動転して手に力が入らないのか、システムにロックがかり外せないのか、いずれにせよ、このままでは寺井が死んでしまう。
嬢は機転をきかせてコンセントを抜いた。
しかし、電気ショックは止まらない、ヘルメットの中にバッテリーが入っているのか、寺井の体はピクピク痙攣するだけ。
嬢は、やばいとは思いつつも斧でヘルメットを思いっきりどついた。
瞬間、ヘルメットは大人しくなり
寺井は息をしていない。
心臓も止まってる
嬢は心肺蘇生をした。
元教師ゆえ、少なからず知識があった。
心臓マッサージしていたら
目を覚ました寺井
寺井は、すぐさま、ジャンプするように立ち上がり、それと同時に嘔吐した。
何度も嘔吐する。電気で内耳の三半規管が麻痺して、バランス感覚がイカれて、脳がぐるぐる回る様に、気持ち悪くなる。
30分程嘔吐し続ける
嘔吐が収まると、心が落ち着いてくるが、落ち着くと、今度は死ぬときの恐怖(トラウマ)を思い出してしまい、
過呼吸が始まる
30分過呼吸が続く
目に涙を浮かべて、ヒーヒー言ってる寺井
嬢にはどうにもできない。
過呼吸が収まらない寺井。
寺井は思わず嬢に体にしがみつき、「お母ちゃん!」と心の中で連呼した。
寺井が子供の頃に早くに死んだ親の姿、あまり覚えてない寺井だが、
嬢に母を重ねて、忘れていた記憶を走馬灯の様に思い出す
寺井の過呼吸が次第に弱くなってくる。
もう少しで、収まる
完全に収まったとき
寺井の足元には涙とヨダレと汗の水たまりができていた。
「うわーーーん、こわかったよーー! おかあちゃーーん!」
嬢に抱きついて、おっぱいに頬ずりする寺井。電気ショックで脳細胞が破壊されて、記憶をなくして、幼児退行化してる。
寺井は、はっと、我に帰った。記憶障害の症状は一時的なものだった。
「後ちょっとで、おれ絶対死んでた!
三途の川が見えてたもん」
幼児退行していたキャラが寺井から消失した
寺井の取り乱した姿を見た嬢、
このゲームの真の恐ろしさを知った。
ゲームで死ねばリアルで死ぬ
そんなありえない非常識がありうるゲーム
幸い寺井に後遺症は残っていない。
今回の実験で政府に寺井が死んだように見せられたなら、良いのだが……
壊れてしまったので
通販で新しいヘルメットデバイスを注文した。
寺井は、まずヘルメットデバイスの分解を試みた。死の原因になるバッテリーを外してみたが外すとゲーム自体が起動しない様で
このVRゲームは全世界言語に対応している。会話は自動翻訳されて相手に伝わるので、世界中に参加者がいる。アルゼンチンにも十万人程のプレイヤーがいて、日本のネットワークサービスにアクセスしなくても、ゲームだけをやる分にはアルゼンチン国内でも可能になってる。
寺井は仕事としてゲームを使うつもりだ。
寺井はアルゼンチンの中でも麻薬を売り始めた。やり方は日本に居た時と同じで、砂浜で文字を書き、その文字で客とコミュニケーションして取引を成立させる。マリファナの配送も事務所でやってたのと同じように全国どこだって郵便にて贈りつけた。現金の受け渡しは、ゲーム内通貨か、現金化できそうなアイテムを砂浜に隠して貰うようにした。一気に多額の価値があるものを所持すると、当局の監視に引っかかる恐れがあるからだ。
寺井と嬢はしばらく豪華な食事をした。
今回も嬢は密売を手伝ってくれ、役に立った
嬢はしばしば、日本に帰りたい、と呟いた。嬢は警察から逃亡し指名手配されていたから、両親が悲しんでいた。嬢の居場所が警察にバレては困るから家族にメールは出来なくて、だから、ときどき無性に寂しくなることもあって
そういう時は、ナギや寺井とネトゲをして気を紛らわしていたが、今はナギも遊ぶ余裕がないみたいで、嬢には寺井しかいなかった。寺井もまた嬢しか頼れる相手が居ないわけで……
(ああ、もう、ナギちゃんとゲームしたい!)「皆でVRやりたいな」
寺井と嬢が呟いた頃、ナギも同じ事を考えていた。
作品名:ヤクザ、VRゲームにハマる! 作家名:西中