小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

記憶

INDEX|3ページ/29ページ|

次のページ前のページ
 

 だからこそ、黒魔術などに嵌っても問題ないのかも知れない。今まで思っていた宗教に対する考えが変わってきた気がしたが、考えてみれば、少数派の宗教ほどカルトに嵌りやすく、世の中に対して迷惑を掛ける団体として、世間を騒がす存在になってしまうのではないだろうか。
 だが、あすなの場合は彼女が推奨している宗教に嵌る気はしなかったが、宗教に嵌っているからと言って、彼女を避けるようなことはしなかった。やはり、
「来るものは拒まず」
 という思いがあるからだろう。
 その友達に、小学生の頃に見たマンガに書かれた、
「石ころを題材にした未来アイテム」
 の話をした時、興味深く聞いてくれた。
「世の中には消してしまいたいと思っていることって、結構たくさんあるものなのよ。私も自分の存在を消してしまいたいと思ったことも何度もあるわ。逆に消えてほしいと思っている人だって、誰にでも一人くらいはいるんじゃないかって思うの。大人になるにつれて、それが増えてくるか、一人だけでそれ以上増えないかによって、その人の性格も分かってくるのかも知れないわね」
「というと?」
「一人だけというと少ないと思うけど、一人だけを執着して思っているというわけだから、却って増えるよりも怖いことなんじゃないかって思うのよ
 彼女の話にも一理あると、あすなは感じた。
 彼女は実際に中二病的なところがあった。怪しい儀式などをするというわけではないが、妄想の激しさは他の人の比ではなく、あすなもついていけないほどであった。ただ、妄想は空想でもあり、彼女の話を無視することはできなかった。話を聞いていて、
「なるほど」
 と思うところもあり、中二病的なところがあるというだけで無碍にもできないと思うのだった。
 あすなにとって話を聞いていて感慨深く感じたのは、彼女が思い描いている世界は決して空想だけから来るものではなく、実際に古代の書物に書かれていることに基づく発想であるということだ。
 要するに勉強さえしていれば、信憑性に関しては疑問が残るが、話としては十分に聞けるものである。それを思うと、
――この人は損な性格なんじゃないしら?
 と感じるのだった。
 確かに話し方も、最初はいきなり唐突に入る。話に入ってしまうと、脈絡のある実のある話をしてくれるのだが、最初が唐突なために、どうしてもまわりは警戒してしまって、すぐに話の腰を折って、彼女の前から立ち去ってしまう。さらにそれを彼女は別に失敗したと感じているわけではないだろう。まったく表情を変えることもなく、彼女もその場をすぐに立ち去るのだ。
 そんな彼女が教えてくれた小説は、普段の話ほど奇抜なものではない。もっとも彼女の話を小説にしようとするならば、かなり偏った書き方になって、本当にカルトな人でなければ理解できないものになるだろう。もし彼女が読むのであれば問題はないのかも知れないが、まだ入門編も読んだことのないあすなにとっては、ハードルが高すぎるだろう。
 彼女もそのことは分かっているのか、比較的普通の人でも興味を抱くような話だった。あすなにはありがたい内容で、小学生の頃に読んだマンガとも重なって、入りやすい内容だった。
 教えてくれた小説は古代文明の話で、そこでは時間の流れを自由に操る呪術師がいて、占い師のような役目も負っていた。文明をつかさどる国王も、彼の力には一目置いていて、彼が国王に差し出す、いわゆる、
「未来アイテム」
 は、それなりの効果があったようだ。
 普通は国民のために使われることが多かったが、時には国王の私利私欲の元に使われるものもあった。彼の持っているアイテムは、未来ということであるが、未来である今もそんな効果を持ったものは発明されていないものがほとんどだった。
 元々、最近書かれた架空小説なのだから、時代背景が古代というだけで、見ている未来は同じなのかも知れない。そのことを作者は意識していたのか、それを考えるとまた違った視線から小説を見ることができて、深みが感じられた。
 読んでいると、未来アイテムの中に、
「これらのアイテムの中には、未来にならないと効果を示さないものもある。しかし、今の時代であっても、その効果を示すことができるというアイテムも存在する。それは究極のアイテムであり、禁断のアイテムでもある。だから決して使用することはできないのだ」
 というものだった。
 おとぎ話や昔話には「つきもの」とでもいうべきか、
「してはいけない。見てはいけない」
 と言われるキーワードである。
 呪術者の持っている未来アイテムの使用権原があるのは国王だけである。呪術者本人もその使用には国王の許可がいる。本来の呪術者の力を持ってすれば、国王の意志を思うように操ることくらいは朝飯前のはずだった。
 だが、彼はそれをしようとしない。頑なに自分で拒否していたのだ。彼は自分には国王ほどのカリスマのないこと、統率性もなければ判断力もない。
 確かに国王は独裁的なところがあり、本当にこの国がいい国かと言われると疑問ではあるが、呪術師には絶対にできないことだと思っていた。
「人にはそれぞれ役割というものがある」
 と国王は言っていたが、その言葉を身に染みて感じているのか、この呪術師ではないだろうか。
――俺はそんなに偉い人間ではない――
 という自覚があった。
 彼は呪術師と言っても、普通の庶民と変わりはなかった。
 不思議な未来アイテムを持っているだけの普通の市民である。
 元々彼は未来からタイムスリップしてきただけで、未来アイテムも彼の時代には庶民が普通に持っていたものだ。古代だから不思議なアイテムとして重宝されるだけで、彼にとっては別に不思議でも何でもないことだった。
 あすなは彼の未来アイテムが今のこの世にはまだ存在していないものであることに着目した。
――時代背景が古代なんだから、今の世に存在しているものであっても、古代であれば、不可思議な未来アイテムとして十分なはずなのに、今の世の中にもまだ存在していないものだということは、そこに何か意味があるのではないか――
 と感じた。
 あすなのその考えはどうやら的を得ているようだった。少なくとも本を貸してくれた彼女にも同じ発想があったようだ。
「そうなのよ。私もそこに着目したの」
 珍しく、彼女は興奮していた。
 自分と同じ発想であるということに、本を貸した相手が感じてくれるということで自分の考えが間違っていなかったということを感じたのか、それとも誰にも言えないと思っていた発想を抱いてくれたことで、話題ができたことを喜んでいるのか、どちらにしても思いはあすなも同じであり、あすなの中でもこの発想が間違っていないという思いに至ったことは嬉しかった。
 この本を読んだ人が皆同じ発想を抱くとは考えにくいが、逆に少なくとも二人のうちの二人ともが同じ発想に至ったということは、似たような発想を持った限られた人にしか理解できない小説だということの証明ではないだろうか。
「このお話は、古代文明の時代だけがテーマではなく、未来に対しての発想もテーマではないかと思うのよ」
 と彼女は言った。
「というと?」
作品名:記憶 作家名:森本晃次