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記憶

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 マンガでは、主人公が石ころのアイテムを使って、まわりから気配を消しながら、目的のことを達成しようとするのだが、最後にはうかつにもそれを落としてしまい、現れてはいけない場所で、彼は姿を現した。現実の世界ではそんな状況になれば、警察沙汰にでもなるシチュエーションだった。
 しかし、あくまでもマンガのワンシーン、子供向けのマンガにそんなリアルな話を描くことはできない。そこはボカシて、いかにも少年マンガらしく、コミカルに描いている。このマンガは、SFとしての骨格を持ったコミカルな物語なのだ。それだけに教育的観点にもそぐわれていて、それが長年連載が継続されている理由なのだろう。
 それまではマンガなどあまり読んだことはなく、特に少年誌は読まなかったが、アニメ化されたことで気になるようになり、単行本も全巻揃えたほどだった。
 そんな小学生時代だったが、中学時代も小学生の頃とあまり変わりなかった。しいて言えば思春期が訪れたという程度で、本当は「大人への階段」と言われるような時期なのだろうが、大人の片鱗すら見えずに過ぎてしまった時期だった。
 好きになった男の子はその子だけではなかったのだが、小学生の頃の思いがあるため、自分でも好きだと思っている子が本当に好きなのか、疑問でしかなかった。だから好きになったという思いよりも、好きになったということを打ち消したいという気持ちの方が強く、その子にはもちろん、他の誰にもあすなの気持ちを知っている人はいなかっただろう。何しろ、本人にすらよく分かっていないのだから……。
 小学生の頃に見た、石ころなどをキーワードに未来アイテムを題材にしたマンガを読んでいると、中学に入ってからは、異世界ファンタジー系のマンガをよく読むようになった。
 クラスメイトも結構異世界ファンタジー系のマンガを読んでいるようだが、あすなが読む本は、他の人が読んでいるのとは少し違っていた。少数派が読むようなマンガで、マンガの世界というよりも小説になりそうな感じのお話だった。
 どちらかというとダークな部分が多く、
「子供よりも大人が読むマンガ」
 だと、よく言われていた。
 しかし、あすなは大人よりも子供、しかも自分くらいの中学生が読むマンガだと思っている。いわゆる
「中二病」
 と言われるような、想像が妄想に変わってしまいそうな内容で、逆に言えば、
「妄想しなければ、ダークすぎてついていけない」
 と言われるほどのマンガだった。
 読み始めたのは中学に入って半年ほど経った頃で、中学入学当時は友達がいなかったあすなに声を掛けてきた子が好きなマンガだったのだ。
 あすなは小学生の頃の、気持ち悪い男の子を好きになったあの時から、まわりに友達らしい人はいなくなった。友達だと思っていた子も、
「言わないでね」
 と言ったことをいとも簡単に破ってしまったことで仲たがいしたことから、唯一だった友達もいなくなってしまったのだ。
 あすなはそれでもいいと思っていた。
――私は他の人と同じでは嫌な性格なんだ――
 と思うことで自分を納得させていた。
 それは小学生の頃からずっと変わっておらず、それ以上でもそれ以下でもなかった。
 あすなは中学に入学しても、
「少なくとも中学三年間では友達はできない」
 と思っていただけに、声を掛けてきた時、その女の子の顔を穴が開くほど見つめた気がした。
 普通であれば、失礼に当たると思うであろうが、あすなとしては、それよりも相手に対して、
「どうして私なの?」
 と聞きたい気持ちが一番だった。
 相手もあすなの気持ちが分かったのか、あすなが驚愕の表情で見つめた時、ニッコリと微笑んでいたのが印象的だった。
 だが、後から思えば、
――彼女が先に声を掛けてくれなければ、いずれ私の方から声を掛けていたかも知れない――
 と思った。
 つまりは時間の問題だったということなのだろうが、中学に入学した時最初に感じた思いが脆くも半年も建たないうちに崩れてしまったのは、実に皮肉なことだった。
 嫌というわけではない。後から思えば、自分が声を掛けたかも知れないと思ったくらいだ。元々中学三年間で友達ができないと思い込んでいたのは、自虐的な性格がそうさせただけのことであって、いわゆる、
「意地を張っていただけ」
 と言ってもいいかも知れない。
 だが、あすなに声を掛けてくるくらいなので、あすな以上にまわりから疎まれている存在ではないかと思ったが、実際には彼女は友達もいるようだ。よく見てみると、友達の数も多いくらいで、特徴としては、
「どんなタイプの人も友達には含まれている」
 ということだった。
 そういう意味で、あすなのような性格の女の子は他にはいなかったので、あすなが選ばれたのは、必然だったと言ってもいいだろう。
あすなとしては、友達がほしいというわけではなかったが、友達になってくれるというのであれば歓迎であった。
「来るものは拒まず」
 と言えば聞こえはいいが、それほど上から目線というわけではない。
 あすなよりもまともと思えるような子は、友達になってくれるはずがないと思っているだけに、相手から歩み寄ってくれることは嬉しい思いがあった。逆に数少ないと思われるあすなよりも、
「ヤバい」
 と思われる性格の子であれば、仲間意識が生まれることでこちらもありがたかった。
 要するに拒否る理由がないのだ。
 その友達は、オカルト的なことを趣味にしていた。タロット占いが趣味というだけで他の人は引いてしまったくらいだが、実際の彼女の趣向はそんな中途半端なものではなかった。
 どうやら家族がクリスチャンのようで、そういう黒魔術的なことに興味を持っているようで、家族全員が黒魔術に嵌っていた。
「私はまだまだよ」
 と彼女は言っていたが、あすなから見れば、
「そんなことはない」
 と言いたいくらいだった。
 黒魔術に誘われることはなかったが、彼女から魔術に関する本を見せられたりはした。あすなは、
――そんな気持ち悪いもの――
 と思っていたが、実際に見てみると、気持ち悪さというよりも芸術的な側面が強く、パステルカラーも使われていて、ただ暗いという演出を施しているだけではなかった。
「考えてみれば、教会とかのステンドグラスもカラフルよね」
 と話すと、
「ええ、そうなの。私も暗いばかりの部分だけを見ていると、いくら親に進められたからと言っても、こんなに嵌ることはないのよ」
 と彼女は話した。
 一度だけ彼女の部屋に遊びに行ったことがあった。
――どんなに奇抜な家なんだろう?
 という、怖いもの見たさで行ってみたのだが、意外なことに普通の家だった。
 部屋の中でも何か特殊な催しをしているというわけでもなく、どこから見ても普通の家だった。
 彼女の部屋も何かを飾っているというわけではなく、彼女曰く、
「宗教的な活動は表でやることにしていて、家に持ち込まないようにしているの」
 という話だった。
 宗教を信仰している人としては、こちらの方が珍しいのかも知れないが、
「宗教にも数限りなく宗派があって、私たちの宗派は少数派なんだけど、意外と自由なのよ」
 という。
作品名:記憶 作家名:森本晃次