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記憶

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 というページがあり、それをクリックして見ると、時系列でメンテナンス日の情報や、ソフトのアップデートの情報などが書かれていて、その最後部に、現在あすながやっているゲームについての注意書きが書かれていた。内容を見てみると、
「平素は、我々〇〇社をご利用いただきありがとうございます。現在ご利用いただいております育成ソフトである『ジャポニカ』は、製品向上を目指している最中であります。若干仕様と異なった誤作動を起こすことがございますが、ゲーム進行に関して、大きな障害となることはございませんことをご理解いただいたうえで、今後の改良にご期待いただきますことを切に望んでおります。製品がアップロードが完成いたしましたら、このホームページで公開いたしますので、しばらくお待ちいただきますよう、皆様にはお願いいたします」
 と書かれていた。
――このゲームは育成ソフト「ジャポニカ」というのか――
 と、あすなはいまさらながらに知った自分を恥ずかしく思った。
 それにしても、些細な誤作動というのはどういうことなのだろうか? あすなはさほど気にすることもなくゲームを続けようと思っていた時、今度は別の有名メーカーで、誤作動を起こすゲームがあるという話を聞いた。
 実にタイミングのいい話であったが、そのメーカーは、あすながやっているゲームメーカーとは比較にならないほど大きなところで、日本全国はおとか、世界でも有数のゲームメーカーで、そのニュースは瞬く間に、全世界を駆け巡ったようである。
「たかがゲーム」
 ではあるが、そのメーカーの経済至上での立ち位置は結構なもので、そのメーカーの製品が不具合を起こしたというだけで、株価は暴落し、世界経済に影響を与えることは免れないという話だった。
 まだ中学生のあすなにはそこまで詳しい話が分かるわけではなかったが、親が話しているのを聞くと、結構大変なことのようだった。
 学校でも、ゲームに明け暮れている連中がウワサをしていた。
 だが、本当にゲームに明け暮れている連中は引きこもりが多く、彼らがどのように感じているのか聞くことができないので、その心境は計り知れない。それが実際の利用者と開発者の間に距離を作ってしまったことで、こんな重大なことであるにも関わらず、その改善には結構な時間が掛かるようだった。
 あすなは、そんな有名な会社のゲームをやっているわけではないので、自分のゲームに集中した。自分がメーカーのホームページを覗いてほどなくして、ゲームは恋愛展開へと発展していった。
 それまで子供として振る舞っていた克幸が、いつの間にか立派な青年になっていて、主導権も克幸に奪われていたのだ。
 克幸はあすなをゲームの中で意識している。それまでの育成ソフトでは、子供としてのプログラムに忠実に従っていたというのが分かっていたが、成長した克幸のパターンは分からなくなった。明らかにゲームの中で意志を持っているのを感じる。
 行動パターンが読めないのは、あすなにとってのドキドキを加速させるものだった。
 今までに恋愛シミュレーションなど考えたこともなかったので、克幸はあすなを巧みに誘導してくれた。
 そんな克幸を頼もしく思い、そしてその様子を冷静に考えてみると、
――私の性格を知るために、育成ゲームが前兆としてついていたということなのかしら――
 と感じた。
 そう考えると、いろいろ辻褄が合ってくる。ただあすなが思うに、
――こんなことなら、もっと克幸を立てるような育て方をしておけばよかった――
 とも感じた。
 だが、母親として子供を育てるという感情に、そんなにたくさんのパターンがあるはずがない。子育てにパターンがあるというのは、人それぞれ違った子育てをするから、
「親の数だけ、子育てのパターンがある」
 というだけで、一人の親の中に、たくさんの子育てパターンがあるというのは、釈然としない考えである。
 一種のナンセンスな考えと言ってもいいかも知れない。
 あすなにとっての子育ては、
――まだ自分も子供だ――
 という考えの元に初めてはいたが、そのうちにその思いを忘れてしまうかのように、克幸に対して思い入れを深くしていった。
 それは親でしか味わえないものだという自覚はあった。もちろん、子供の自分が育てているという自覚を持ったうえでのことなので、心境としては複雑なものだった。
 克幸を育てている間、
――私は引きこもっていたのではないか?
 という思いがあった。
 学校が終われば、すぐに家に帰って部屋に入り込み、静かな部屋の中で克幸だけを見つめていた。
 夕方ともなると、近所の公園やマンションの駐車場などから子供が叫ぶ声が聞こえる。数年前まで、自分も同じ年齢だったはずなのに、中学に入ると急に冷めた目となり、
――本当に近所迷惑だわ――
 と思うようになっていた。
 だが、ゲームを始めてから、そんな騒音を気にすることはなくなった。部屋に引きこもって静かな部屋にいるのだから、普通であれば、表の騒音がやかましく感じられるだろう。しかし、ゲームをしていると、そんな騒音を意識することはなくなった。じっとゲームの画面を見ながら、実写となった克幸に誘導される自分に酔っていたのだ。
 もちろん、ゲームだという意識はあるが、逆にゲームだからこそ、実際の人間のように裏切らないという意識があった。
 今まで恋愛経験がないあすなが、男性と付き合うことも、男性を意識することもなかったので、
「男に裏切られる」
 というのがどういうものなのかというのも分かるはずもない。
 しかし、そんなあすなだからこそ、
「男は裏切るものだ」
 という言葉を聞くと、それを信じてしまう。
 裏切られ方がどんなものなのか分からないから勝手に想像する。その想像が、実際の裏切りの程度としてどれほどの深刻なものなのかも分からない。ただ漠然と「裏切り」とおう行為を想像するだけだった。
 だから、一律に、
――裏切りは悪いことで、裏切られた人間は溜まらない思いをするものだ――
 と感じていた。
 そのせいもあってか、
「人は裏切るものだ」
 というのはあすなの中で当然のこととして受け入れられている。
 それだけに裏切ることのないゲームにのめりこむのだった。それを思うと、同じくらいの年齢やもう少し上の人が引きこもっているというのも分かる気がする。それまで裏切られたことのない人が急に裏切られてみたり。逆に過去から今まで裏切りや理不尽の中にいた人間が一縷の望みを引きこもりに求めたとしても、それは仕方のないことだと思うようになっていた。
 あすなは、克幸からは、
「決して私を裏切ることはない」
 と思っている。
 だからもし克幸が少しでもおかしな行動をしたり、自分の想像しているのと違う行動をすると、すぐに察するだろうと思っている。
 もっとも、機械なので、精密に計算されていることなので、そんなことはないと思っていたが、一抹の不安としては、この間見たゲームメーカーが提示していた、
「些細な問題」
 が気になるところではあった。
作品名:記憶 作家名:森本晃次