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記憶

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「でも、人間だって善悪の考えは分かっていたとしても、悪人と呼ばれる人は後を絶えないのよ。それを思うと人間も同じようなものなんじゃないかしら?」
 とあすながいうと、
「そうかも知れないね。でも僕は自分の思考をロボットだとは思っていない。なぜならあすなさんによって成長させてもらっているからね。僕はあすなさんと恋愛を続けながら、もっともっと成長して人間に近づきたいって思っているんだ」
 綾香が教えてくれたこのゲーム、ここまで医師や感情が人間に近く作られているなどと思いもしなかった。それよりも思考能力に人間との差というのを聞かされた時、以前小説で読んだ、
「ロボットや人工知能における『フレーム問題』」
 を思い出した。
 あの時は理論的に理解しようとして、理解することへの限界のようなものを感じていたが、今こうやって克幸と話をしていると、
――限界を作っていたのは、私だけなのかも知れない――
 と思うようになっていた。
 あすなは。このゲームを通してまだ経験したことのない母性本能という意識を経験することができた。
 さらに、人間の発想の限界ともいえる「フレーム問題」を、どうやら克幸はその解決方法の糸口を知っているような口ぶりだ。
――このゲームを完走すれば、私はフレーム問題に対して一つの結論を得ることができるのかしら?
 と思うようになった。
 フレーム問題というのは、きっと一つのことを解決しても、ほんの少しでも綻びがあれば、そこからさらなる問題が生じ、まるでモグラ叩きのように、キリのない状態を演出することになるのではないかと思っている。
――克幸を信用してしまっていいのだろうか?
 という思いもあすなにはあった。
 しょせんは、ゲームの中の登場人物、リアルとバーチャルでは、どう考えてもリアルが優先されるべきである。
――リアルあってのバーチャル――
 そんなことは分かっている。
 分かっているがあすなにはその言葉だけで片づけられるものではないような気がしていた。
 ただ、あすなは彼が自分の中でフレーム問題を意識し、人間には絶対に適わないという自覚を持っているのを感じた。その感覚はあすなにとって彼に対しての印象を変えるものではなく、むしろ彼の中に、
「人間臭さ」
 を感じた。
 一見、謙虚に見えるが、フレーム問題を抱えていて、他の部分は人間と同じということは、今開発されているどのロボットよりも優秀だということだ。だが、それがリアルに開発されないのも、このフレーム問題が絡んでいるからであって、これが解決しなければ、リアルでの開発は無理なのだ。
 実際に攻撃してこずに、直接的に人間に危害を加えることのないゲームだからこそ、実現するものである。
――まさか、これって科学者の実験の一環なのかも知れない――
 とあすなはそんなことをふと感じた。
 すぐに打ち消されたが、どうやらこの思いは、
「当たらずとも遠からじ」
 で、十分に的を得ているものだった。
 あすなは実験であっても、それはそれでいいと思っていた。克幸が自分のものになったのであって、自分が育てたという自負もある。ただ、自分が育てた子供をリアルな映像にしかたらと言って、急に恋愛感情が持ているかと言うと、どうにも疑問があった。
 だが、ここまで気持ちが通じ合っている会話ができてしまうと、もはやそれは自分の子供ではなく、
「恋愛対象を持った相手だ」
 と言ってもいいと思った。
 あすなは克幸の顔を直視できないでいた。そこには二つの理由があり、一つは、
「相手にすべてを見透かされていることで目を見るのが怖い」
 という思いと、
「この前まで子供だったはずのこの人、いくらリアルな映像になったからと言って、懐かしさを感じさせるというのはどういうことなのか?」
 という思いがあったからである。
 後者はあすなが直感で感じたことであり、前者は話をしていて徐々に感じてきたことである。
 どっちの方が強いのかというと、
「印象的な強さは前者であり、余韻を残すような徐々に襲ってくる意識は後者」
 と思った。
 そこに矛盾があるのは十分に感じていたが、あすなは克幸を育てるために始めたこのゲームへの思い入れが、最初の頃と変わっていくことを感じながら、どのように変わっていったのかを、感じようとはしなかった。
 それは感じることへの恐怖があったからで、せっかく素直な気持ちで子供を育てるというバーチャルな経験をしているのに、邪念を持ちたくなかったというのが本音だったに違いない。
「あすなさんは僕を好きになってくれているのかな?」
 と克幸は言った。
「ええ、好きになっているわ。あなたには分かっているんじゃないの?」
 というと、
「それは分かるんだけど、あすなさんは一方通行に感じられて、それは謙虚さから来ているような気がするんだ」
「というと?」
「どうしても母性本能が邪魔をするのかも知れないんだけど、僕に好きになってもらいたいという気概を感じないんだ。それはそれでもいいと思うんだけど、僕には少し寂しい気がするんだ」
 彼はあすなが懐かしさを感じていることを分かっていないようだ。
 あすなが彼に自分を好きになってほしいと思わない感覚は、この懐かしいと感じた思いを、消したくないという感情から来ているものだったのだ。

              「たかがゲーム」、「されどゲーム」

 ゲームを始めてからどれくらい経ったであろうか、いよいよ克幸はあすなと同じくらいの年齢になり、ゲームが第二段階に達したようだった。しかし、その感覚を与えないのがこのゲームの特徴なのか、気持ちに違和感を感じながらも、恋愛関係に陥るような出来事はなかった。
 学校で綾香に会って聞いてみたが、
「私も実際にそのゲームをしたわけではないので詳しいことは分からないんだけど、そういうものなのかも知れないわね」
 と言われただけだった。
 そしてそのうえで、
「このゲームの開発メーカーが公開しているホームページを教えるから、アクセスしてみればいい」
 と言われ、アドレスを教えてもらった。あすなは一抹の不安を覚えながら、メーカーのホームページをアクセスした。
――それにしても、綾香も自分でやったこともないゲームを、よく人に勧めたものだわ――
 とあすなは思ったが、それなりに楽しんでいるだけに、その時は彩香に対して恨み言もなかった。
 綾香に教えられたホームページを見てみると、そのゲームメーカーは、それほど有名なメーカーではないらしく、ゲームの数もさほどのものではなかった。
 しかも、ゲームのほとんどは、他の有名メーカーから出されているようなゲームと類似したものが多く、変だと思って見てみると、どうやらこの会社は有名メーカー出身のエンジニアたちが独立会社を立ち上げたという経緯を持った会社であり、類似しているのは、その開発者の性格によるものだという。
 ゲームメーカーとしての歴史もそれほどなく、要するに最近できたマイナーな会社のようだった。
 ホームページを見ていると、その中のコンテンツに、
「お知らせ」
作品名:記憶 作家名:森本晃次