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記憶

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 だが、それも小学三年生の時点で、克幸を見ながら、無意識にであったが、過去の自分と重ね合わせてみてしまったという軽い気持ちが招いたことだと思うと、悪いのは自分だということになる。
 それならば、悪いのは自分だと思うことで、ある意味一件落着しそうな感じであるが、それだけでは気が済まないあすながいた。
――私は一体何を考えているのだろう?
 その先に何か自分の求めるものがあるような気がして、あすなは今の自分を見ればいいのか、過去に遡った自分が、その先を見ている感覚になるのがいいのか、少し思案していた。
 ゲームに入り込んでしまって、過去を顧みたことで何かの形が現れたのだとすれば、それを悪いことだとして言及するよりも、それを事実だと認め、その先を考えていく方がいいのではないかとあすなは考えた。
 あすながゲームをやっているのか、主人公の克幸が成長していて、それをあすなが見守っているだけなのかのどちらかではないかと思うようになっていた。本当はプレイヤーであるあすなが子供である克幸を育てるというのはゲームの主旨なのに、主人公である克幸があすなの精神状態を踏襲してしまったことで、プレイヤーとしてのあすなの「仕事」を取られてしまったような気がして、それが忌々しい気分になっていた。
「そもそも私が始めたゲームであり、主導権は私にあるはずなのに」
 という思いを口にして呟いてみたが、まるで負け犬の遠吠えにも聞こえてきて、
――私は一体何をやっているんだ――
 というぼやきに繋がってしまうのだった。
 育成ソフトのゲームというのは、こういうものなのだろうか。あすなは他の育成ソフトを知らない。普通のゲーム機でのゲームはしたことがあったが、スマホのアプリでのゲームは初めてだった。
 あまり変わりがあるわけではないが、普段使用している端末でゲームができるということはもちろん知っていたが、それをしようとは思ってもいなかった。そういう意味では人の影響を受けることが今まではなかったので、新鮮ではあるが、ここまで自分がのめりこむなど、想像もしていなかった。
 ゲームの中の克幸も、どんどん顔が変わってきているような気がした。ゲームなので、アニメ調のタッチになっているので、顔が誰かに似るということはないが、アニメ調の克幸の顔を見ていると、小学校の頃にクラスメイトだった克之君の顔が思い出されるから不思議だった。
 顔が変わってきているような気がしたというのは、実際には変わっているわけではないのだろうが、友達だった克之君の顔に似てきていると感じたことで、顔が変わってきていると思ったに違いない。
 あすなはゲームの中とはいえ、クラスメイトを自分で育てていると思うと複雑な心境になってきた。
 克幸の言葉はアニメ調だけに吹き出しの中に文字で表現される。その中で、
「ママ」
 という言葉を見つけると、ドキッとしてしまって、アニメの克幸を見つめた。
 自分の顔が赤くなってくるのを感じた。子供の頃の克之君の顔に対して、決して顔を赤くなるような雰囲気を感じるはずはなかった。ましてや、アニメの主人公で、設定は「息子」となっている男の子に顔を赤くする必然性はまったく感じられない。
 しかも、呼びかける言葉は、
「ママ」
 なのだ。
 あすなは、思春期の自分の中に母性本能が芽生え始めているのを感じた。考えてみれば、思春期は成長期であり、すでに初潮も迎えたあすなは身体としては、妊娠することができる身体になっているということだ。思春期というのは、そんな身体に精神が追いつくための時期であり、それを意識させる時期だと言えるのではないだろうか。
 ゲーム内の克幸はママに従順である。
 あすなの考えていることを忠実に克幸が演じている。だが、そんな時、登場人物の中に別の女の子が登場してきた。
――誰なの、これ――
 と、あすなは感じたが、そういえばこれを教えてくれた綾香から、
「このゲームはプレイヤーの予期していなかった登場人物も出てくるわよ」
 と言われていたのを思い出した。
 それを聞いた時は、別に新たな登場人物が現れたくらいなんでもないと思っていたので、軽く受け流していただけだったが、実際にやってみて、ゲームに嵌ってしまうと、新たな登場人物が今後の展開にどのような影響を与えるかを考えると、決して軽く受け流せるものではないだろう。
 いや、あすなとしては、そんな問題ではない。自分が嵌ってしまったゲームで、しかも自分が子供である主人公に対して不思議な心境を抱くようになると、すでに他人事ではないことに気付いてしまったのだ。

                  克幸の成長

 新たな登場人物に、名前を付けなければいけないらしく、ポップアップされた内容としては、
「名前を付けてください。もし自分で決められない場合は、ゲーム内で勝手に命名します」
 と書かれていた。
 あすなは、自分で名前を付けることを控えた・思いつかないというのもあったが、彼女に対してライバル視している自分を感じたことで名前を付けることができなくなってしまったのだ。
 あすなは、
「任意」
 と書かれた方をクリックすると、アプリ内の方で、
「では、今から命名します。しばらくお待ちください」
 と言って、ポップアップで、
「考察中……」
 という文字がついたり消えたりしていた。
 本当にしばらくしてからやっと決まったのか、
「お名前を『春奈』とします。設定は、克幸君を思っている女の子ということになります」
 と説明があった。
 どうやら、春奈の方では克幸を好きなようなのだが、克幸の方ではさほどのことを感じていないようだ。あくまでも一人の女友達というだけで、それ以上でもそれ以下でもないということだ。
 あすなはホッとした気分になった。そして感じたこととして、
――ひょっとして小学生時代の克之君のことを片想いしていた女の子がいたのかも知れないわ――
 と感じた。
 いや、それは今感じたわけではなく、最初からあすなの中にあり、その思いがゲームに伝わり、
――春奈という登場人物を作り出したのかも知れない――
 と思ったのではないだろうか。
 春奈はゲームの中ではただ登場してくるだけで、なかなか克幸にアプローチを試みるわけではない。克幸も大人しい男の子で、春奈も大人しいので、見ていてある意味じれったく感じられるほどであり、母親としての嫉妬もあるうえで、じれったさも感じることで、その心境は実に複雑なものになっていた。
 春奈は克幸といつも一緒に学校に行くという設定だけが、恒例となっているキャラクターだった。春奈は自分の気持ちを内に秘めながら、決して思いを打ち明けることなく、ただ克幸に寄り添っている。そんな二人を見ていると、最初はじれったいと思っていたあすなも、次第に微笑ましく思えてきた。
 微笑ましく感じられると、今度は不思議と春奈が気の毒に思えてきた。
――春奈ちゃんはこれでいいの?
 と感じるようになったのだ。
 この頃になると克幸に対しての嫉妬心は薄れてきた。母性本能の方がまたしても強くなり、春奈のことを、
「息子の初恋の相手」
 という見方ができるようになっていた。
作品名:記憶 作家名:森本晃次