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記憶

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 と思ったが、考えてみれば、ゲーム開始の時点でキャラクター設定をするのだから、主人公が男女のどちらかしかないパターンということで、プログラムは容易にできるのはないかと思った。
 あすなは生れてきた男の子に、
「克幸」
 という名前を与えた。
 もちろん、新田克之を意識してのことだが、バーチャルなゲームで自分が知っている、しかも初めて意識した異性を相手に選ぶといったシチュエーションに酔ってしまっている気がした。
 克幸は彩香という母親から生まれた子供である。しかし、綾香の話では、
「これは恋愛ストーリーなのよ」
 と言っていた。
 ということは、恋愛関係に陥るのは、自分の息子ということになる。
――いわゆる近親相姦ではないか?
 と思った。
 だが、これはあくまでもゲーム、ゲーム上であれば、近親相姦であろうが、不倫であろうが、何でも許されるのではないかと思う。だが、それもリアルすぎないことが前提であろう。人によってはゲームの七のバーチャルな世界と現実のリアルな世界とを混同してしまう輩もいて、それが犯罪に結びつかないとは言えないからだ。
 まだ中学生であるあすなにもそれくらいのことは分かる。実際にテレビのニュースなどでは、男女の歪な関係の縺れからの、猟奇的な事件が起こっているのも事実だからだ。
――また余計なことを考えちゃった――
 あすなは、一旦横道に逸れた発想をしてしまうと、ある程度までいかないとその思いを断ち切ることができないという悪い癖があった。
 だが、一度断ち切ってしまうと、余計な考えを思い出したとしても、最初に考えたほどの歪な考えに至らないこともあすなの特徴でもあった。そういう意味で、あすなの性格というのは、
「よくできている」
 と言えるのではないだろうか。
 このゲームは他の育成ソフトのように、日々成長させていくものなので、一気に成長するというものではない。だが、成長のすぴーーどはかなりのもので、主人公の年齢に達するまでに、プレイヤーの育て方にもよるが、結構早かったりする。
 実際に同じ年齢に達すると、今度は恋愛モードが始まるわけだが、その期間が長ければ長いほど、楽しいものになることは誰の目にも明らかなことであろう。あすなも当然そのことは分かっていて、
――早く大きくならないかな?
 と思っているのだ。
 だが、実際に育成してみると、子供として見るのが可愛くて仕方がない。
――これが母性本能というものなのかしら――
 と思ったが、あすなはまだ中学生である。
 やっと思春期に入り、男性を異性として意識し始めたくらいの時期である。母親としての母性本能などまだまだ先だと思っていただけに、複雑な心境だった。
――まさか、お乳なんか出てこないわよね――
 母親は妊娠すると母乳が出るようになるというのは、保健の授業で習った。
 あすなもそれくらいの知識は習うまでもなく知っていたのだが、人によっては妊娠もしていないのに母乳が出るということもあるらしい。
「それは想像妊娠というやつね」
 という話を聞いたことがあった。
 想像妊娠という言葉だけは聞いたことがあったが、実際に妊娠してからでないと出るはずのない母乳が出るというのだから、すごいものだとあすなは感じていた。
 あすなは思春期に入ってから、それまでの自分を子供だという意識を感じていたので、大人になっていく自分に複雑な心境を抱いていたが、このゲームをするにあたって、今度はさらに発展して、
「母親の気持ち」
 にまで思いが至ってしまうというのは、複雑な心境どころか、自分の母親がどうだったのかということまで考えてしまうほどであることに、戸惑いを覚えるようになった。
――たかがゲームなのに――
 と思ったが、
「たかがゲーム、されどゲーム」
 もう一人のあすなが自分の心の中から語り掛けてきた気がした。
 ゲームを始める前から、いろいろなことを思い浮かべてしまって、すでに半分くらいゲームが進んでいるような錯覚すらあった。今までにゲームと言うものをしたことがない人ならいざ知らず、他の人に比べれば圧倒的に少ないとはいえ、ゲーム初体験ではないのだから、ある意味新鮮な気持ちになっていると言えるのかも知れない。
 綾香からの話としては、基本的な仕様は聞かされていた。
「このゲームは、まず子供が生まれるところから始まるんだけど、最初にプレイヤー、つまり主人公の年齢などを設定しておくと、まずはその子を成長させるんだけど、自分の年齢になるまでの成長というのは、結構早いんだ。子育て育成アプリの特性よね」
「ええ」
「でもこのゲームの特徴は、自分と同じ年齢まで子供が育つと、その子が今度は恋人に変わるのよ。つまりは、子育てゲームから恋愛シミュレーションゲームに発展するので、一つで二つのゲームを楽しむことができる」
「そうなんだ」
 あすなはそれを聞いた時、若干の違和感があった。
 確かに近親相姦という意味での違和感はあったに違いないが、それとは違うものがあった。
――子供として育ててきた相手に、果たして恋愛感情を抱くことなどできるんだろうか?
 という発想である。
 恋愛経験のないあすながよくこのことに気が付いたと思われるかも知れないが、逆に恋愛経験がないことで単純に考えた疑問として浮かんできたことなので、それだけ新鮮なのかも知れない。
 あすなにそのことを聞いてみると、
「あすなは恋愛経験がないからそう思うのかも知れないわね。でもあなただって誰か好きになった人がいなかったわけではないでしょう? その人に対しての思いの中に、母性本能がないとは言えないんじゃないかしら? 私は『何とか愛』というものはそれぞれに特徴があって共通点は少ないと思うんだけど、切っても切り離せない境界線のようなものがあるような気がするの。それを思うと子育てゲームの発展形として恋愛シミュレーションがあってもいいんじゃないかって思うのよ」
 綾香の話には一理ある気がした。
 もっとも恋愛経験のないあすななのだから、丸ごと綾香の話を信じたとしても、それは無理もないことであろう。
 あすなが綾香の話を思い出している間、設定も終わり、いよいよ子育て育成ソフトとしてのゲームが開始された。
 これも綾香の話であるが、
「他の子育て育成ソフトと同じで、放置していると死んじゃうから、気を付けてね」
 と言われた。
「たかがゲーム」
 と思ったが、さすがに死んでしまうと言われると気になってしまった。
 自分が携わらない他人事であれば、
「死んでしまう」
 と聞くと、笑い事で済ましていたかも知れない。
「死なないようにしないといけないわよね」
 と念を押したが、その心配はゲームをやってみてよく分かった。
 出産はおろか、彼氏もいない状態で、母性本能が生まれるなど、最初は半信半疑だった。だが、育ててみれば成長が楽しくて、学校で授業が終わるのが待ち遠しく、帰り道も急いで家に帰ろうと意識して早く帰っていた。
 考えてみれば、先に出産があって、子育てをして、その後に恋愛する。これは普通に考えれば逆のことである。近親相姦という怪しげな設定になってしまうのも、この矛盾した順番がもたらした副作用のようなものである。
作品名:記憶 作家名:森本晃次