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記憶

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 あすなは自分が浴びている視線を過剰に感じているのではないかとも思ったが、その視線を感じることで反応する身体は間違いなく大人への階段の入り口であり、身体が先に反応するというのは、思春期の特徴なのだと思うようになっていた。
 別に思春期について人に聞いたりしたこともなければ、資料で調べたこともないが、それはあすなだけではない。誰もが体験することでそれを思春期を感じるのだ。
 中二病という言葉だけは、よく分からずに自分で調べてみた。
「中学二年生が陥るような背伸びしたい感覚から、架空ファンタジーの主人公に自分を例えてみたりするそんな自分を感じ、さらに自己愛も絡むような感覚だ」
 と書いてあった。
 中二病という言葉はそれを卑下するような表現であり、実際にその感覚になっている人が自虐的に使う言葉でもあると書かれていた。
「綾香もそうなのかも知れないわ」
 と感じたが、これを調べたのは綾香と知り合って、彼女の口から一度だけであったが、中二病という言葉が聞かれたからだった。
 気持ち悪い人ばかりが気になるようになったあすなも、男女問わず気になる人が変わっていることで自虐的になっている。
 消したい存在と考えるようになったのは、本当は皆からという意味ではなく、自分を変な目で見そうな人たちからだけ消えたいという都合のいい考えの元だったのである。
 いろいろなことを考えながら、育成ソフトをやってみることにした。最初にいきなりやろうとした時の気持ちとどこかが変わっているのだろうが、何かを考えていたということはそれなりに考えはあったに違いない。
 最初は赤ん坊が生まれるところからである。旦那や産婦人科の先生から祝福され、新たな命が生を受けた。
「ありがとう」
 母親としての自覚を感じたあすなだったが、
――これが本当の母親の意識とは正直思えない――
 という思いもあった。
 もしゲームごときで母親になったような気分になれたのなら、実際に母親になった時、どんな気持ちになるのだろう。もちろん、これ以上であることは分かるが、今ここで母親になったという意識を持ってしまうと、実際に母親になった時、さらに感動が深まるのか、それとも、その時、
――思っていたよりも大したことないんじゃない――
 と思うかのどちらkであろう。
 あすなとしては、後者の方が強いような気がした。もちろん根拠があるわけではない。根拠がないから不安が募り、よからぬ方に想像が向いてしまうのだろう。
 あくまでも出産はゲーム上でのこと、母親が出産し、自分に弟か妹が生まれた時の喜びくらいに抑えておくのが一番だと思った。
 あすなには、幸いにも年の離れた弟がいた。まだ小学生の低学年で、弟が生まれた時の印象は、少しだけだが残っている。
――あの時は嬉しかったな――
 と回想できた。
 兄弟が特にほしかったわけではないが、実際に生まれてきて、家族の満面の笑みを見ると、あすなも嬉しい気分にさせられることも当然のことのように受け入れた。
 弟はあすなになついてくれた。物心ついた頃からいつもあすなのそばにいた。小学校に通うようになって四六時中というわけにもいかなくなったが、一緒にいれる時は、いつもそばに弟がいたのだ。
 あすなはそれを当たり前のことのように受け入れていた。
「学校で友達がいなくても家に帰れば弟がいる」
 この事実はあすなに安らぎと癒しを与えてくれた。
 どちらか一つでもかなり安心感があるのに、その両方を与えてくれる弟は、あすなにとってなくてはならない存在だった。
――このまま弟と離れられなくなったらどうしよう――
 という思いも宿るくらいであった。
 普通、小学生がそこまで考えることはないだろう。それだけあすなは心配性でもあったし、その時の自分の心理状態を把握していたということだろう。
 心配性というのは、
「好事魔多し」
 ということわざにもあるように、悪いことはあまり考えないようにして通り過ぎるのを待つしかないと思っていたが、いいことというのは、
「このままずっと続いてほしい」
 という思いとは裏腹に、
「裏に潜んでいるであろうたくさんの災いが怖い」
 という思いもあったのだ。
 それでも何かよからぬことが起こっている間、何も考えない方がいいと思いながらも、どうしても考えてしまう。それと同じで、いい時には悪いことが潜んでいるということを気にしながら、あまり気にしすぎるのはいけないという思いが交錯し、それが言い知れぬ不安になってしまうことが多かった。
 そんな心配性なところがあるあすなのことを、まわりは意外と分かっていた。あすなに誰も近寄ってこなかったのは、そんなあすなを見ているからだった。心配性の性格が災いしてまわりへの壁を作ってもいたが、その壁の存在をまわりは意外と知らないこともあって、見えている部分だけを見ると、あすなには心配性な部分しか映らなかった。
 そんな人を相手に、何をどうすればいいのか、一番扱いにくい相手という認識をまわりの人に与えてしまったのではないだろうか。
 それでも、皆が皆あすなを警戒しているというわけではない。あすなのことを嫌いな人もいるだろうが、あすなと同調してくれる人もいた。綾香もその一人で、綾香の存在があすなにどのような影響を与えたのか、綾香がいない場合の想像がつかないので、それを考えるのは難しいことだろう。
 新田という男性もその一人だった。お互いに意識した最初の異性だったのかも知れない。少なくともあすなにとってはそうだった。だが、恋愛感情にまで陥るかどうか、微妙な感じがした。
 その感覚は新田の方が大きかったのかも知れない。あすなは、
――男の子の方が、冷めているのかも知れないわ――
 と感じたことがあったのを覚えている。
 あすなはゲームの主人公の名前を綾香にした。本当は自分の名前をつけたかったのだが、「ゲームで本名を名乗る人はいないわよ」
 という話を聞いたので、敢えて友達の綾香の名前を遣うことにした。
 ただ、字だけは変えた。「綾香」ではなく、「彩香」にしたのだ。
――綾香が見れば分かるかも知れないわね――
 と思ったが、別にそれでもよかった。
 漢字まで同じ字を使うのであれば問題があっただろうが、漢字は変えているので、別に何かを言われたとしても、別に問題ではないだろう。
 そして生まれてきたのは男の子。いずれ恋愛関係に陥るのが前提になっているので、主人公が女性であれば、当然生まれてきたのは男の子となる。
「主人公が男の子だったら、どうなるの?」
 あすなはストーリー展開について訊ねた。
「男の子が主人公の時は、母親はこのストーリーには登場しないの。女の子が主人公の場合は、子供が生まれるところからのスタートなんだけど、男の子を主人公にすると、子供が生まれた時に、お母さんはその時に死んだことになるのよ。それを最初のエピソードとしては存在するんだけど、ゲームの進行としては、その話の後から始まることになるので、悲しいシーンは登場することはないのよ」
 と綾香は言った。
「そうなんだ」
 あすなは、
――よくできている――
作品名:記憶 作家名:森本晃次