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短編集76(過去作品)

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 どっちらの太陽が大きく見えるだろう? 朝日? 夕日? 夕日を見ながら考えていると明らかに夕日が大きく感じる。靄の掛かった朝日も大きく感じるのだが、沈み行く真っ赤な夕日を見ていると吸い込まれそうな錯覚に陥ってしまう。何もかもが正反対のように感じる朝日と夕日であるが、同じものなのだ。東の空から昇ってきた太陽が、そのまま西の空に沈んでいく。分かりきっているくせに、それぞれに思い入れがあってその時々で思うことも違うだろう。
 人間を見ていても同じだ。同じ人でも時間帯によってまったく違った表情がある。その時の気分や体調によっても違うのだが、生きているものを見ているからだ。太陽に生があるわけではないが、見ている自分たちに感情や気持ちがあるのだから、それによって当然見方も変わってくる。
 公園で見た真っ赤な服の女性を夕日の下で見ればどんな感じを受けるだろう? 朝日の下で見ているから赤い色が映えたようにも思える。どちらかというと黄色をイメージする朝日の中に浮かび上がる真っ赤な服、しかし服だけが印象に残ったのではないようにも思える。
 パラドックスという言葉をまた思い出した。
――絶対に会えない二人が会うってしまうと、人間の想像をはるかに超えた現象を引き起こすことがある――
 というものだ。それが自然現象なのか、超自然現象なのか分からない。理屈の上で考えられることの限界ではないだろうか。異次元をいう発想がならしめるパラドックス、時間や距離を超越した考え方は、昔から神秘的なこととしてタプーとされることも多い。
 太陽を見ると、まるで中は鏡のようにシルバーに煌いて見える時がある。その向こうに違う世界が広がっていて、向こうはすべての光を吸収する世界ではないかと考えたことがあった。決して出会うことのない人たちは向こう側の世界にいて、こちらをじっと見ているのだ。
 我々はいつも向こうの世界にいるもう一人の自分を見ている。それは足元から伸びている影ではないだろうか。自分の角度から見ているから自分の姿に見えるのであって、他の人の位置から見れば歪なだけだ。平面の世界に生きる影、彼らは自分たちの分身であり、どこかに存在しているもう一つの世界の住人なのだ。
 彼らが自分たちの見ているものが、もう一人の自分であると分かっているかは疑問であるが、ひょっとしてもう一つの世界にも自分の影がじっともう一人の自分を見ているのかも知れない。自覚がないのは影のない世界だから。光というものをすべて吸収し、表に出すことがない。だからこそ、自分たちに意識がないのだ。それは何よりも大きな存在として、いつも自分たちの上に位置している太陽の存在をほとんど意識せずに生活しているのと似ている。
――あって当たり前、なくなるなんて想像もしたことがない――
 それが太陽である。光のない世界など誰が想像できよう。想像の域をはるかに超えて、果てしない世界を創造しない限りできるものではない。
 相川という女性、どこかで会ったことがあると思っていたが、朝公園で出会った女性の、「もう一人の自分」ではないだろうか。なぜそう感じるのか分からないが、朝日の中に感じた彼女を、今夕日を受けて消えていった姿がダブッて、意識の中に入り込んでいく。
 相川という女性を夕日の下で見た以上、もう公園で朝日を浴びた彼女を見ることができないように思う。どこかで入れ替わったのだ。
 互いの世界のそれぞれを垣間見てしまった佐竹、きっとどこかで入れ替わったのだろうが、佐竹にはそれがおぼろげに分かるような気がする。
「何となく嫌な予感がするな」
 本当に今ここで考えている自分は、明るい世界の自分なのだろうか? どこかで向こうの世界の自分と人知れず入れ替わっていて、意識だけが引き継がれたのではないだろうか?
 そういえば、見えている夕日が黄色掛かって見える。まるで朝日のように、次第に靄が掛かっていって、気がつけば公園のベンチに座っている。
「こっちへいらっしゃい」
 手招きするように目の前に現われたのは、もう二度と会うことはないだろうと思っていた真っ赤な服の女性である。
 自然に笑みが零れてくるのが分かる。懐かしさというよりも、安らぎを感じる空間は、霧に包まれてそのまま宙に浮かんでいるような心地よさがあった。私が帰りつく場所、トラウマもストレスも、そんなものはそこには存在しない。彼女がいるだけで、佐竹は永遠に存在できるのだ。
 目の前にある太陽を直視できる。眩しいのだが煌いている鏡を見ているようだ。無意識に頭を下げて足元を見てみる。そこにはあるはずの自分の影がないではないか。
 しかし不思議と驚きはない。もう一つの世界の自分の足元に伸びているのだから。
 ここは光を吸収する裏の世界。
 いつ入れ替わったのか分からないが、影を作り出し、表の世界に影を分身として送り出している。意識しているようでしていないのだ。表の世界の自分には気付かないようになっているのだろう。
 自分たちがいつも見ている影、それは裏の世界でもう一人の自分が作り上げたパラドックスなのだ。

                (  完  )


作品名:短編集76(過去作品) 作家名:森本晃次