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作家の堂々巡り

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 男の子が、本当に男らしいタイプであれば何ら問題ないのだが、見るからにナヨナヨしたタイプなのが気になるのだ。他の二人は一見何も気にしていないように見えるが、心の奥では何を考えているのか分からず、敦子は絶えず二人の女の子ばかりを見ていた。男の子を見たくないという意識も手伝っているので、必然的にそうなるのだが、きっとそんな敦子の様子が、知らない人がまわりから見ると、一番不可思議に思えるのではないだろうか。
 学校を出てからどれくらい言ってからであろうか。その日はリーダーよりももう一人の女の子の方が饒舌だった。普段、何も話題がなければ、リーダーの女の子が話題を出し、それに対して盛り上がるのだが、誰かに話題があると、リーダーは完全な聞き手に回っている。
 その関係が実にうまく構成されているので、知らない人が見ると、
「なかなかいい関係を築けている仲間なのね」
 と思うことだろう。
 かくいう敦子も他人の目で客観的に見ればそう感じることだろう。ただそれも敦子から話題を出すことがなければである。敦子が話題を出すこともあったが、そんな時はある程度までくると、会話がぎこちなくなり、うまいタイミングでリーダーが幕を引く。敦子とすれば助かったのであろうが、たまに、
――もっと話したかった――
 と思うこともあり、どうして自分だけいつも最後はぎこちなくなってしまうのかが分からず、それでも目立ちたいという気持ちは心のどこかにあるので、また性懲りもなく、話題を自分から出すこともあるのだった。
 その日の話題は、一種の、
「恋バナ」
 だった。
 彼女には心に思っている人がいるらしく、その人が誰なのか、頑なに隠しているのだが、少しでも進展があれば、黙っていることができない性格の彼女は、他に話す相手もいないことから、どうしてグループ内で話をしてしまう。
 たった一人の男の子としては、彼女にそんな話をされてどう思っているのか分からないが、目は前の一点を見つめているようで、
――彼には何が見えているのだろう?
 という思いを抱かせるが、その見えているものを想像する気にはならなかった。
 しょせん想像したところで分かるはずもないし、想像できたとしても、敦子が想像したいと思っているものとはかなりかけ離れているような気がした。
 彼は背筋を丸め、前かがみに歩く癖があるので、前を見ながら、一点に集中しているとしても、それはいつもと変わらない光景なので、意識して見ない限り分かるはずもない。
 彼はそれほど身長もあるわけではない。女の子三人と一緒にいても、背だけを比較すれば、少し大きいくらいで、男子とすれば、かなり低い方であった。
 しかも髪型も真面目で、少しおかっぱな雰囲気もあることから、
「女の子みたいだ」
 として、他の男子から距離を置かれるようになっていた。
 男子から見れば、彼のような男性は気持ち悪く思えるのだろう。特に思春期の男の子は、女の子に必要以上に意識が強いので、女の子のような雰囲気の男の子の存在は、気持ち悪いという他に感じることができないものではないのだろうか。
 しかも、彼の声も、
「声変わりしてないんじゃないか?」
 と言われるほど、声のトーンが高い。
 それでも彼が中学に入学してきた時は、男らしいとまではいかなかったが、女の子のように見えるほど他の男の子と違っていたわけではない。他の男子が中学に入ると成長期に入り、次第に男の子から男に変わっていくのに対し、彼はまだまだ男の子だった。
 彼が他の男の子のように男になり切れていないだけなのに、女の子のように見えるというのは、敦子の目がおかしいのか、それとも他の皆も同じことを思っているが、それを言わないのが暗黙の了解になっているのか、どっちなのだろうと敦子は考えた。
――暗黙の了解だったとすれば、私が知らなかっただけなんだろうか?
 と考えたが、実際にそうだったことが、その日に起こったことで証明されてしまったようだ。
 学校を出てから十五分くらいしてからだとうか、彼女お話も次第にヒートアップしていた。
 と言っても、彼女が一人の盛り上がっているという感も否めなかったが、話の焦点はいつの間にか佳境に入ってきているようだった。
 一人で盛り上がっている状態だったので、目のやりどころに窮していた。男の子の方を見るなど論外だったので、リーダーの様子ばかりを気にしていた。
 するとどうだろう。学校を出てから十分を過ぎたくらいから、リーダーの視線が男の子に集中しているのが分かった。
 だが、それはただ見つめているというだけではないような気がして、最初はその視線が何を意味しているのかよく分からなかった。
 分からなかったからこそ、敦子はリーダーから目が離せなくなり、彼女の視線の先にいる男の子の様子も交互に見ながら、自分が何を意識してしまったのか、頭の中を整理していた。
――彼女の視線は、何かを心配しているように見えるけど、視線の先の彼は普段とどこが違うというのだろう?
 と敦子は考えた。
 よく見ると、少し顔色が悪くなっているようにも思えた。最初は真っ赤な顔に見えていたものが、いつの間にか土色に変化しているようで、まるでモノクロの映像を見ているかのようだった。
――どうしたんだろう? 気分でも悪いのかな?
 と思ったが、表情に変わりはないようだった。
 だが、交互に見たリーダーの顔色が急に変わり、
「あっ」
 という声を発したかと思うと、その視線の延長上で、男の子が崩れかかっているのが見えた。
 その様子はまるでスローモーションのように見え、テレビドラマのワンシーンを思い起こさせた。だが、その顔は苦悶に歪んでいるという様子ではなく、無表情のまま、倒れこんでいるのだ。
――苦しくないのかしら?
 と最初に感じたが、状況は尋常ではなかったのだ。
 後の二人も最初は状況を把握できていなかったのか、何が起こったのか分からない様子だった。
――二人も一緒なんだ――
 と思ったが、それも一瞬だった。
 二人とも最初は何をどうしていいのか分からず、震えているようだった。だが、少しすると、二人は顔を見合わせて頷いた。その時に意を決したかのようだった。
「救急車、救急車を呼んで」
 とリーダーがいうと、
「分かった」
 と言って、もう一人が少し離れたところからスマホで救急車の手配をしている。
 相手からいろいろ聞かれているのだろう。手振りを交えながら説明している姿は、冷静そのものであった。
 リーダーはというと、彼の顔を覗き込み、
「大丈夫? しっかりして」
 と、大きな声で話しかけている。
――彼女がこんなに大きな声を出しているのを初めて聞いたわ――
 と思うほどの音量で、音量もさることながら、声には重低音を感じさせることで、声がこの狭い範囲であれば、これ以上ないと言えるほどのインパクトの強い声に聞こえた。
――どうやら二人にはこの状況が理解できているようだわ――
 と敦子は感じた。
 二人の様子を見ているだけで何もできない敦子は、右往左往するだけだった。二人はそれぞれの役割をしっかり分かっていて、それに伴ってやっている。まるで敦子の存在が目の前から消えてしまったかのようにさえ思えた。
作品名:作家の堂々巡り 作家名:森本晃次