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作家の堂々巡り

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 敦子は面食いというわけではないが、理想が高いというわけでない。自分では好きになる相手は平凡でどこにでもいる相手だと思ってはいたが、こだわりがないわけではない。一口に、
「どんな相手が好みなのか?」
 と聞かれると返答に困るが、一見平凡そうに見える相手で、ふとしたことでハッとさせられる人が気になるというくらいにしか答えられないだろう。
 目立ちたがり屋だった頃のことを思い出すと、今でも顔が真っ赤になるくらいの恥ずかしさがあるが、別に目立ちたがり屋が悪いと思っているわけではない。目立ちたいと思って、ただ闇雲に人の前に出ようとすると、
「出る杭は打たれる」
 という言葉そのままのパターンに嵌ってしまったことが恥ずかしいのだ。
「人と同じでは嫌だ」
 という考えを持っていることから、いわゆる「パターン」に嵌ってしまうというのは嫌だった。
 しかも、パターンに嵌ってしまった理由が闇雲に動いてしまったというところにあるのだということを後になって分かったということが恥ずかしいのだ。
 本当は恥ずかしいわけではなく、悔しいと思っているのだろうが、敦子は悔しさよりも恥ずかしさの方が頭の中に強く残っている。
 目立ちたがり屋であった時、表に出ようという意識を強く持っていて、その時に恥ずかしさが頂点に達した時があった。それはきっと自分が目立ちたがり屋であったということを一番意識した時であり、そのことから、悔しさではなく恥ずかしさが前面に出てくるという意識を持つようになったのだろう。
 そのエピソードがあったのは、中学二年生の頃だっただろうか。敦子は大きなグループに入っていたわけではなく、四人の仲良しグループに入っていた。
 どうしてそのグループに入ったのかを今思い出そうとしたが、そのきっかけは思い出すことはできない。きっかけなどというのは後で思い出そうとしてもピンポイントで思い出すことはできないものなのだろう。
 そのグループの中に一人男の子が混じっていた。女性三人に男性一人という少し不思議な組み合わせだった。
 もし、その男の子が輪の中心で、前面に出ているのであれば、それほど不思議な組み合わせだと思わなかったかも知れない。ただこれも後から客観的に見てそう思うだけで、あの時に客観的に見ることができていればどうだったのか、想像することはできなかった。
 輪の中心には、一人の女の子がいた。元々クラスでも目立っている子で、生まれつきのリーダーシップを持った子だったような気がする。実際にクラスでの発言力もあり、彼女の一声で決まったこともいくつかあった。ディスカッションの場で、ある程度まわりに意見を出させて、最後にそれをまとめるというやり方に長けていて、正直自分から意見を出す方ではなかったが、そういう意味でのリーダーシップが生まれつきのものではないかと思ったのだろう。
 敦子はそのグループの中では、さすがにリーダーにはかなわないとは思いながらも、どこかでリーダーへの野望を虎視眈々と狙っていたのではないかと思っている。
――せめてグループ内のことはすべて知っている――
 という自負すらあった。
 グループ内でなるべく内緒ごとはしないようにしようという暗黙の了解があった。だからこその少人数のグループなのであって、個人同士の結びつきが深くなるのは抑えることはできないが、グループの調和を乱すような二人だけの秘密は持たないようにしなければいけないというのは、当然のルールなのだろうと、敦子は考えていた。
 輪の中にいた男の子は、どこか女性的なところがあり、それがグループへの参加に対して障害がなかった理由なのかも知れない。ひ弱に見える外見もそうだが、性格的にも女性を彷彿させる感じがあった。
 ナヨナヨしている印象は、他の三人にそれぞれ別のイメージを植え付けていたよyだ。
 リーダーの女の子から見れば、まるで妹のようなイメージに見えていたようで、彼が一番頼りにしているのも彼女だった。
 もう一人の女の子は、彼のことを完全に下に見ているのが伺えた。まるで奴隷のように扱っているようにも見えたが、不思議とそれをリーダーの彼女がいさめるようなことはしない。分かっているはずなのに見て見ぬふりをしているように思えて仕方がないが、リーダーともう一人の女の子との間に時々アイコンタクトがあることから、何かの理由があったのではないかとは思ったが、その理由はハッキリと分からなかった。
 敦子はというと、彼のことをどちらかというと遠ざけていた。彼が最後にグループに参加してきたのだが、それまでの女の子三人での関係は、正三角形をイメージできるほど、それぞれの距離は均等だった。それなのに、その男の子が入っただけで関係性は微妙に歪になっていき、敦子は他の二人の女の子とも微妙な距離感になってしまっていた。
 遠ざけていた彼も、敦子を見ようとはしなかった。自分を奴隷のような扱いをしているもう一人の女の子に対してよりも、敦子に対しての距離の方が遠いように感じたのは、なぜなのだろう?
――他の二人との距離が微妙になったからなのかしら?
 と敦子は考えた。
 四人の距離感としては、それぞれ歪な距離感ではあるが、その歪さに色を添えてしまったのは、敦子の存在であろう。
――私がこの団体の中にいなければ、他の三人は正三角形を描いているのだろうか?
 と思ったが、女性二人の彼への対応を考えると、それはありえないように思えた。
 では、元凶は彼にあるのだろうか?
 敦子はその答えを見つけることを怖いと思った。彼の存在とグループ内の関係を考えていると、結び付きからメンバーの関係を考えるのは、少し違っているように思えていた。
 その理由は、自分もグループ内に所属しているからであって、どんなに努力しても、まわりから見る客観的な目を持つことはできないと思ったからだ。
 その男の子の存在は、グループ内に微妙な距離感を与えたが、だからと言って、亀裂をもたらすほどのものではなかったような気がする。もし亀裂が発生するとするならば、どこかの一点が障害を起こすことを理由とするだろう。その障害はあくまでも精神的なものであって、具体的なものや肉体的なものではないだろうと思っていた。
 そういう意味では一番危ないのは自分だと敦子は思った。他の二人に若干の違和感を覚えていた。最後に入ってきた男の子に対しても、分からないことだらけで、そんな彼を他の二人がどれほど分かっているのかということを考えると、ふと自分が何を考えているのかハッとしてしまうのであった。
 ある日のこと、男の子を含めた四人で下校した時のことだった。敦子は下校時間があまり好きではない。というよりも、四人が揃っているところを見られたくないという思いからなのか、いや、実際には自分の近くにその男の子がいるというのを知らない人に見られることが嫌だったような気がした。
 学校内であれば皆知っているだろうし、何よりも皆同年代なので、それほど気にもならないが、学校を出てしまうと、出会うのは不特定多数の様々な年代の人たちだ。それを思うと、出会う人びとがどんな目で自分たちを見ているかと思うと、少し怖い気がした。
作品名:作家の堂々巡り 作家名:森本晃次