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作家の堂々巡り

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 だが、相手にも敦子と同じ立場と思しき人がいた。彼は何も話そうとせず、その場を持て余しているようだった。最初に話しかけたのは敦子の方で、最初はお互いに手探りの会話だったが、話題が読書の話に及んで、俄然スイッチが入ったのが、彼の方だった。
 敦子は、彼が自分の話題に乗ってきてくれたことが嬉しく、普段であれば引かれてしまいそうな話題をしていた。もし彼が引いてしまえばそれでもいいという考えからである。
 だが、彼はその話題に乗ってきた。それどころか自分の考えを惜しげもなく話してくる。それでも彼は決して相手の話を制して自分から口を開いたり、強引な話をするわけではなかった。そこは大人の対応を思わせ、
――この人、思っていたよりも饒舌で、その割に人に気を遣うことも忘れない人なんだわ――
 と感じた。
 彼の話は、基本的に敦子に話題を振る形で、敦子が意見を言うと、それに対して自分の意見を口にするというやり方だ。話をしていて、最初は彼の話にハッとするところがなく、淡々と進んでいく中で、それでも次第に深く話が入ってくることを相手に意識させることもなく、気が付けば敦子に自分がハッとするような意見を口にするように仕向けるというやり方は、その時は感じなかったが、後になって感心させられ、
「この人とだったら、お友達以上になれるかも知れないわ」
 と感じさせた。
 彼の名前は、新田弘和と言った。普段は何をしている人なのか、そこまでは聞いていなかったが、別に結婚を前提に考えているわけではないので、そこまで詳しく知る必要はないと思った。
 敦子も彼に対して自分のことを必要以上な情報を与えていない。
――お互いに言いたくなったら言えばいいんだわ――
 と思うだけだった。
 新田弘和と知り合ってまだそんなに日が経っているわけではないので、合コンの日からまだ会っていないが、連絡だけは取りあっている。
 お互いに他愛もない連絡が多く、それだけを見れば普通の友達なのか、これから恋人に発展するかも知れないという程度の友達なのかという内容だ。
――やはりあの人との話は、会ってからする話なんだわ――
 と、その時の話が重厚だったのを思い出していた。
 話が重厚だったと感じたのは、その日彼と別れてから初めて感じたもので、それから次第に重厚さが思い出すたびに深まって行った。しかも、彼との話を思い出す時、時系列に微妙な誤差が感じられた。後になって思い出すのに、前に思い出した時よりも、ごく最近だったという感覚である。
――これもまるで夢の感覚に似ているのかも知れないわね――
 というものだった。
 さらに彼の話を思い出す時には何かの共通点があるようで、
「共通点がある」
 という意識はあるのだが、その共通点がどういうものなのか自分で分かっていない。
 この日、彼との話を思い出したということは、その共通点に沿ってのことなのだろうが、やはりその理由は分からなかった。
 人との話に後からジワジワ何かを感じさせることはおろか、人の話にインパクトを感じるということもほとんどなかった。
 元々、人と話をすることが少なく、会話をする機会があったとしても、自分も話に参加することはあまりなかった。つまりは一対一で話をすることはほとんどなく、たくさんいる中で端の方に一人ポツンというのが多かった。
 だが、そもそもの敦子は目立ちたがりな性格だった。人と会話になったとしても、すぐに目立とうとして自分の意見を最初に言おうとするところがあった。そんな敦子が人と会話をしなくなったのは、高校生になってからのことだろうか。急にまわりが敦子に冷めた目で見るようになったのだ。
 思春期の敦子は、一時期だけであるが、
「箸が転んでもおかしい」
 と言われるような笑い上戸だった。
 一度笑いのツボに入ってしまうと、はらわたが捩れるくらいに笑いが止まらなくなるのだが、その様子をまわりが冷めた目で見ていることに思春期の敦子は分かっていなかった。高校生になり、思春期を通り過ぎるとまわりの視線が急に気になるようになり、それまで感じたことのなかった冷めた視線に怯えを感じるようになった。
 その時に感じた怯えであるが、いきなり怯えを感じたのだ。その怯えがどこから来ているのかが分かるわけもなく、敦子は戸惑っていた。怯えがいきなりやってきたにも関わらず、その理由に関しては、徐々に分かってきたのだ。
「こんなにじれったいものなんだ」
 と敦子は思ったが、その理由が分かるわけもなかった。
 理由を考えてみようという気にもならなかった。
 そのせいで、次第に人との会話が少なくなり、しかも高校時代というと、まわり全体が異様な雰囲気にあり、中学時代から相変わらず、青春トークに花を咲かせている人もいるが、ほとんどは会話をしなくなっていた。
 最初は自分の学校だけなのかも知れないと思っていたが、どうやら他の学校でも同じようである。それを知ったのは予備校に通い始めてからのことで、他の学校の人とであれば、同じ学校の人との間に生まれた違和感はないだろうと思った。
 だが、他の学校の生徒も同じで、逆にもっと露骨な雰囲気があった。
「大学受験という目標がしっかりした場所なので、皆がライバルという意識が強く、会話が成立するわけもない」
 というのが、正直なところであろう。
 敦子は、高校時代を後悔していた。
――もっといろいろな人と会話ができたかも知れないのに――
 という思いもあったが、それよりも、
――あの時にしかできない会話があったはずであり、その内容は自分にとって必要なことだった――
 という思いである。
 そう思うと、時間を戻すことができないという感覚をひしひしと感じた。
「青春は一度きり」
 などというベタなセリフを耳にすることがあったが、高校時代には、
――何をいまさらそんな当たり前のことを――
 という思いから、
「余計な事」
 という意識が強かった。
 だが、高校を卒業して、あれほど目標にしていた憧れの大学生活を始めると、思っていたのと若干違っていることに気が付いた。
 高校時代に考えていた大学生活では、
「まず第一に友達をたくさん作って、大学受験の勉強とは違う勉強を大学で思い切りするんだ」
 という思いがあった。
 実際に友達をたくさん作るという目標は達成したと思ったが、その友達の影響からか、それとも自分の意志の弱さから招いたことなのか、次の目標である大学の勉強に一生懸命になることはできなかった。遊びにかまけてしまい、やはり意志が弱かったのだろうということを、就活の段階になって気が付いた。
 第一の目標であった友達を作るというものも、本当の友達がたくさんできたわけではなく、自分だけが友達だと思っていただけで、実際には表面上の友達でしかなかったのだった。
 新田和弘とはその時だけの話だったが、彼は合コンには来ていたが、年齢的には微妙なところで、三十代後半、いや、ひょっとすると四十を超えていたかも知れない。
 もちろん、恋愛感情を持つわけでもなく、一応人数合わせというだけでの参加だったので、最初から男子を7目当てにきたわけでもなく、実際に恋愛対象になるような人もいなかった。
作品名:作家の堂々巡り 作家名:森本晃次