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意識が時間を左右する

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 目の前にいる綾香のことを放っておいて必死に考えているが、綾香から何ら言葉はない。綾香も自分なりに考えているのか、それとも、こんなにいろいろ考えているのだから時間はかなり経っているかのように思っているが、実際にはあっという間の出来事なのではないだろうかと思えた。
――待てよ。この時間の感覚というのは、夢を見ている感覚と同じではないか?
 と感じた。
 夢を見ている感覚、つまりは覚えていないが、ある時ふいに思い出すことができるいわゆる「デジャブ」のような現象は、夢の中の創造物なのではないかという、少し飛躍した思いに至るのだった。
 デジャブという現象に関してはいろいろ研究されているようだが、まだハッキリとした研究結果は出ていない。
 矢吹は個人的な考えではあるが、自分なりに考えていることがあった。
「デジャブとは、自分の中の記憶と意識の辻褄を合わせることだ」
 という思いであった。
 矢吹は大学時代に教師を目指した専攻した科目とは別に、工学にも興味があった。特にロボット工学と言われるものに興味を持って、一時期いろいろな本を読んだりしたものだった。
 そもそもロボット工学に興味を持ったのは、数十年くらい前に流行ったロボットアニメが原因である。
 あれはコンビニに寄った時のことだった。元々そのアニメには少し興味はあったが、他のアニメと別に遜色をつける気はなく、対等の目で見ていたのだが、そのアニメの現ザク本が、コンビニ限定として売られていたのを見たのだ。
「ほう、懐かしいな」
 と思って手に取って中を開いてみた。
 ちょうど目次の次のページに、登場人物のあらましが書いてあったのだが、その前に見慣れないものが目に写った。そこには、
「ロボット工学三原則」
 という言葉が書かれていて、三条からなる規則が書かれていたのだ。
 いつもなら気にも留めないのだが、その日はつい気になって、その本を買って帰った。家で開いて見てみたが、アニメ化した内容とは若干の違いがあって、原作のよさを改めて知ったような気がして、一気にその日のうちに読んでしまった。
 ロボット工学三原則というのは、ロボットが開発された時、ロボットが守らなければいけない三つの原則のことである。これは学術的に研究されて提唱されたものではなく、あるSF作家によって、小説のプロットとして書かれたものだった。それが今ではロボット開発のバイブルのようになり、その後発表された小説や漫画、映画やアニメと言った映像作品に大きな影響を与えたのだ。
 そもそもこの三原則というのは、ロボットのためのものではない。あくまでも、
「ロボットを取り扱う人間」
 のためのものである。
 人間よりも優秀で強力なロボットなのだから、取り扱いを間違えると大変なことになる。昔から言われている、
「フランケンシュタイン症候群」
 と言われるものだ。
 ロボットが暴走して人間を襲ったり、破壊したりしては、人間の役に立つために作られたロボットなので、本末転倒というわけだ。そのために人間を守るための三原則をロボットに覚えさせることが必須となるのだ。
 まずは、人間に危害を加えない。そして人間の命令には服従する。そして自分の身は自分で守らなければならないという三原則だ。そしてこの三原則には厳密な優先順位がもお受けられていて、先ほどの順番は優先度が高い順に並んでいるというわけだ。つまりはいくら人間の命令に服従しなければいけないと言っても、それが人間に危害を加える命令であれば、聞く必要はない。聞いてはいけないのだ。そして第三条の自分の身は自分で間おらなければいけないという条文であるが、これも人間のエゴから生まれたもので、ロボットを開発するにもお金がかかる。いくら人間の命令だからとはいえ、理不尽に自分を壊すような命令を聞く必要はないという理論になる。
「ロボットのことを思って」
 という考えではなく、あくまでも主権は人間にあるのだ。
 買ってきたマンガはまさしくロボットを取り扱ったマンガで、人間に危害を加えようとする悪の結社から科学者を救うのだが、救った科学者の中に、自分のことだけしか考えずに開発を行っている人がいた。その男はロボットとは関係のないところで、人間を大量殺戮を企む研究をしていた。
 そのことは誰も知らなかったのだが、その秘密を隠しておくために、自分たちを救ってくれた主人公であるロボットの体内に殺戮兵器の設計図を埋め込んだ。
 主人公のロボットは、まさか自分の中にそんなものが隠されているなど知る由もなかった。あくまでもその科学者を、
「善意の科学者」
 として尊敬もしているし、自分が彼を守らなければいけないという使命感にも満ちていた。
 ある日から、その科学者が正体不明の敵から狙われるようになる。それを必死で主人公のロボットは守るのだが、実はそれは自作自演で、秘密結社は自分を殺すつもりなどなく、主人公のロボットが本当にいざという時に守ってくれるかどうかを試していたのだ。
 それは、科学者の中で、
「自分が狙われている」
 という思いが強く、本当に守ってくれるのかどうか、試してみる必要があったからだ。
 大量殺戮兵器はまもなく完成する予定だった。売却の先も決まっていた。国家ぐるみで世界征服を目論見ているところに協力しようというのだ。
 彼が大量殺戮兵器を作ったのは、お金のためでも名声のためでもない。もちろん多額の報酬は受けとるだろうが、金に目がくらんだわけではない。名声に関しても、決してこの開発が表に出てはいけないということなので、名声を得ることに繋がるはずもない。
 果たして大量殺戮兵器は完成した。彼はそれを納品したのだが、そうなってしまうと、彼はもう国家にとっては、
「用済み」
 なのだ。
 実は、彼もそれを分かっていた。分かっていたので、実際に納品した兵器は受注を受けたものとは比べ物にならないほど脆弱なもので、大量殺戮という言葉には程遠いものだった。
 お互いに、
「キツネとタヌキの化かしあい」
 と言わんばかりのもので、科学者とすれば、本当は保険のつもりでわざと完成させなかったのだが、それが遠回しに大量殺戮を防止することにもなった。
 その兵器を使ったら最後、殺傷能力は最低ではあるが、国際法規での禁止された兵器であることは歴然であった。そのため、全世界から避難を受け、国家としての名声は地に落ち、その後の国家運営に致命的な打撃を与えることになるだろう。彼はそこまで計算していたのだ。
 ただ、社会情勢から見ても、その兵器を使うのはあくまでも最後である、
「これは最終兵器」
 として、くれぐれも取り扱いには注意するようにと促していた。
 だから、自分は安全だと思っていたのだ。
 保険まで掛けたはずなのに、納品してからすぐにこちらが襲われることになるとは、思っていなかった。いろいろと気を遣って事前の策を巡らせていたにも関わらず、納品してからすぐに自分が襲われるという事態に関しては、なぜか想像していなかった。
――なんでこんな簡単に分かるようなことを、思いつきもしなかったんだろう?
 彼ほど頭がよく、事前にいろいろと工作できたはずの彼なのに、肝心なところが抜けていた。
作品名:意識が時間を左右する 作家名:森本晃次