粧説帝国銀行事件
父はバッグの口を開けて中が見えるようにした。鶏卵大の黒い玉ころがギッシリと詰められている。
「それ、全部タドンなの? またずいぶんな量ね」
「ソレワナンデスカ?」
とエリー。父は、
「タドンだ。今その炬燵に入れるところを見せてやろう」
「やめてよお父さん」
「何を言ってる。これだけあるんだ。ケチケチしないで四つくらい……」
母が、「ふたつで充分でしょう」
「四つだ」
「ふたつで充分よ」
「わからない女だな。この平沢大璋が四つと言ったら四つなんだ」
「何がヒラサワタイショウよ」
「まあ見とけって。すぐにもあの家、また工事を始めさせてやるからな。拾萬圓の絵を描く仕事が入ったんだ」
「またいつもの法螺が始まる」
「今度は本当だ」
言って炬燵の布団をめくり、中の火皿を取り出した。熱を放って赤く光る炭団(たどん)がいくつか納まっている。
それが炭の粉を固めて燃料としたものなのはエリーも見てすぐわかったようだ。父が火玉を補給して皿を炬燵に戻すのを興味深そうに眺めていた。