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粧説帝国銀行事件

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平沢はついていくしかない。三トラはふたりの手前にまで来ると車体を大きく傾けて、横転しそうになりながらグルリと方向転換した。道の左右にぶつかって、ガリガリと塀に身を擦らせながら荷台をこちらに向けて停まる。
 
その上にまた男がひとり、振り落とされそうになりながら乗っかっていた。何か持ち上げて体の前へ。
 
それがダダダダッという音とともに火を噴いた。戦争中に短機関銃などと呼ばれて使われたものに違いない。
 
それを連射でぶっぱなしたのだ。人に向けたものでなく威嚇とわかる撃ち方だったが、平沢を追ってこようとした群れがたまらず止まる気配を背中に感じる。
 
「乗れ!」
 
と小型拳銃の男。荷台の上から連射男が手を伸ばしてくる。平沢はそれに掴まった。
 
引っ張り上げられる。拳銃男は銃を荷台に投げ込んでから自分で乗り上がってきた。
 
三トラはふたりが乗り切るのを待たずに発進。排気ガスの白い煙を噴きながら速度を上げて走り出す。
 
狭い荷台は三人が乗ればもうギュウ詰めだった。と、その時だ。バンと大きな音とともにフロントガラスに蜘蛛の巣状のヒビが入った。
 
銃撃だ。あのバカでかい拳銃の男が威嚇でなく当てるつもりで撃ってきたのだ。この三輪の運転席と荷台の間は格子状の木枠があるだけのほぼ素通しとなっているが、後ろから来た弾丸がその木枠の間を抜けて正面の窓をブチ抜いたのだった。
 
その銃弾が人に当たらなかったのはほとんど奇跡といえるかもしれない。運転手がたまげて車体を左右に揺らし、荷台の三人は身を揺すぶられた。またバンバンと銃声が聞こえ、あの男がこちらにめがけ撃ち続けているのがわかった。
 
ブン屋らもまたフラッシュを焚いて写真を撮っているのも見える。そして「野郎! 戻ってこーい!」と叫ぶ百人の声。しかし弾丸はもう当たらず、三輪トラックは角を曲がって路地も群衆も見えなくなった。
 
それでどうにか窮地は脱したようだった。平沢は「いやあどうも」と笑って言ったが、
 
「礼を言うのは早い」
 
と拳銃男は言い、荷台の小型蓮根を拾って先を突きつけてきた。
 
「訊くことがあるから救けたんだ。あんたが帝銀の犯人だよな」
 
「い、いえ。何を言うんですか」
 
首を振り愛想笑いをして見せたが拳銃男は、
 
「違うのか? なら用は無い。こいつで撃つか今その道に蹴り落とす」
作品名:粧説帝国銀行事件 作家名:島田信之