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粧説帝国銀行事件

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内心の興奮を隠しながら古橋が訊くと、
 
「後でたまたま知ったんですが、その人は去年の夏に死んでるんです。絵の依頼などするわけないし、今年に電報打つなんて有り得ない」
 
「なんですって?」
 
電報局に行き調べてみると、瞭子が言う頼信紙が確かに出てきた。筆跡も平沢の字に違いなさそうだった。死人が電信を頼むわけがないのだからこれは偽装電報だ。
 
平沢は事件直後に被害と同額の大金を手にし、うち捌萬を偽名で預金し、残り拾萬を出所の偽装を施したうえで家族に見せていた――これはまさに原爆級の情報であり、どこの国の裁判に出しても有罪の判決が獲れるだろう決定的な証拠と言えた。古橋が掴んだこのネタが、裁判所が逮捕状を出したいちばんの理由になったのだ。
 
まずは自分ら名刺班の勝利だった。だがそのために古橋は、平沢の逮捕の前にひとつ瞭子に約束せねばならなくなった。
 
守ることはできない約束。だから守る気のない約束を。そして反故(ほご)にしてそれっきり、今の今まで忘れていた。
 
その結果が目の前にいて自分をなじる。古橋はその面(おもて)を何も言えずにただ見返すしかなかった。
作品名:粧説帝国銀行事件 作家名:島田信之