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粧説帝国銀行事件

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〈プレスカメラ〉というのだろう。アメリカ製の〈スピードグラフィック〉というやつか、その類似品のまるで楽器のアコーデオンのように見える蛇腹の化け物だ。横にこれまたばかでっかいフラッシュガンが付いていて、そいつが光を放つとともに電球(バルブ)の中のマグネシウムがボンと燃える音を鳴らす。

それが3つ。そしてフィルムと電球を替えてまた写真を撮ろうとする。

それでわかった。こいつらブン屋だ。新聞か雑誌のカメラマンが、おれを撮るため便所小屋の中に隠れ潜んでいやがったのだと。

そして今、撮られてしまった。行李を背負って塀を乗り越えようとしている自分の姿をこの3人に――。

思ったがすぐ、『違う』と気づいた。その3人だけでない。庭のあちらこちらから、手に手に大きなカメラを持った者らが飛び出しこちらに向かってくる。

その数、10人かそれ以上。そしてバチバチとシャッターを切った。そのたびフラッシュバルブが光り、ボンボンという音がする。あまりのことに平沢は気が動転し、塀の上から転げ落ちた。



作品名:粧説帝国銀行事件 作家名:島田信之