小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

短編集74(過去作品)

INDEX|12ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

 女は間違いなく私のタイプである。好きになったと思っても間違いではないだろう。
 だが……、何か釈然としない思いがあったのも事実で、部屋に入るなり、私は彼女を抱きしめ、唇を塞いだ。
 彼女のあどけない表情が一瞬歪んだようで、カッと目を見開いたが、すぐにとろけるように目を閉じていた。
 その表情が私にはたまらなく、目を閉じることもなくじっと見ていたが、いきなりの行動が私の釈然としない気持ちの裏返しであり、さらには照れ隠しであることを、彼女に知られたくなかったからだ。
 そんな私の気持ちを知ってか知らずか、いや、私が初めてかどうか知っていたのか、後になっても謎だった。強く抱きしめながら、
「かわいいよ」
 という言葉を連発していたが、それに対して彼女は頷くばかりで、返事は一切返ってこなかった。このような場面で、言葉などまったくいらないのだろう。
 そのことを彼女は分かっている。それだけでも、彼女が初めてでないことは分かっていた。
「シャワーを浴びてらして」
 その一言がなければ、唇を塞いだまま、どうしていいか分からなかっただろう。彼女が助け舟を出してくれたのだ。
「ああ、じゃあ、行ってくるよ」
 脱衣場の明かりを暗めにしていたが、ベッドルームからは見えていたことだろう。私がシャワーから上がって、今度は彼女が脱衣場に入った時にそのことを感じたが、さすがに恥ずかしかった。
――綺麗だ――
 初めて見る女性の裸体、私の目は釘付けになる。まるでそのすべてがたった今から私のものだとまで思ってしまった私に、彼女はどう感じていただろう。初めての時にはみんな同じことを感じるのだろうか?
 人のことを気にするようになったということは、少し気持ちに余裕が出てきたようだ。ベッドに入ると、火照った身体に、さらに焼きつくような女の肌が絡みついてくる。汗を掻いているわけでもなく、それだけ、きめ細かな肌を感じることができるのだ。
「ああ」
 自然と口から漏れてくる甘い声に耳を傾けながら抱いていると、まるで他人事のように思えるもう一人の自分の存在に気づく。
――本当に私なのだろうか――
 ベッドの中の自分に感じることだ。
 カサカサしたシーツが最初は痛いとまで感じていたが、次第に気持ちよさに変わってくる。きめ細かな肌が吸い付いてくるのを感じるのもカサカサなシーツを感じるからだ。
 どれくらいの間、ただ抱き合っていただけなのだろう?
 私の胸の鼓動を、彼女も感じていたはずだ。私にも彼女の痛いほどの鼓動を感じることができる。
――私に感じてくれているんだ――
 と思っただけで、嬉しかった。
 最高潮に盛り上がった感情を吐き出した時、それまでの感覚はすべてなくなり、身体が宙に浮くような感覚があった。
――これが初体験というものなんだ――
 意外と感じる味気なさに、少しがっかりもしたが、
――こんなものなんだ――
 という思いがあったのも事実だ。ベッドのカサカサに違和感を感じ始め、睡魔が襲ってくるのも感じていた。
 しかし、その日の私が変だったのか、元々、その気があったのか、それだけで終わる気がしなかった。
 ゆっくりと身体のだるさを回復させながら、隣で軽い寝息を立てている彼女を見ていた。とても可愛らしく、この顔を見るために抱いたのだと思うと、男として嬉しくて仕方がない。ここまでの思いは、きっと女を抱いた男が皆感じることだと思う。
――この顔が見たくて女性を抱くのだ――
 と思えば、倦怠感の間の虚しさも緩和されるに違いない。
 確かに私の横で寝ている彼女の顔は幸せそうだ。しかし、私の中に残った虚しさは、倦怠感だけではないような気がする。
――何かが足りない――
 初体験で、今まで感じていた思いとの違いが、そのままギャップとして残ったにしては、物足りなさが違うように思う。この場でそのギャップを埋められそうな気がするのだが、それが何か分からなかった。そして、ギャップを埋めることが何となく怖いと感じているのも事実で、言い知れぬ不安に襲われているといっても過言ではない。
 私の中で燻ぶっていた何かが、燃え出しそうな予感があった。それは女を征服したような気持ちになりながら満たされない気持ち、そこに起縁しているように思う。
「ムニュムニュ……」
 何か寝言のような声が聞こえた。スヤスヤと寝ている彼女は夢を見ているようだ。だが、その時に聞いたハッキリしない寝言がどうやら男の名前のようなのを……、私は聞き逃さなかった。
 彼女が男の名前を呼んだことに最初はそれほど何も感じなかったのだが、その表情に恍惚さは浮かんだ時、ハッキリと私の中で嫉妬のようなものが芽生えたように思えた。
「おい」
 思わず声を出してみたが、かなりの熟睡をしているようで、起きる様子がない。
 かぶっているシーツをのけると、生まれたままの恰好の女が私の横にいると思うと、ドキドキというよりも、ゾクゾクしたものを感じた。寝顔が可愛いだけに、ギャップを感じ、それだけ身体がまるで芸術作品のように思えてしまう。
 思わず指で身体のラインを撫でてみる。胸から腰にかけての括れたラインを感じながら撫でていると、熟睡しているにも関わらず身体がピクピクと反応するではないか。私はまるで子供のようにはしゃいだ気持ちになり、嬉しくなった。なぜ子供のような無邪気さなのか自分でも分からないが、それが「悪戯心」になってしまったことは否定できない。
 指で乳首をつねってみる。
「うっ」
 身体が敏感に反応して、声が漏れた。しかし起きる雰囲気ではない。わたしは気をよくして、さらに胸をわしづかみにする。彼女の身体がさらに反応する。
 何とも言えない気持ちになっていた。きっと顔はいやらしく歪んでいたかも知れない。女の身体に悪戯していることへの快感が溢れてくる。女は起きないのか、それとも寝ているフリをしているのか、身体の反応だけは本当のようだ。
「痛っ」
 私の悪戯に力がこもってきて、身体のあちこちに痣ができるのではないかと思えてきた時、彼女は明らかに目を覚まし始めていた。
「何なの? これは」
 さすがに驚いている。私のことを、初体験を済ませたばかりの男性だと思って、完全に安心していたのかも知れない。その驚き方は、目をカッと見開いくほどのもので、最初はそれが何に対する驚きなのか、分からなかった。
 てっきり私の行動そのものに対するものだと思っていたが、慣れて来たのか、彼女の表情がオンナの顔に変わっていく。とにかく驚きは初めてだった私の豹変へのものだったようだ。
「あなたにも、そんなところがあったのね」
 そう言って唇から妖艶さを滲み出させるように微笑んでいる。その言葉の意味を理解しようとした時、すでに、オンナは私の手を掴んで、胸をさらに強く掴ませた。
「私もなのよ、嬉しいわ。もっとしてくださいな」
 完全に主導権はオンナにあるにも関わらず、オンナは、従順になりたがっている。
 これが私の中にある異常性欲だと気づいたのは、それからしばらくしてからだった。彼女とはその日が最初で最後になったのだが、それは、彼女が臨んだことだった。
作品名:短編集74(過去作品) 作家名:森本晃次