小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

短編集74(過去作品)

INDEX|11ページ/23ページ|

次のページ前のページ
 

「心配ないさ。高校を卒業すれば大人なんだからね」
 その言葉に両親は、それなりにまだ心配しているようだったが、祖母はすっかり信じてくれていたようだ。いざ入学を控えた頃になると、両親も心配はしていただろうが、あまり顔に出すこともなくなって、
「がんばってくるんだぞ」
 と握手と笑顔で送り出してくれたが、いざとなって感涙にその場で崩れそうになった祖母を見た時は、さすがに私も思わずホロッと、感情的な気持ちになったものだ。しかし、何よりも一番一人暮らしで喜んだのは、祖母から離れて精神的に独立できると思ったからだ。その頃には自分が「おばあちゃん子」だったことを、頭で理解していたのだ。
 もちろん小さい頃からその意識はあった。しかし本当に「おばあちゃん子」だと感じたのは、
――真剣に祖母から離れない限り、私は永久に「おばあちゃん子」を脱却できない――
 という思いを感じた時であった。
――私にとっての祖母――
 という思いとは別に、
――祖母にとっての私――
 という思いまで、一緒に考えられるようになった私が出した結論でもある。「親離れ、子離れ」と言う言葉を、祖母に当て嵌めればいいことだ。しかもそのすべては、一人暮らしを始めて感じたことなのだ。やはり思い切って一人暮らしを考えてみてよかったに違いない。
 六畳一間で、簡単な台所に、風呂トイレのついたアパート、最初見た時は、
――なんと狭いところなんだろう――
 と感じた。旧家に育った私が始めて見た学生アパート、一瞬前途が真っ暗に感じたが、自分が選んだ道のスタートに後悔などできないという、固い意志もあった。まだまだ序の口なのだ。
 それからしばらくは、見るもの聞く者がすべて初めてな気がして、とても新鮮だった。すべてに感動があったが、それも少しの間だけだった。それからはあまり感動もなくなり、都会での一人暮らしに慣れてきた証拠だと思うようになったのだ。
 大学時代を都会で過ごし、その時に女性と初めて付き合ったりした。
 初体験も大学の卒業まであとわずかという時で、皆からくらべて遅い方だと思っていたが、意外とまわりは皆まだ済ませていなかったりした。
「驚いたな。皆まだなんだ」
「きっとそんな連中が集まるようにできているんだよ。世の中って」
 といっていたやつも、その時はまだ未経験だった。
 私の初体験も偶然のようなものだった。付き合っていた女性と、なるようにして身体を重ねたわけではない。合コンで知り合った女性と意気投合し、気がつけば気分が盛り上がっていた。
――酒の勢いって、恐ろしいな――
 と初めて感じたのがその時だったように思う。
 元々アルコールの弱い私は、泥酔までいくはずもない。チビリチビリ呑みながら人の話をボンヤリと聞いていたが、その時に一人、私と同じように端の方で同じようにチビリチビリやっていた女性がいたのだ。
「なかなか雰囲気に馴染めなくて、あなたはどうですか?」
 これが最初に話しかけた言葉だった。この言葉にしても、かなり迷った上のことで、相手もキョトンとしていた。
――しまった――
 心でそう叫び。声を掛けたことを後悔し始めたその時、
「そうですね。あなたは真面目そうだから、余計にそう感じますわ」
 結構呑んでいるのか、ほんのりとアルコールが香ってくる。
 酒臭い雰囲気ではなく、汗が蒸発する時のように滲み出てくる仄かな香りである。
 その時はもちろん、下心などあるはずもなかった。ただ雰囲気にあぶれた者同士、話し相手になればいいと思っただけで、それでもあわやくば、ずっと話ができるような仲になれることを欲していた。
 酔っているせいか、それとも今までまともに女性を女性として見たことがなかっただけなのか、彼女がとても素敵に見えた。
――抱きたい――
 という衝動に駆られたことのない私だったが、別に聖人君子でもない。男と女の関係について知らないわけでもなく、想像すれば勝手に反応する。
 その時私は
――これは偶然なんだ――
 と思っていたかも知れない。このままずっと仲良くしていこうと思うならば、彼女に男としての本能を見せるべきではないと感じた。身体の奥から湧き出してくる欲望を果たして抑えることができるかどうか、それが一番の問題だったのだ。
 私にその欲望を抑えることはできなかった。相手も同じだっただろう。
 会場を後にして、二次会に行こうという連中を断って私は皆から別れた。そのまま行っていれば、きっと欲望がそのままストレスとなって、自分に襲い掛かるのが分かったからだ。
――彼女なら追いかけてきてくれるかも知れない――
 という希望があったのも事実だ。想像がつくのである。私の後ろから追いかけてきた彼女が私の背中にしがみつく姿が……。
 果たして私の予想は的中した。さすがに後ろからしがみついてくるようなことはなかったが、彼女が私の後ろを追いかけてくる。背中でそのことを感じている時が、とても素敵な時間だった。
 私は背中で気配を感じていたのだ。背中に神経を集中させ、私を見つめる目を探っていたに違いない。気配を感じ、少しだけ振り向くと、ゆっくりと私に近づいてくる彼女がいたのだ。
「どうしたんだい? 皆と一緒に行かなかったのかい?」
 先ほどの店で見せた楽しそうな雰囲気とは一変し、まるで借りてきたネコのように大人しい。
 彼女の右腕が私の左腕に滑り込まれる。
 私の肘が彼女の胸に当たっているのが分かる。彼女にも、もちろん分かっているはずなのだろうが、そんなことを口に出したりはしない。心地よさを感じながら下を向いている彼女の手が次第に下に下りてきて、私の手を握った。
 ぐっしょりと濡れた手は暖かく、汗でべっとりしているのだが、すぐに乾いてしまいそうにも思える。
 完全に酔いが醒めたと思っていたが、また酔いそうな気がしてきた。先ほどの仄かなアルコールの匂いに混じり、香水の甘い香りが漂っているのを感じる。まだ夜は寒く、少し降る絵を感じるのも、きっと酔いが醒め切っていないからかも知れない。
 私たちは自然とホテル街へと歩み出ていた。まさか、何の違和感もなく彼女がついてくるとは思ってもみなかった。わざとホテル街へと歩んでいったのに、それほど胸の高鳴りもない。自然と足が向いていたのだ。それにしても、あまり抵抗感を示さない彼女に、却って物足りなさを感じたほどだ。
――初めてじゃないような錯覚がある――
 自分に感じたことだ。もちろん、足を踏み入れたことのない地帯なのは間違いないが、見たことがある光景だと思えて仕方がない。確かにテレビドラマとかでは見ているが、きっと今までに数限りなく女性とここを歩いている想像を巡らせていたからだろう。妄想といってもいいかも知れない。
 そんな妄想が私には他にもある。
 いつも何かを考えている私は、自分にとって都合のよかったり、楽しいことばかりを妄想しているわけではない。元々猜疑心が強く、わがままな私は、人から飽きっぽいと見られているようだ。
 人一倍、初体験にはこだわりを持っていると自分では思っていた。少なくとも、なりゆきや、好きでもない人と済ませたくないと思っていた。しかし実際は、そのどちらでもなく、自然と向く足に身を任せていた。
作品名:短編集74(過去作品) 作家名:森本晃次