205号室にいる 探偵奇談23
颯馬(そうま)は、食堂で食券を求めて並んでいるところで瑞に出くわした。
「やっほー瑞くん」
「おす」
連休の一件以来だ。
「颯馬何食うの?今日俺は、カレーうどん」
「俺は日替わりランチにしようかなー」
そんな会話を交わす中で、颯馬は切り出してみた。
「三年の先輩が失踪したらしいよ、三人いっぺんに」
ああ、と気のない返事。
「よくわかんないけど、悪さしてたんだってな」
「ひどい動画撮ってたみたいよ。暇だよね」
券売機から釣銭を取り出しながら、ずばり尋ねる。
「瑞くん、なんか知ってる?」
颯馬の言葉にこちらを向いた彼は、すっと表情を消した。その目の奥の薄暗い光を感じ取り、颯馬は冷たいものを覚える。
「さあ、知らないけど」
表情のない顔に、すっと美しい笑みが浮かぶ。温度を感じさせないその笑顔を見て、颯馬は声が出せなかった。
「みーずー!」
遠くからクラスメイトに呼ばれて、彼はじゃあなと言い残して去った。
「どうした颯馬、そんなとこに突っ立って」
「あ、伊吹先輩…」
盆にチキン南蛮定食を載せた伊吹が、颯馬に気づいて足を止めた。
「…俺、ときどき瑞くんが怖い。本気モードの瑞くんと普通に付き合える伊吹先輩って、やっぱすごいよ」
「うん?何の話だ?」
伊吹はきょとんとしている。このひとほんと幸せ者だわ、と颯馬は苦笑した。
作品名:205号室にいる 探偵奇談23 作家名:ひなた眞白